第13話 宇宙人登場

文字数 8,061文字

 それから数日後。

今川は、日本のとある場所に建つ弥勒ボートの本部を訪れた。

代表から、面会したいとの申し出があったからだ。

今川はてっきり、代表と2人だけで面会するものと考えていたが、

なぜか、その場に、Dr.ナイジェルとフィンが同席した。
  
「なぜ、あなたたちが、ここにいるのですか? 」
  
 代表を待つ間、今川は、Dr.ナイジェルに小声で訊ねた。
  
「わしらも招かれたんじゃ」
  
 Dr.ナイジェルがハスキーボイスで答えた。
  
「なぜ、代表は、私との面会を申し出たのですか? 」 
 
 今川が、Dr.ナイジェルに訊ねた。
  
「しっ。静かに。代表のおでましじゃ」
  
  Dr.ナイジェルが告げた。

今川は、反射的に立ち上がると頭を下げた。
  
「面会時間は5分だ。長話は出来ない」
  
 どこかで聞いたことのある声がしたため、

驚いて頭を上げると、目の前に座っていたのは、

死んだはずの石川氏にうりふたつの初老男性だった。
  
「お招き頂きありがとうございます」
  
 今川は一瞬、からだが固まったが、Dr.ナイジェルに促されてあいさつした。
  
「君がそうか」
 
 代表が告げた。
  
「フィンから聞いた時は、わしも、半信半疑じゃったが、

無事に、再会することが出来て、こちらとしても大助かりじゃ」
 
 Dr.ナイジェルが言った。

 今川は、妹の身元引受人を条件に

Dr.ナイジェルの患者を救う手助けをする約束をした。

妹の病気は、今川の血液を輸血したことにより回復の兆しを見せた。
  
「代表。そろそろ、本部に、戻して頂けませんか? 」
 
 フィンが告げた。
  
「まだ、任務が残っているだろう? 任務が済んだら帰還を許す」
  
 代表が言った。
  
「それは困る。フィンは、他のヒューマノイドとはわけが違う。

今や、わしにとって、なくてはならない大切な助手じゃ」
  
 Dr.ナイジェルが言った。
  
「フィン、任務終了後どうするのかは、君の判断に任せる」
  
 代表が、フィンに告げた。
  
「ところで、火星有人飛行計画は順調に進んでいるのかね? 」
  
 Dr.ナイジェルが、代表に訊ねた。
  
「相変わらず、直球で来ますね」
  
 代表が苦笑いすると言った。
 
「わしは、長年、組織のために、この身を捧げて来た。

今度は、おまえさんが、わしの期待に応える番ではないのかね? 」
  
 Dr.ナイジェルが上目遣いで言った。
  
「専門家チームに、2020年以降に相次いで起きた

天災の原因を調査させたところ、

火力発電などにより、二酸化炭素を排出し過ぎたことが原因で、

太陽活動が著しく停滞していることがわかった。

宇宙エレベーターを運行するためには、

宇宙空間に設置したメガソーラーから、

膨大な太陽エネルギー光線を地上へ発射する必要がある。

膨大な太陽エネルギーを1度に受けた時の

メガソーラーの耐久性が問題となり難航しているんだ」
  
 代表が神妙な面持ちで現状を説明した。
 
「NASAが火星探査を行い、人類が、火星に住める可能性を見出した。

日本と同盟を結ぶ中国、韓国、ロシアの3カ国は、

火星移住計画の足がかりとして、

宇宙飛行士を火星に送る用意が出来ていると

言って来ているそうじゃないか? 」
  
 Dr.ナイジェルが訴えた。
  
「計算上では、火星が最も、地球に近づく期間、

