第1話 はじめに

文字数 1,192文字

 梅雨と暑さが入り混じったうっとおしいこの季節。スーパーに入ると必ず目にするようになるのが梅。その隣に並ぶ氷砂糖、ホワイトリカー、大瓶のセット。
 梅酒の季節だ。
 私の実家では毎年、この季節になると祖母が梅を買ってきて梅干しや梅シロップを作っていた。その影響なのか、私は今も梅が大好きだ。
 祖母の作る梅干しは塩とシソだけで作る伝統的スタイルで、真っ赤な見た目と激烈な酸っぱさが持ち味の「これぞ梅干し!」と言わんばかりの代物だった。これが私の中の梅干しの基準となっているため、市販品はそこそこ美味しいとはいえ、やはり生ぬるいと思ってしまう。

 梅干しと並行して作ってくれた梅シロップも大好きだった。
 青梅と砂糖を瓶の中にぎっしり詰めて待つと、砂糖が自然に溶けながら梅のエキスを抽出し、香りと味が移ったシロップになる。水で割ればジュースになるし、かき氷のシロップにしてもおいしい。
 祖母が梅を漬けてから、砂糖が全部溶けきるまでが待ち遠しかったのを憶えている。そんな子供が大人になれば、梅酒を飲むようになるのは半ば必然と言ったところ。
 飲み屋に行けば、梅酒のロックはほぼ確実に飲んでいる(と思う)。
 酒にはそれほど強くないので自分で買うのはせいぜいビールぐらいだが、酒のコーナーに足を運ぶと、ついつい梅酒のコーナーを見てしまう。

 そうやって見ていると、梅酒にもいろいろな種類があることがわかる。砂糖の代わりに黒糖やハチミツを使った物、ブランデーやウィスキーを使った物、熟した梅を使った濁り梅酒、長期間熟成した高級品、漬けこむ際に紅茶や梅酒をブレンドした物。
 梅酒の付け方として良く紹介されているのは、ホワイトリカーと氷砂糖を使ったスタンダードな物だが、それ以外の物も作ろうと思えばいくらでも工夫ができるということだ。
 梅酒のコーナーから目を離すと、様々な種類の非常に多様な酒が目に入ってくる。それらを見ていると、ふと思いついた。
 ホワイトリカーの代わりに、ここら辺の酒を使って梅酒を作ったらどうなるんだろう?
 ブランデーやウィスキーを使った梅酒は売っている。だが、焼酎は? 芋焼酎や麦焼酎で変わるのか? テキーラやラム酒、ウォッカでは? そういう酒で作った梅酒というのは見たことがない。

 ネットで調べてみると挑戦してみた人はいるようだが、どうも厳密さに欠けている気がする。つまり、均一な条件で酒だけ変えて作ってから味の違いを比較しているわけではない、ということだ。さて、これは気になる。
 そういうことを思いついてから、今年はやってみようかと思いつつ毎年タイミングを逃していたが、ついに挑戦する機会を掴んだ。様々な種類の酒で梅酒を作り、味の比較をする実験だ。

 何となくだが、梅(Ume)と実験(Experiment)で、ウメクスペリメント(Umexperiment)としてみた。
 意味は特にない。
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