第8話 もうひとりの俺

文字数 16,211文字

 瀬戸が正義を追って、慌てて玄関の外に出ると、正義は例の赤いポストの前に立っていた。そして、瀬戸に遅れて、米子も困ったような表情を浮かべながら、サンダルをつっかけて外へと出てきた。正義は、鳩を指さし、米子に向けてこう言った。
「米子さん。この鳩、病気だって言いましたよね。その病気ってもしかして、トリコモナス症じゃないですか。」
困惑の表情を浮かべていた米子は、観念したかのようにため息をついて、言った。
「齋藤さん。鋭いですね・・・。そうですね。そうだと思います・・・。」
「米子さんは、この鳩の治療のために、あの薬を使っているんじゃないですか。」
「ええ。おっしゃる通りです。あれは人間にも動物にも使える薬ですから・・・。」
そう言うと、米子はポケットから青色のニトリルゴムの手袋を出し、それを自らの手にはめ、鳩へと近寄り、鳩のくちばしを指で開いて二人の方に向けた。
「見てください。この子、口の中がこんなにただれてしまっている・・・。」
黄色くチーズのようにただれた部分が鳩の口の中全体を覆っていた。
「これでは、何か食べることもできない。何もしないでいれば、どんどんやせ細って行って、最悪の場合、死に至ります。この子が私の家のポストに来たということは、私に何か訴えている、もっと言えば、私に助けを求めているのではないかと、勝手に思い込んでしまいまして・・・。」
そう話しながら、米子はピンセットを使って例のメトロニダゾールの錠剤を鳩に与え、話を続けた。
「・・・まあ、実際はたまたまなのかもしれませんが、それでも、私のところにやって来たのは、何かの縁だと思いましたので、放っておくことはできませんでした。先程も言った通り、病気の鳩を許可なく保護するのは法に触れる行為です。そのことは前々から知っておりましたから、それは覚悟の上で、錠剤を与えて看病しておりました。ですが、この子の病気が良くなって、ここから飛び立つのを見届けるまではどうしてもこのことを口外するわけにはいきませんでした。誰かに知られてしまっては、下手をすると、この子に薬を与えることもできなくなってしまうので、小島さんたちに追求された時も、何も言うことができませんでしたし、今も、こうして知られてしまうまで、何も言うことができませんでした。齋藤さん、瀬戸さん、黙っていて申し訳ありませんでした。」
そう言って、米子は、二人に頭を下げた。そして、こう続けた。
「お二人とも、どうか、このことを誰にも口外しないでいただけないでしょうか。この通りです。どうか、お願いいたします。」
米子は頭を下げつつ、そう言った。
「ちょっと、頭をあげてください、米子さん。」
二人は、あたふたしながら言った。
「いや、もちろん、誰にも言いませんよ。安心してください。それに、こうして、ただポストの上に乗っているだけなら、俺がそうだったように、あまり人目にも気づかれにくいと思いますし。薬を飲ませたり、世話したりしてるところさえ見られなきゃ、ただポストに乗ってるだけだって言ってごまかせるし、心配しなくても大丈夫ですよ。きっと良くなってもう一度空を飛んでいく姿、見られると思いますよ。」
そう言った正義に、瀬戸も同調して、大きく頷いた。それを見た米子はニコリと笑った。