地球から火星までの距離は、7834キロメートル。

宇宙エレベーターで、宇宙船をケーブルの高いところまで運んだ後、

レーザー推進で、宇宙船を火星まで放出すれば、3日で着くことになっている。

しかし、これは、事故のない状況の場合であって、

まんがいち、寿命を迎えた恒星が爆発するなどして、

太陽フレアが発生したら、火星に、たどり着けないどころか、

地球に帰ることも、難しくなるかもしれない」
  
 代表が冷静に言った。

「今年の9月11日、火星が、地球に大接近する。

いつもより、火星が、地球に近づけばそれだけ、

飛距離が短縮出来るから時間やコストの軽減になる。

この日を逃したら、他の先進国に、先を越されるかもしれない」
  
 Dr.ナイジェルが訴えた。
  
「計画を実行するためには、巨額の資金が必要になる。

すでに、宇宙エレベーターの建設に充てられた予算は使い果たした。

中国、韓国、ロシアは、日本に花を持たせると、

調子の良いことを言っているが、

要は、宇宙エレベーター建設を主導した日本が、

資金調達も、かって出るべきだと言いたいのだろう」
  
 代表が言った。
  
「アメリカ人スーパードクターのキアン・コーウェルという人物が、

火星有人飛行計画を知り、ぜひとも、資金提供したいと申し出ている。

彼は、世界各地の有名病院に招かれて難易度の高い手術を成功させている。

現在はフランス在住だが、アメリカの宇宙開発に、

巨額の資産を投じるセレブとしても有名じゃ」
  
 Dr.ナイジェルが言った。
 
「スーパードクターがなぜまた、

宇宙開発に、巨額の資金を投じているのですか? 」
 
 代表がけげんな表情で訊ねた。
 
「若い時分、航空宇宙医師を目指して

宇宙飛行士の訓練を受けたことがあるそうじゃ。

今回、資金提供をする条件に、

宇宙飛行士として、自らも、火星へ行く権利を求めている」
 
 Dr.ナイジェルが答えた。
 
「若いころに訓練したことがあるとしたって所詮、素人だ。

日米安全保障条約に引っかかるのではないか? 」

  代表が言った。
 
「アメリカ政府は、火星有人飛行計画を

日本政府に主導させる見返りとして

アメリカ国民の火星移住の権利を求めていると聞いたが、

Dr.コーウェルは、良い宣伝になるのではないか? 」
 
 Dr.ナイジェルが言った。
 
「さっきから、私の顔を見つめているが何だね? 」
 
 代表が、今川に訊ねた。
 
「あなたは、石川さんですよね? 」
 
 今川が訊き返した。

(なぜ、死んだはずの石川氏が、

弥勒ボートの代表として、再び、姿を現したんだ? )
 
「あれは、私のクローンだ。つまり、もうひとりの私なんだ」
 
 代表がさらりと答えた。

代表の話では、弥勒ボートの幹部たちは密かに、

クローンをつくっているという。

彼らの中には、代表のように、表の世界では、要人という人も少なくない。

まんがいちの場合に備えて、表の世界には、クローンを出しているという。

 別れ際、Dr.ナイジェルと代表は、固い握手を交わした。

今川がふり返った時には、代表の姿は、どこにもなかった。

見送られてから、1分も立っていないのに、

その場から、跡形もなく消えたのだ。

瞬間移動をしたとしか思えなかった。
 
「言っておくが、ここは、仮の場所で正式な本部ではない」
 
 Dr.ナイジェルが、今川に耳打ちした。
 
「石川氏は、代表のクローンだったのですか? 

