第8話 アリスに会えるかもしれないし・・・
文字数 1,854文字
(8)アリスに会えるかもしれないし・・・
コダマから『仕手筋と戦え!』とけしかけられた武。
ピーチ・ボーイズの資金源を断つためには必要なことだ、と武は理解している。
他の惑星に迷惑を掛けるダグラスたちを見逃すわけにはいかない。
それに、
―― アリスに会えるかもしれないし・・・
武は前向きに仕手グループと戦うための戦略を考えることにした。
まずは、コダマにいくつか確認する。
「ダグラスたちが仕手戦を仕掛ける会社は分かってるの?」
「ああ、それは分かっています。五反田興行という会社です」
コダマはそう言うと、株価のチャートを武に差し出した。当時(1959年)にはパソコンが一般に普及されていないから手書きの株価チャートだ。
株価チャートを見ると、ダグラスたちは玉転がしの最中であることが分かる。
武は頭を整理する。
まず、ここでいう仕手グループを倒すとは、ダグラスたちに損失が発生するように仕向けることだ。
ダグラスたちが玉転がしをしているのだから、もう少ししたら株価を急激に上げるように仕手筋は動いてくるはず。
武は仕手戦に参入するための時間がそれほど残されていないことを悟った。
―― 仕手筋に損失を与える方法か・・・
仕手グループが売り抜けるためには株価を急激に上げる必要があるのだが、このためには大量の買い注文を出す必要がある。株価が目標値まで上がった段階で、今度は大量の売り注文を出すわけだが、そのためには売り注文を吸収できるだけの一般投資家の買い注文が必要になる。
その前提で武が採用すべき戦略は、仕手グループよりも早く大量の売り注文を出して、株価を急激に下げることだ。そうすれば、ダグラスたちに損失を発生させることができる。
ただ、問題は大量の売り注文を出すための株式をどうやって確保するかだ。
武は考えた作戦についてコダマとディスカッションすることにした。
「一つ案を考えたんだけど、いいかな?」と武はコダマに言った。
「どういう案ですか?」
「仕手筋は最終的に高値で株式を売却して利益を出すよね。その前提として、仕手筋の売り注文を吸収できるだけの、一般投資家の買い注文が必要だ」
「そうですね」
「僕が思うに、仕手筋が想定通りに株式を売却できない場合は2つあると思うんだ。①一般投資家の買い注文が少ない場合、②仕手筋以外に大量の売り注文がある場合、このどちらかだと思うんだ」
「確かに、仕手の売却は絶妙な出来高のバランスによって成り立っています。仕手筋が売り抜ける前に相場が崩れると利益が出せないでしょう」
「だよね。このうち、①一般投資家の買い注文が少ない場合は、不特定多数の投資家に『この銘柄買わないように!』と連絡することになる。これは難しいと思う」
「そうですね。現実的に無理でしょうね」
「②仕手筋以外に大量の売り注文がある場合は、可能性があると思う。僕たちが株式を大量に売却すればいい。例えば、ダグラスたちが100万株売却しようとしたときに、僕たちが同時に100万株売却したら、株価は急降下するよね」
武はそう言うと、株価のイメージ(図表4-2)を描いた。
【図表4-2:株価のイメージ】
コダマは頷いて図を見ているから、武は話を続けた。
「僕たちが大量に出した売り注文で、ダグラスたちが購入した平均株価よりも低い水準まで株価が急降下したとする。そうしたら、ダグラスたちに損失が出るよね?」
「そうですね。ダグラスたちは最後に株価を上げるときに高い株価で株式を購入しますから、平均単価が上がっています。株価が急落したら損失が出るでしょう」
「だよね。それで、僕たちが売り注文を大量に出すとしても、売る株式が必要だ。株式をどうやって調達したらいいと思う?」
「うーん。この取引の場合は、借株(かりかぶ)して空売りすればいいと思います」
「空売り? どうやってやるの?」
「まず、五反田興行の大株主から株式を借りてきます。借りてきた株式を市場で売却します(空売り)。次に、株価が急落したタイミングで株式を買戻します」
コダマはそう言うと、空売りと買戻しのイメージ(図表4-3)を描いた。
「こんな感じで、平均約定単価100で売却して、平均約定単価50で買戻したとします。そうすると、50の利益が出ます」
【図表4-3:空売りと買戻しのイメージ】
「そうすると、五反田興行の大株主から株式を借りれば仕手筋と戦える。そういうことだよね?」
「そうです」
