第6話 総会屋ビジネスを潰せ
文字数 1,853文字
(6)総会屋ビジネスを潰せ
株主総会が終わった後、コダマは「あれがダグラスのビジネスの一つ、総会屋です」と武たちに説明した。
「総会屋。株主総会で暴れて金銭を要求するビジネスか・・・」
「そうです。ダグラスは株主総会前に上場会社にコンタクトして『株主総会で暴れてほしくなかったら金を払え』と脅します。金を払わなかった会社にダグラスたちはやってきて、株主総会で暴れていく。株主総会の妨害は金を払うまで続くから、根負けしてダグラスたちに金を払う会社もある」
武には一つ疑問が浮かんだ。さっそくコダマに聞いてみる。
「へー。でもさ、総会屋ってそんなに人数が多いの?」
「どういう意味ですか?」
「だからさ、ダグラスの総会屋が10人の1グループしかいないとしたら、同じ時間に開催されている株主総会には参加できないよね?」
「そうですね。体は一つしかありませんから」
「だったら、全部の上場会社が同じ日の同じ時間に株主総会を開催したらいいんじゃないの?」
「同じ日の同じ時間?」とコダマは武に聞いた。
「要はね、今は株主総会の開催日時が会社によってバラバラだから、総会屋は来るんだよ」
「どういうことですか?」
コダマは武のアイデアに興味を持ったようだ。
「僕は上場会社が何社あるか知らない。ここでは全部で100社だったとしよう。全上場企業がお金を払わなくても、株主総会が同じ日時で開催されていたら、ダグラスたち総会屋は1社の株主総会しか行けないよね」
「そうですね。身体は一つしかないから、1社しか行けませんね」
「上場会社100社全部がお金を払わなくても総会屋は1社にしか来ない。総会屋が来た1社だけ、しかたないからお金を払って黙ってもらえばいい。つまり、他の99社はお金を払わないから、総会屋にお金を払う会社を1社だけにできるでしょ?」
「全ての株主総会が同じ日時だったら、全上場企業の1社だけが総会屋にお金を払えばいい。そういうことですか?」コダマは武に確認した。
「そういう意味だよ。今は開催日時がバラバラだから、総会屋がいくつも掛け持ちして株主総会に行けてしまう。だからダメなんだ。分かった?」
「・・・・」
コダマは武の説明を聞いて考え始めた。
「それいいですねー」とコダマはボソッと言った。
「そうでしょ。この方法で総会屋を潰せるよね?」
「潰せますねー」
コダマは「ちょっと待ってて下さい!」と言って公衆電話に走っていった。
武がお菊さんとしばらく雑談しているとコダマは戻ってきた。
「証券業協会の会長に電話してきました。今から総会屋対策を説明しに行くから、一緒に来て下さい」とコダマは言った。
***
証券業協会は兜町の雑居ビルに入っていた。証券業協会は証券会社を構成員とした組織で、協会員の公正かつ円滑な取引を目的として活動している。1959年当時の証券業協会は各都道府県に存在していた。各都道府県の証券業協会の連合組織として日本証券業協会連合会は存在していたが、現在(日本証券業協会)のような統一組織ではない。
武たちが証券業協会に訪問すると、中から白髪頭の男性が出てきた。コダマが言うには証券業協会の会長らしい。コダマが武に先ほどの総会屋対策を説明するように促したので、武は会長に説明した。要点は以下の通りだ。
現在の株主総会は、上場会社が独自に開催日時を決定して株主に通知しているから、開催日時がバラバラだ。バラバラに株主総会が開催されるから、1つの総会屋グループは複数の株主総会に出席できる。例えば、3月決算の上場会社が株主総会を開催する場合、6月1日~30日の午前・午後に開催されるとすると、1つの総会屋グループは60回(30日×2回)出席することが可能だ。
上場会社の株主総会の開催日時が1つだけ(例えば6月25日の午前中だけ)の場合、1つの総会屋グループは1回しか株主総会に出席することができない。つまり、総会屋が出席する確率を現在の1.67%(=1÷60)に引き下げることができるのだ。
この方法を採用することによって、総会屋が株主総会に出席する機会を大幅に削減することが予想されるため、総会屋対策として非常に有効だ。
話を聞き終わった証券業協会の会長は「いい案だ。早速、幹事証券会社に連絡して上場企業の株主総会の開催日時を統一する方向で調整したいと思う」と即答した。
武の提案によって、その後、総会屋への資金供与が激減することになる。