どう見ても、ふつうの人間なのに信じられません」
 
 今川が言った。
 
「あの人だけじゃない。知らないだけで、

クローンはそこらじゅうにいる」
 
 Dr.ナイジェルがウィンクすると言った。
 
「火星有人飛行計画なんて、本当に、実現出来るのですか? 」
 
 今川が訊ねた。

 今まで、何度となく、いろんな著名人により、

人類が、火星へ旅立つ壮大なロマンは語られて来たが、

世界情勢の悪化や気候変動などにより、実現にはいたっていない。
 
「まもなく、宇宙エレベーターが完成する。

国民の関心が一気に、宇宙エレベーターに注がれる今こそ、

長年の夢だった宇宙移住計画の第一歩を踏み出す時じゃ」
 
 Dr.ナイジェルが告げた。
 
「とにかく、これ以上、あなたの野望に巻き込まれるのはごめんですから」
 
 今川が言った。    
 
「それは無理じゃ。おまえさんは、わしを無視出来ない。

おまえさんには1度、Dr.コーウェルに会ってもらう」
 
 Dr.ナイジェルが言った。
 
「それにしてもなぜ、医師であるあなたが、

宇宙開発に関与しているのですか? 」
   
 今川が好奇心で訊ねた。
 
「再生医療技術の発展のためじゃよ」
 
 Dr.ナイジェルが即座に答えた。
 
「再生医療技術の発展と宇宙開発との間には、

いったい、どんなつながりがあるというのですか? 」
 
 今川が訊ねた。
 
「再生医療技術が進歩するためは、

生物の進化と重力が、重要というわけじゃ」
 
 Dr.ナイジェルが答えた。

 翌日の午後。今川は、Dr.ナイジェルと共に都心にある

高級ホテルのラウンジで、キアン・コーウェルと面会した。

自己紹介が済んだ後、キアンが、Dr.ナイジェルに、

今川と2人だけにしてほしいと告げて席を外させた。

キアンは、フランス在住のアメリカ人ではあるが、

日本に住んだことがあるらしく、流ちょうな日本語を話した。
  
「実は、僕には、重大な秘密があるんだ」
  
 2人だけになると、キアンが神妙な面持ちで告げた。
  
「初対面の私に、重大な秘密を打ち明けて大丈夫なのですか? 」
  
 今川が慎重に訊ねたと、キアンが大きくうなづいた。
 
「重大な秘密とは、いったい、何ですか? 」
 
 今川が訊ねた。
  
「僕は、2050年の未来から来た異星人なんだ」
  
 キアンが小声でささやいた。 
  
「今、何とおっしゃいましたか? 」
 
 今川は、聞き間違いかと思い訊き直した。

悪い冗談かと思った。
   
「信じるか信じないかは君次第さ。

とにかく、話を聞いてほしいんだ」
 
 キアンが真顔で言った。

僕が生まれ育った星は、地球からはるか遠く離れた宇宙の果てにあった。

ある日突然、その星は消滅した。

消滅する直前、僕は、仲間たちと火星へ逃れるため

宇宙船に乗り脱出をはかった。

 ところが、火星へ向かう途中、

乗っていた宇宙船が、星が爆発した衝撃により、

突如、宇宙空間に出現したブラックホールに吸い込まれた。

気がついたら、2011年の地球にタイムワープしていた。
 
 話し終えた後、キアンは深く息をついた。

なぜか、その表情は、晴れ晴れとしていた。
 
「私は、つい最近までは、科学で証明出来ないことは信じないたちでした。

ですが、最近、出生の秘密を知り、意識がだいぶ変わりました」
  
 今川が静かに告げた。
 
以前、今川は、一生を終えた超新星が巨大な大爆発を起こしたことにより、

ブラックホールが出現するという話や

ブラックホールの周囲に時空のゆがみが生じて

タイプワープが可能になるという話をネット記事で読んだことがある。
 
ブラックホールに吸い込まれた場合、

宇宙の藻屑となるとする説が有力視されている。

キアン・コーウェルの話が本当ならば、

ホーキング博士による

別の宇宙(パラレルワールド)に通じる説は正しかったことになる。

  「ところで、君は、コールドスリープについて知っているかい? 」
  
 今川が黙っていると、キアンが訊ねた。
  
