第3話 銀座の百貨店

文字数 1,677文字

(3)銀座の百貨店

 前鬼の運転する車で、武、お菊さん、ササガワは銀座の百貨店にやってきた。
 ササガワは店舗に入る前に「本当はオーダーメイドの方がいいのですが、時間が掛かりますから今回は既製品を買います」と武たちに伝えた。

 武はお菊さんに「オーダーメイドって何?」と聞いたが、返答はない。お菊さんは銀座の百貨店の雰囲気にのまれて緊張している。それに、お菊さんも知らないのだろう。

 武たちはエレベーターガールが操作するエレベーターで子供服フロアに到着した。
 まずは、武が着用する服をここで購入する。

 子供服フロアに連れてこられた猫は「食品フロアは?」、「服なんか興味ねーよ」と騒いでいる。

 猫を無視した一行は、ササガワに連れられるまま百貨店の子供服販売店に入った。子供服とはいっても普段着を販売しているわけではない。店内には発表会や式典に出席するためのフォーマルな衣装が並んでいる。ショップ店員は武の身体にフィットしそうなダークスーツを5着持ってきた。

 白いシャツとネクタイを着用した武は、着せ替え人形のようにダークスーツを次々と試着させられていく。武が3着目を試着したところで、ササガワは「これにしましょう!」と言った。
 ショップ店員は武の採寸を済ませると、ササガワに伝票のようなものを渡した。

「武に決定権はないんだなー」と小さく言った猫に、「分からないからいいんだよ」と武は適当に返事する。


 次に、ササガワはお菊さんを連れて婦人服フロアのショップに入った。ササガワはショップに入ると、いくつかのスーツを持ってきてお菊さんに試着するように言った。
 お菊さんが2着目を試着したところで、ササガワは「これにしましょう」と言った。
 試着したスーツはお菊さんの体形にフィットしていたから、丈直しは必要ない。ササガワはそのまま会計を済ませた。

 スーツの購入が終わったササガワは「武くんのスーツは後で取りに来るから、もう一か所行きましょう」と言って歩き始めた。

 前鬼が「俺のスーツは?」と言ったのだが、ササガワは感情の無い表情で「大人だから持ってるでしょ。家から持ってきてください」と小さく言った。前鬼は「お菊さんは買ってもらったのに、俺は買ってもらえないのか?」と不満をいうものの、ササガワは無視して百貨店を出ようとしている。

「前鬼の扱いが雑だなー」と小さく言った猫に、「いつものことだよ」と武は返事する。


***


 ササガワは百貨店を出ると、大通りを渡って1件のビルに武たちを案内した。武、お菊さん、前鬼が目的のフロアに着くと、そこには大勢の女性が髪の毛をカットしていた。美容院だ。

 ササガワは美容院に入ると「予約してありますから、名前を呼ばれたらスタイリストにカットしてもらって下さい」と3人に言うと、並べてあったヘアスタイル雑誌を見始めた。

 店内で落ち着かない猫は「お前と同じくらいの女の子がいるなー」と武に言った。

「そうだね。あの子、ブロンドだから外国人かな?」と武が女の子を見ていたら、その女の子と目が合った。

―― やばっ、目が合った・・・

 武が女の子を直視できずに下を向くと、「ジロジロ見てたからじゃねー?」と猫が指摘する。

 武が下を向いていたら、スタイリストの女性の「アリスさん、どうぞー」という声が聞こえてきた。女の子が「はーい」と言って、鏡の前の席に着いた。

―― あの子、アリスって言うのか・・・

 武は下を向いたまま女の子の名前をインプットした。

「あの子、アリスって言うんだなー」と猫は楽しそうだ。武は「そうみたいだね」と小さく返す。

 しばらく武がアリスをチラチラ見ていると、ササガワが武の肩を叩いた。武の身体がビクンと震える。まるで、悪いことをした少年のように。

 ササガワは「武くん、このページの髪型をスタイリストに見せて下さい」と言って、武にヘアカタログを渡した。武がページを見ると、オールバックの若者の顔写真が載っている。

 写真を見た猫は「お前、オールバックじゃん」と半笑いだ。

 ササガワの意図を計りかねる武。武は胸にザワザワとする何かを感じた。
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