こうして、ピーチ・ボーイズの資金源の一つを大幅に削減することに成功したのであった。
株主総会が終わった後、コダマは「あれがダグラスのビジネスの一つ、総会屋です」と武たちに説明した。
「総会屋。株主総会で暴れて金銭を要求するビジネスか・・・」
「そうです。ダグラスは株主総会前に上場会社にコンタクトして『株主総会で暴れてほしくなかったら金を払え』と脅します。金を払わなかった会社にダグラスたちはやってきて、株主総会で暴れていく。株主総会の妨害は金を払うまで続くから、根負けしてダグラスたちに金を払う会社もある」
武には一つ疑問が浮かんだ。さっそくコダマに聞いてみる。
「へー。でもさ、総会屋ってそんなに人数が多いの?」
「どういう意味ですか?」
「だからさ、ダグラスの総会屋が10人の1グループしかいないとしたら、同じ時間に開催されている株主総会には参加できないよね?」
「そうですね。体は一つしかありませんから」
「だったら、全部の上場会社が同じ日の同じ時間に株主総会を開催したらいいんじゃないの?」
「同じ日の同じ時間?」とコダマは武に聞いた。
「要はね、今は株主総会の開催日時が会社によってバラバラだから、総会屋は来るんだよ」
「どういうことですか?」
コダマは武のアイデアに興味を持ったようだ。
「僕は上場会社が何社あるか知らない。ここでは全部で100社だったとしよう。全上場企業がお金を払わなくても、株主総会が同じ日時で開催されていたら、ダグラスたち総会屋は1社の株主総会しか行けないよね」
「そうですね。身体は一つしかないから、1社しか行けませんね」
「上場会社100社全部がお金を払わなくても総会屋は1社にしか来ない。総会屋が来た1社だけ、しかたないからお金を払って黙ってもらえばいい。つまり、他の99社はお金を払わないから、総会屋にお金を払う会社を1社だけにできるでしょ?」
「全ての株主総会が同じ日時だったら、全上場企業の1社だけが総会屋にお金を払えばいい。そういうことですか?」コダマは武に確認した。
「そういう意味だよ。今は開催日時がバラバラだから、総会屋がいくつも掛け持ちして株主総会に行けてしまう。だからダメなんだ。分かった?」
「・・・・」
コダマは武の説明を聞いて考え始めた。
「それいいですねー」とコダマはボソッと言った。
「そうでしょ。この方法で総会屋を潰せるよね?」
「潰せますねー」
コダマは「ちょっと待ってて下さい!」と言って公衆電話に走っていった。
武がお菊さんとしばらく雑談しているとコダマは戻ってきた。
「証券業協会の会長に電話してきました。今から総会屋対策を説明しに行くから、一緒に来て下さい」とコダマは言った。
***
証券業協会は兜町の雑居ビルに入っていた。証券業協会は証券会社を構成員とした組織で、協会員の公正かつ円滑な取引を目的として活動している。1959年当時の証券業協会は各都道府県に存在していた。各都道府県の証券業協会の連合組織として日本証券業協会連合会は存在していたが、現在(日本証券業協会)のような統一組織ではない。
武たちが証券業協会に訪問すると、中から白髪頭の男性が出てきた。コダマが言うには証券業協会の会長らしい。コダマが武に先ほどの総会屋対策を説明するように促したので、武は会長に説明した。要点は以下の通りだ。
現在の株主総会は、上場会社が独自に開催日時を決定して株主に通知しているから、開催日時がバラバラだ。バラバラに株主総会が開催されるから、1つの総会屋グループは複数の株主総会に出席できる。例えば、3月決算の上場会社が株主総会を開催する場合、6月1日~30日の午前・午後に開催されるとすると、1つの総会屋グループは60回(30日×2回)出席することが可能だ。
上場会社の株主総会の開催日時が1つだけ(例えば6月25日の午前中だけ)の場合、1つの総会屋グループは1回しか株主総会に出席することができない。つまり、総会屋が出席する確率を現在の1.67%(=1÷60)に引き下げることができるのだ。
この方法を採用することによって、総会屋が株主総会に出席する機会を大幅に削減することが予想されるため、総会屋対策として非常に有効だ。
話を聞き終わった証券業協会の会長は「いい案だ。早速、幹事証券会社に連絡して上場企業の株主総会の開催日時を統一する方向で調整したいと思う」と即答した。
武の提案によって、その後、総会屋への資金供与が激減することになる。
こうして、ピーチ・ボーイズの資金源の一つを大幅に削減することに成功したのであった。