「生きている人間の体温を低体温状態に保ち、

宇宙船で宇宙へ送り出し、しかるべき時が来たら、その人間に、

蘇生術を施して覚醒させる計画ですよね? 」
  
 今川が答えた。
 
今川は、大内から、クライオニクスについて話を聞いた後、

未来の医療について調べた。

その際、コールドスリープについて知った。

クライオニクスが、死体を冷凍保存するのに対して、

コールドスリープは、生きている人間の体温を1時間に

1度ずつ32度から 34度に下げて低体温状態に保ち保存する。

雪の中、仮死状態で発見された人が、

からだを温めて平熱に戻したことにより、

低体温状態から脱して、一命を取り留めたというケースがある。
  
「発見された時、僕の脳は、激しく損傷を受けていた。

日本の医療チームが行った脳低体温療法のおかげで、

一命を取り留めて後遺症も軽く済んだ。

まさに、あの時の僕は、コールドスリープと同じ状態だったんだよ」
  
 キアンが目を見開くと言った。

とにかく、眼力が半端ない。

ブルーの大きな瞳で、じっと見つめられると、反論しづらくなる。
  
「脳低温療法については、私も、ある程度の知識を持っています。

脳低体温療法を受けた患者の中には、

一時的に、記憶を失くす人も少なくありません。

無意識に、記憶がすり替わったのではありませんか? 」
  
 今川が慎重に訊ねた。
  
「それはないと、はっきり言える。

実は、僕が、火星へ行くことを決めたのは、

消滅する前の故郷の星に戻るためなんだ」
  
 キアンが答えた。
  
「他の宇宙飛行士の手前、

単独行動は出来ないと思いますが、何か策はあるのですか? 」
  
 今川が訊ねた。
  
「火星に到達する前に、僕だけ、小型宇宙船に乗り換える。

FBIを通じて、JAXAの許可は、取ってあるから大丈夫だ。

消滅する前に戻ることが出来れば、大きな被害を未然に防げる。

おそらく、逃げおくれた人たちが大勢いるだろう。

全員、脱出出来るようにするつもりだ」
  
 キアンが答えた。
  
「実は、私は、2011年に地球に墜落したという

UFOに保存されていたヒト胚から誕生しました。

私の他に、あと2人います」
  
 今川は、キアンだったら、

何か知っているかもしれないと思い訊ねた。
  
「知っている。無事に、育って良かった」
  
 キアンが軽い口調で言った。
  
「知っているということは、あなたも、弥勒ボートの関係者なんですか? 」
  
 今川が訊ねた。
  
「所属医師だ。ところで、遺伝子上の両親のことは知っているのかい? 」
  
 キアンが身を乗り出すと言った。         
  
「知りません」
  
 今川は思わず下を向いた。

 両親の存在すら実感出来ないのだ。

自分は、人間というよりも、実験動物に近い存在だと思った。
  
「僕の記憶が正しければ、宇宙平和連邦政府は、

優秀なDNAを残すため優れたヒト胚を特殊なカプセルに入れて保存していた。

君たちの遺伝子上の親は、選ばれし、エリートだったんだよ」
  
 キアンが優しい声で言った。
  
「私の遺伝子上の両親は、無事に、脱出出来たのでしょうか? 」
   
 今川が訊ねた。
 
「それはわからない。

何せ、僕は、2011年の地球にタイムワープしたのだからね。

他の人たちが、どうなったのか見当もつかないよ。

爆発前に、脱出出来ていたら、火星に逃れているかもしれない」
 
 キアンが答えた。

 まるで、SF映画のような話を語るキアンが、

外国人映画俳優のように見えてきた。
 
「あなたが住んでいた星は、地球では、何と呼ばれていますか? 」
   
 今川が好奇心で訊ねた。
 
「地球では、ヘビつかい座と呼ばれている。

ちなみの我々の先祖は、

この地球からヘビつかい座に移住した地球人らしい。

つまり、地球は、僕にとって、ルーツなんだ」
  
 キアンが答えた。

「なぜ、せっかく命が助かったのに、

わざわざ、困難な道を選ぶのですか? 

