第2話 罰
文字数 1,831文字
氷太朗は魄が蹴り飛ばされた方向に向かって跳んでいると、下方から何かが飛んできた。瓦礫だ。
空中で身体を捻り大きく回転し、瓦礫を躱す。そして着地をすると、丁度目の前に魄が立っており、対峙する形となった。
「GUUU……GAAAAAAAAAA‼」
「………」
獣のように牙を剥き、涎を垂れ流しながら吠える自分を見ているのは、決して気持ちの良いモノではない。反吐が出そうなくらい不愉快だ。正直に言って、目を背けたい。だが、そんな事を言っていられる段階ではもうない。
目の前の化け物を含む一連の不可解な事象の原因が『彼女』ならば――氷太朗はもう逃げてはいけない。
逃げずに、立ち向かわなければならない。
それが唯一の贖罪 である。
「ツケを払ってやる……ッ!」
先手を取ったのは氷太朗である。
神足通を用いて高速で懐に入り、前蹴りをする。凄まじいスピードだ――普通の人間ならば、対処できずに鳩尾を貫かれて死んでいただろう。だが、魄はそうはならなかった。咄嗟に掌で壁を作り、蹴りを受け止めた。やはり天眼通 による超人的な動体視力を得ているらしい。
氷太朗は、受け止められた脚を軸に、回転蹴りをする。これも、神足通によって強化されているので、強烈なスピードだ。しかし、これも躱された。
次は魄のターンであった。魄は氷太朗の足を持った手を大きく振り上げ、氷太朗を地面に叩きつけた。それも、一度だけではない。何度も何度も叩きつける。
そして、蹴り飛ばした。
「うわああああ……ッ!」
風に吹かれて砂漠を転がるタンブルウィードのように瓦礫の上を転がる氷太朗に――魄は、止めと言わんばかりに斬りかかった。
氷太朗は咄嗟に身体を起こして避けた。刃は完全に避けられたが、何故か肩が裂け、血が噴き出した。
「まさか……ッ!」
すぐに立ち上がった氷太朗は後ろにジャンプし、一旦距離をとる。それを魄は許さなかった――その場で顕明連 を横に振る。
いくら顕明連 が長いとは言え、刃から氷太朗までの距離は遠い。刃は当たるはずはない。けれども、氷太朗はすぐに上にジャンプした。すると、一瞬前まで氷太朗が居た場所の瓦礫が吹き飛んだ。
やはりそうか。
最初、刀から衝撃波や超音波の類が放たれているのか思った。しかし、よく見ると違う――顕明連 は刃を振る際、内に秘める妖力をエネルギーとして剣先から放出しているのだ。そのエネルギーがあらゆる物と物理的に干渉し、結果、顕明連 の剣先の延長線上にあるものはどれだけ距離があろうとも斬られる。
ということは――顕明連 相手に遠距離戦は不利だ。
だからと言って、近距離戦に持ち込んだ所で、魄の圧倒的パワーに捻じ伏せられる。
何か策を練らなければならない。
「どうすれば……」
地に立った氷太朗は脳を回転させる。勿論、敵が悠長に待ってくれるわけもなく――魄は間髪入れず、顕明連 を振った。距離なぞお構いなしの遠距離攻撃。
氷太朗は八艘飛びが如く、瓦礫から瓦礫へと飛び移りながら、エネルギーの塊を避ける。
接近する隙は、残念ながら無い。
やはり、顕明連 をどうにかしないと、前には進めないだろう。
しかし、どうすれば――
「いや、迷ってる暇はない」
氷太朗は着地をするや否や、腰に差していた脇差を投げた。大道芸の剣投げで磨かれた腕は流石のもので――脇差は一直線に魄に向かっていく。
魄は天眼通 でそれを見極め、顕明連 を大きく振り下ろした。
脇差は地面に叩き落される。
それで良い。
今は、顕明連 が振り下ろされる方が重要だ。
「喰らえ……ッ!」
氷太朗は先程同様、地面を蹴って一気に間合いに入りながら、前蹴りをした。
それを受けるのは魄――ではない。
顕明連 だ。
氷太朗は顕明連 を叩き折るつもりなのだ。
喉から手が出る程欲してた顕明連 を。
姉が血眼になって探し続けている顕明連 を。
キィィィィン‼
