三題噺のお部屋
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文字数 543文字
『ぷかぷか』 ヤドナシ
学校に行くと嘘をついて、長良川の土手でぼんやり考え事をするのは今に始まったことじゃない。コロナ禍で一時休止していた鵜飼いの舟も、再開してからそれなりに日が経っている。 本当は夜にやって来て、火の粉を散らしながら進んでいく舟を見てみたい。川の中で魚を丸呑みにする鵜を描いてみたい。でも、夕方から夜の外出はなかなかできなくなっていた。 朝のうちにやって来て、大人しく止まっている舟を、役目を終えて休んでいる、あるいは準備している舟を、行儀良く写すことしかできない。 進まない舟、動かない舟、ただ浮かんでいるだけの舟。まるで今年に入ってから進路を失った僕みたいだ。美大に行ける金はない。予備校に行かせる余裕もない。悪いけど他の進路を探してほしい。 両親の申し訳なさそうな顔が、飛んできた火の粉のように燃え広がって、僕の夢を焼いていく。もともと進みたかった道は迂回して、他の道を探しに行けと、焼け野原で理性が叫んでる。 今日も遅刻だ。なんだかんだ、午前中の途中の授業から顔を出す。つながれた舟を無理やり進めていくことも、エンジンに引っ張られていくことも、どっちも上手くできてない。 これがどれくらい続くのか、いつかちゃんとした舟に乗れるのか、分からないまま土手を降りた。
yomogi
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