もし、故郷の星に、たどり着いたとしても

生き延びることは、出来ないかもしれません」
 
 今川が訊ねた。

 地球で生まれた自分と望まぬ形で地球に来たキアンとは、

やはり、考えた方が異なるのだと思った。
 
「自分だけ幸せになることは、僕には出来ない。

僕は、この手で多くの患者を救って来たが、

故郷の人たちを救えなかった。

悔やんでも悔やみきれない」
  
 キアンが訴えた。

 今川はそれを聞いて、

キアン・コーウェルは、まともな人間だと安堵した。

Dr.ナイジェルとは、大違いだと思った。
  
 それから数週間後。今川は、

東元を銀座にある個室完備のレストランに呼び出して

キアンから聞いた話をすべて話した。

東元は、今川が話し終えるのを見計らうと穏やかに告げた。
  
「Dr.コーウェルが、2011年にタイムワープしたおかげで、

私たちは、この世に生まれ落ちた。

Dr.コーウェルと社長が再会しなかったら、

私たちの遺伝子上の両親のことも知ることも出来なかったんですね」
  
「私は、運命の出会いというのは、本当にあるものだと思いました」
  
 今川がそう言うと、東元が大きくうなづいた。

「今川社長。将来の話をしても良いですか? 」

「あ、はい」

「いずれ、私は、テクノロイズムの代表取締役社長に就任します。

その暁には、石川氏の意志を継いで、

この国の医療の発展に貢献出来たらと考えています」

「期待しています」

「もし、私に使命があるとしたら、

私を生かして支えてくれる人たちへの恩返しだと思っています」

「東元さんらしいですね」

「そうですか? 」

「石川氏の意志を継げる人は、あなたしかいないと思います」
 
 今川は、東元は、石川氏に似ていると思った。

 2人の間に、血のつながりはない。

しかし、人間には、DNAを環境により

進化させる能力が備わっていると、今川は信じていた。

「ありがとうございます。

あなたに言われると心強い。ところで、紹介したい人がいます。

今日、ここに連れて来たので、会ってもらえますか? 」
 
 東元が照れ笑いを浮かべながら言った。

「紹介した人というのは、もしかして、婚約者とか? 」
 
 今川が冗談めかした。

 少しして、障子が開いて、

誰かが中に入って来た気配を感じて、今川は後ろをふり返った。

「真浦さん、隣へ」
 
 東元が告げた。

「真浦! おまえが、まさか!? 」
 
 今川は、すました顔で

東元の横に座った真浦をガンミした。

(いつから、デキていたんだ?? )

「社長、今後は、東元さんの

フィアンセとしてお見知りおきください」
 
 真浦が頭を下げると告げた。

「あ、うん。わかった。とにかく、おめでとう」
 
 今川が言った。

「驚きましたか? 驚くのも当然ですよね? 

私もまだ、真浦さんが交際をOKしてくれたのが信じられません」
 
 東元が、真浦を見つめながら言った。

すでに、尻に敷かれている感じに見えた。

「正直、驚きましたが、

いいところに収まったのではないかと思います」
 
 今川はそう言うと、お茶を一口飲んだ。

「来年の春、結婚する予定です。

社長には、ぜひとも、真浦さんの父親役として、

エスコートをお頼みしたいのですか? 」
 
 東元が、今川に言った。

「ご冗談を。父親役って、

私は、真浦とは、さほど、年が変わりませんし、

父親役であれば、佐目教授がふさわしいのでは? 」
 
 今川は即座に拒んだ。

(自分と同世代の女性の父親役など、冗談じゃない! 

自分の結婚でさえ、まだなのに!

 なぜ、佐目教授ではなく、私なんだ? )

「社長。私は、佐目教授よりも、

社長にバージンロードを一緒に歩いてもらいたいのです。

私の両親は離婚していて、父親には、別の家庭があり頼めません。

佐目教授のことは尊敬していますが、社長は、私の親友以上の存在です。

公私共に、苦楽を共にして、

誰よりも、お互いのことを理解していると思っています」
 
 真浦が突然、涙を流して訴えた。

「おい、どうしちゃったんだよ? 」
 
 今川は思わず、驚きの声を上げた。

(いつもは冷静沈着な真浦が、メンタル崩壊している? )

「確認しておきたいのですが、

社長と真浦さんは、

本当に、これまで、何もなかったのですか? 」
 
 東元が、今川に訊ねた。

「ちょっと、何を言っているのよ? 

社長と私が、どうにかなるわけないでしょうが? 」
 
 真浦が、東元に言った。

「それを聞いて安心しました。

三角関係だけは避けたいですから‥‥ 」
 
 東元が言った。

「もちろん、私も、真浦を異性として

意識したことはありませんよ。

東元さん、安心して、真浦と幸せになってください」
 
 今川が告げた。

「近い内、磯屋君も誘って、皆で夕食会をしませんか? 」
 
 東元が、今川に言った。

「いいですね。ぜひ」

「磯屋には、当日まで、秘密にしておいてください。

あいつの驚いた顔が見たいので‥ 」
 
 真浦が言った。

「おまえってやつは‥ 」
 
 今川が苦笑いした。

「日時と場所は、お互いのスケジュールと

相談ということでよろしいでしょうか? 」
 
 東元が、今川に言った。

「はい。楽しみにしています」
 
 今川が答えた。

 その後、今川は、この後、デートするという

2人と別れて会社に戻った。

東元と真浦のツーショットを目の当たりにしても尚、

2人が恋人同士ということに実感が持てない。

嫉妬よりも、驚きの方が大きかった。


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