そんな鋭い金属音が鳴り響き――顕明連 の刃は砕けた。
「GIIII………AAAAAAAAAAAAAッ‼」
砕け散った顕明連 を見た魄は声を上げた。その姿は悔しがっているようにも、悲しがってるようにも見えたが――今の氷太朗にそれを汲み取る心の余裕などなかった。
「五月蠅いッ!」
氷太朗は背骨を軸に大きく身体を回転させ――回し蹴りを喰らわせた。
踵が魄のこめかみに接触した瞬間、反対側のこめかみが弾け、大量の血と小さな肉塊が勢いよく噴出した。
「AA……」
魄は紐を切られたマリオネットのように、力なくその場に倒れた。
空中で身体を捻り大きく回転し、瓦礫を躱す。そして着地をすると、丁度目の前に魄が立っており、対峙する形となった。
「GUUU……GAAAAAAAAAA‼」
「………」
獣のように牙を剥き、涎を垂れ流しながら吠える自分を見ているのは、決して気持ちの良いモノではない。反吐が出そうなくらい不愉快だ。正直に言って、目を背けたい。だが、そんな事を言っていられる段階ではもうない。
目の前の化け物を含む一連の不可解な事象の原因が『彼女』ならば――氷太朗はもう逃げてはいけない。
逃げずに、立ち向かわなければならない。
それが唯一の
「ツケを払ってやる……ッ!」
先手を取ったのは氷太朗である。
神足通を用いて高速で懐に入り、前蹴りをする。凄まじいスピードだ――普通の人間ならば、対処できずに鳩尾を貫かれて死んでいただろう。だが、魄はそうはならなかった。咄嗟に掌で壁を作り、蹴りを受け止めた。やはり
氷太朗は、受け止められた脚を軸に、回転蹴りをする。これも、神足通によって強化されているので、強烈なスピードだ。しかし、これも躱された。
次は魄のターンであった。魄は氷太朗の足を持った手を大きく振り上げ、氷太朗を地面に叩きつけた。それも、一度だけではない。何度も何度も叩きつける。
そして、蹴り飛ばした。
「うわああああ……ッ!」
風に吹かれて砂漠を転がるタンブルウィードのように瓦礫の上を転がる氷太朗に――魄は、止めと言わんばかりに斬りかかった。
氷太朗は咄嗟に身体を起こして避けた。刃は完全に避けられたが、何故か肩が裂け、血が噴き出した。
「まさか……ッ!」
すぐに立ち上がった氷太朗は後ろにジャンプし、一旦距離をとる。それを魄は許さなかった――その場で
いくら
やはりそうか。
最初、刀から衝撃波や超音波の類が放たれているのか思った。しかし、よく見ると違う――
ということは――
だからと言って、近距離戦に持ち込んだ所で、魄の圧倒的パワーに捻じ伏せられる。
何か策を練らなければならない。
「どうすれば……」
地に立った氷太朗は脳を回転させる。勿論、敵が悠長に待ってくれるわけもなく――魄は間髪入れず、
氷太朗は八艘飛びが如く、瓦礫から瓦礫へと飛び移りながら、エネルギーの塊を避ける。
接近する隙は、残念ながら無い。
やはり、
しかし、どうすれば――
「いや、迷ってる暇はない」
氷太朗は着地をするや否や、腰に差していた脇差を投げた。大道芸の剣投げで磨かれた腕は流石のもので――脇差は一直線に魄に向かっていく。
魄は
脇差は地面に叩き落される。
それで良い。
今は、
「喰らえ……ッ!」
氷太朗は先程同様、地面を蹴って一気に間合いに入りながら、前蹴りをした。
それを受けるのは魄――ではない。
氷太朗は
喉から手が出る程欲してた
姉が血眼になって探し続けている
キィィィィン‼
そんな鋭い金属音が鳴り響き――
「GIIII………AAAAAAAAAAAAAッ‼」
砕け散った
「五月蠅いッ!」
氷太朗は背骨を軸に大きく身体を回転させ――回し蹴りを喰らわせた。
踵が魄のこめかみに接触した瞬間、反対側のこめかみが弾け、大量の血と小さな肉塊が勢いよく噴出した。
「AA……」
魄は紐を切られたマリオネットのように、力なくその場に倒れた。