第2話
文字数 1,326文字
「部下のためにメニュー変更だなんて、チリル社長って本当に素敵ですねえ」
行くはずだった店へ電話を掛けると、オーナーシェフ自ら対応をしてくれた。
味はもちろんだが、ここはオーナー含め人柄が良い。上品だがほどよくカジュアルで、気取っていない雰囲気も気に入っている。
「当日にメニュー変更なんて無理を言ってしまい申し訳ありません」
「みんな社長のことを好きになる理由がよくわかるよ。俺たちも大好きだからね、社長の頼みなら断れないですよ」
オーナーは明るい声で快諾してくれた。
また会食でも使わせてもらおう。
電話を切った後、ふと考えてからチリルはもう一本電話を掛けた。
「……ああ、もしもし。絹子 ?今平気?」
「チリル。大丈夫よ、どうしたの?」
柔らかく美しい声。
彼女の笑顔がぱっと頭に浮かんだ。
「今日の会食がなしになったんだ。だから、夜ご飯でもどうかなと思って」
「あら、嬉しい!いいわね」
「良かった。じゃあ、お店を探しておくよ」
時間を決め、チリルは電話を切った。
以前取引先の社長に教えてもらった、美味い日本食のお店がある。空いているかどうかどこかで問い合わせてみよう。
ふとまた窓の外へ視線を向けると、沢山の人とものたちが視界に入ってくる。
遮るようにブラインドを下ろし、チリルはそのまま仕事へもどった。
「花田さんとまりちゃん、喜んでいるといいわねえ」
ふふ、と絹子は小さく笑う。
たまたま個室がひとつだけ空いており、運良く日本料理屋の予約が取れた。
ひっそりとした佇まいだが、中は意外と広い。内装はモダンで洗練されていて、おしゃれだ。
「さっき、お礼のメッセージが届いてた。オーナーが気を利かせてくれて、すごい豪華なデザートを作ってくれたみたい」
先ほど花田から届いた絹子に写真を見せる。
真っ白な生クリームといちごで飾られた大きなケーキを目の前にし、まりちゃんが百点満点の笑顔でピースをしていた。
「まあ、可愛い」
「花田さんにもまりちゃんにも無理言ったりして日々苦労をかけているからね。嬉しそうでよかった」
にこにこと絹子が微笑む。
「そりゃあ、嬉しいわよ。私も五歳くらいの頃だったかな、バースデーパーティーでとっても大きなケーキを用意してもらって、すっごく嬉しかったの今でも覚えているもの」
絹子が言うのならそのケーキは本当に「大きい」のだろう。
チリルは内心苦笑しながらワインを飲んだ。
堀 絹子 は三年前から付き合っているチリルの婚約者だ。
良家のお嬢様で、本人の自覚はないがいちいちスケールがでかい。
世間知らずなところはあるが品が良く天真爛漫で、嫌味がない。以前絹子の家族にも会ったが、皆明るく、言うなれば「善」そのものだった。
絹子は大学を卒業して父親の会社で事務をしていたようだが、両親の希望もあり数年で退職したらしい。
その後は母親とお花や着付け等のお稽古、お料理教室などに通い、それなりに忙しなく過ごしている。
人にはどうしても裏表や薄暗い部分があるものだが、絹子には一切それがなかった。
それがもともとの性格なのか、余裕からくるものなのか、それはわからない。
ただ、そんな朗らかな絹子がチリルにとってひとつの拠り所になっていることは確かだった。
行くはずだった店へ電話を掛けると、オーナーシェフ自ら対応をしてくれた。
味はもちろんだが、ここはオーナー含め人柄が良い。上品だがほどよくカジュアルで、気取っていない雰囲気も気に入っている。
「当日にメニュー変更なんて無理を言ってしまい申し訳ありません」
「みんな社長のことを好きになる理由がよくわかるよ。俺たちも大好きだからね、社長の頼みなら断れないですよ」
オーナーは明るい声で快諾してくれた。
また会食でも使わせてもらおう。
電話を切った後、ふと考えてからチリルはもう一本電話を掛けた。
「……ああ、もしもし。
「チリル。大丈夫よ、どうしたの?」
柔らかく美しい声。
彼女の笑顔がぱっと頭に浮かんだ。
「今日の会食がなしになったんだ。だから、夜ご飯でもどうかなと思って」
「あら、嬉しい!いいわね」
「良かった。じゃあ、お店を探しておくよ」
時間を決め、チリルは電話を切った。
以前取引先の社長に教えてもらった、美味い日本食のお店がある。空いているかどうかどこかで問い合わせてみよう。
ふとまた窓の外へ視線を向けると、沢山の人とものたちが視界に入ってくる。
遮るようにブラインドを下ろし、チリルはそのまま仕事へもどった。
「花田さんとまりちゃん、喜んでいるといいわねえ」
ふふ、と絹子は小さく笑う。
たまたま個室がひとつだけ空いており、運良く日本料理屋の予約が取れた。
ひっそりとした佇まいだが、中は意外と広い。内装はモダンで洗練されていて、おしゃれだ。
「さっき、お礼のメッセージが届いてた。オーナーが気を利かせてくれて、すごい豪華なデザートを作ってくれたみたい」
先ほど花田から届いた絹子に写真を見せる。
真っ白な生クリームといちごで飾られた大きなケーキを目の前にし、まりちゃんが百点満点の笑顔でピースをしていた。
「まあ、可愛い」
「花田さんにもまりちゃんにも無理言ったりして日々苦労をかけているからね。嬉しそうでよかった」
にこにこと絹子が微笑む。
「そりゃあ、嬉しいわよ。私も五歳くらいの頃だったかな、バースデーパーティーでとっても大きなケーキを用意してもらって、すっごく嬉しかったの今でも覚えているもの」
絹子が言うのならそのケーキは本当に「大きい」のだろう。
チリルは内心苦笑しながらワインを飲んだ。
良家のお嬢様で、本人の自覚はないがいちいちスケールがでかい。
世間知らずなところはあるが品が良く天真爛漫で、嫌味がない。以前絹子の家族にも会ったが、皆明るく、言うなれば「善」そのものだった。
絹子は大学を卒業して父親の会社で事務をしていたようだが、両親の希望もあり数年で退職したらしい。
その後は母親とお花や着付け等のお稽古、お料理教室などに通い、それなりに忙しなく過ごしている。
人にはどうしても裏表や薄暗い部分があるものだが、絹子には一切それがなかった。
それがもともとの性格なのか、余裕からくるものなのか、それはわからない。
ただ、そんな朗らかな絹子がチリルにとってひとつの拠り所になっていることは確かだった。