こうして、武たちは五反田興行の株式を借りるために、大株主のところへ向かった。
コダマから『仕手筋と戦え!』とけしかけられた武。
ピーチ・ボーイズの資金源を断つためには必要なことだ、と武は理解している。
他の惑星に迷惑を掛けるダグラスたちを見逃すわけにはいかない。
それに、
―― アリスに会えるかもしれないし・・・
武は前向きに仕手グループと戦うための戦略を考えることにした。
まずは、コダマにいくつか確認する。
「ダグラスたちが仕手戦を仕掛ける会社は分かってるの?」
「ああ、それは分かっています。五反田興行という会社です」
コダマはそう言うと、株価のチャートを武に差し出した。当時(1959年)にはパソコンが一般に普及されていないから手書きの株価チャートだ。
株価チャートを見ると、ダグラスたちは玉転がしの最中であることが分かる。
武は頭を整理する。
まず、ここでいう仕手グループを倒すとは、ダグラスたちに損失が発生するように仕向けることだ。
ダグラスたちが玉転がしをしているのだから、もう少ししたら株価を急激に上げるように仕手筋は動いてくるはず。
武は仕手戦に参入するための時間がそれほど残されていないことを悟った。
―― 仕手筋に損失を与える方法か・・・
仕手グループが売り抜けるためには株価を急激に上げる必要があるのだが、このためには大量の買い注文を出す必要がある。株価が目標値まで上がった段階で、今度は大量の売り注文を出すわけだが、そのためには売り注文を吸収できるだけの一般投資家の買い注文が必要になる。
その前提で武が採用すべき戦略は、仕手グループよりも早く大量の売り注文を出して、株価を急激に下げることだ。そうすれば、ダグラスたちに損失を発生させることができる。
ただ、問題は大量の売り注文を出すための株式をどうやって確保するかだ。
武は考えた作戦についてコダマとディスカッションすることにした。
「一つ案を考えたんだけど、いいかな?」と武はコダマに言った。
「どういう案ですか?」
「仕手筋は最終的に高値で株式を売却して利益を出すよね。その前提として、仕手筋の売り注文を吸収できるだけの、一般投資家の買い注文が必要だ」
「そうですね」
「僕が思うに、仕手筋が想定通りに株式を売却できない場合は2つあると思うんだ。①一般投資家の買い注文が少ない場合、②仕手筋以外に大量の売り注文がある場合、このどちらかだと思うんだ」
「確かに、仕手の売却は絶妙な出来高のバランスによって成り立っています。仕手筋が売り抜ける前に相場が崩れると利益が出せないでしょう」
「だよね。このうち、①一般投資家の買い注文が少ない場合は、不特定多数の投資家に『この銘柄買わないように!』と連絡することになる。これは難しいと思う」
「そうですね。現実的に無理でしょうね」
「②仕手筋以外に大量の売り注文がある場合は、可能性があると思う。僕たちが株式を大量に売却すればいい。例えば、ダグラスたちが100万株売却しようとしたときに、僕たちが同時に100万株売却したら、株価は急降下するよね」
武はそう言うと、株価のイメージ(図表4-2)を描いた。
【図表4-2:株価のイメージ】
コダマは頷いて図を見ているから、武は話を続けた。
「僕たちが大量に出した売り注文で、ダグラスたちが購入した平均株価よりも低い水準まで株価が急降下したとする。そうしたら、ダグラスたちに損失が出るよね?」
「そうですね。ダグラスたちは最後に株価を上げるときに高い株価で株式を購入しますから、平均単価が上がっています。株価が急落したら損失が出るでしょう」
「だよね。それで、僕たちが売り注文を大量に出すとしても、売る株式が必要だ。株式をどうやって調達したらいいと思う?」
「うーん。この取引の場合は、借株(かりかぶ)して空売りすればいいと思います」
「空売り? どうやってやるの?」
「まず、五反田興行の大株主から株式を借りてきます。借りてきた株式を市場で売却します(空売り)。次に、株価が急落したタイミングで株式を買戻します」
コダマはそう言うと、空売りと買戻しのイメージ(図表4-3)を描いた。
「こんな感じで、平均約定単価100で売却して、平均約定単価50で買戻したとします。そうすると、50の利益が出ます」
【図表4-3:空売りと買戻しのイメージ】
「そうすると、五反田興行の大株主から株式を借りれば仕手筋と戦える。そういうことだよね?」
「そうです」
こうして、武たちは五反田興行の株式を借りるために、大株主のところへ向かった。