 一件落着かのように思われたが、正義と瀬戸にとってはこれで終わりではなかった。当初の目的であった米子の隠し事が何であるかを知ることはできた。正義にとっても、小島達が流した噂がデマであるということを確かめることができたので、とりあえず納得できる結果であったが、瀬戸はこのままでは納得がいかないようであった。
「でも、米子さん。このことを誰にも言わないということは、噂を否定することもできないってことですから、結局、今の状況は変わらないですよ。それでいいんですか。」
瀬戸の言葉に対し、米子は俯いて何かを考えている様子で、押し黙ってしまった。瀬戸の発言に正義は、この二日間で見てきた米子の姿を思い出していた。店の外での米子の姿を見る前は、噂の真偽が確かめられればそれで良いと思っていた正義であったが、店外での米子の様子を見たことによって彼の気持ちは変化していた。そして、この時には正義も瀬戸と同じような思いを抱いていた。
「このまま何も言わないでいたら、間違った噂がみんなの中では本当のことになっちゃう・・・。本当は違うのに。そんなの悔しいです。納得いきません。」
そう続けた瀬戸に、正義も同調した。それを受けて、米子が、静かに口を開いた。
「・・・誤解をされるということは、そもそも、私がそういう人間だと、少なからず思われているからですよね。もし私がもっと周囲から信頼されるような人物であれば、たとえ変な噂が流れようが、『あの人がそんなことをするはずがない』と、誰も噂を信じることはないでしょう。でも、今の私は残念ながら、皆さんに疑われてしまっている。それは私が皆さんから信頼されていない証拠でしょう。つまり、今、私が置かれている状況は、突き詰めれば、他人からの信頼がない自分のせいです。自業自得。身から出た錆です。全部自分が悪い。だから、やっぱり、私は今回のことについて、何も言うことはありません。皆さんの判断にお任せします。私にできることは、ただ、皆さんに噂が事実ではないと信じてもらえるように、信頼を勝ち取れるように、一生懸命、仕事をすることだけです。・・・」
そう言って、米子は再び黙り込んだ。だが、それでも納得のいかなかった正義が米子に反論した。
「誤解されることに慣れたらダメですよ!誤解されたままなんて・・・誤解されているだけなんて、辛すぎますよ。・・・信頼されるために一生懸命やるって言いますけど、相手にそれが伝わらなけりゃ意味がない。初めから米子さんのことを良く思ってない人達には、いくら頑張ったところで、この先も良く思われることなんてないですって。相手がまともな考え方の人ならいいけど、小島みたいな連中には、どんなに信頼されようと思って努力しても、それを利用されるだけで、信用されることなんて考えられない。」
「いえ、私はいつか届くと思っていますよ。どんな人にでも。いつかわかってもらえる時が来ると信じています。それに、たとえ最後まで信用してもらえなかったとしても、それが一生懸命にやらない理由にはなりませんから。」
こう答えた米子に対し、正義はまだ納得できなかった。
「そんなきれいごとばっかり言ってるから、米子さんが思いやりを持ってしたことでも、全然相手に伝わらないで、損ばかりしてる・・・。誰からも認められない思いやりとか、頑張りとかは、やっぱり、見ていて辛いですよ。女子高生のハンカチを拾ってやっても、不審者扱いされて・・・」
そこまで言ったところで、瀬戸が正義の服を引っ張った。それに気が付くと、正義はしまったと思った。
「・・・えっと・・・、あれ。何で、そのことを知っているのですか・・・。それは、私が昨日・・・、ひょっとして・・・、お二人は昨日、私の後をつけて・・・。今日、こうして私の家の近くにいたのも・・・、私を尾行して・・・。」
米子が全てを言い終わる前に、瀬戸が口を開いた。
「ごめんなさい・・・。尾行するなんて間違ったやり方だとわかってましたけど、それでも、私は、どうしても、納得できませんでした。米子さんが何も言わないのは、きっと何か理由があると信じてましたし、米子さんが噂されてるような人には、私にはどうしても思えませんでした。だから、噂を否定するために、米子さんが黙ってる理由を何とか知ろうとして、齋藤さんに協力してもらいました・・・。」
「すみません・・・。尾行しようって言ったのは、俺です・・・。俺も噂を耳にして、なんか違うなって。米子さんっぽくないと思って。それで、真相を確かめたいと思ったから瀬戸さんに協力しました。・・・でも、正直、ほっとした部分はありました。昨日と今日、いや、今までの米子さんを見て、正直、俺も米子さんが噂されてるような人間には思えなかったんで。だから、本当のことがわかって、安心したというか・・・。今言うことではないですけど。ほんと、すみませんでした・・・。」
そう言って、頭を下げる二人を米子が制止した。二人が顔をあげると、二人の目線の先には、米子の笑顔があった。
「何だ。そうですか。見られていたのですね。」
そう言う米子に対し、瀬戸が、
「怒ってないんですか・・・。」
と聞くと、米子は、
「二人は、私が皆さんに噂されているような人間ではないと信じてくれたから、私を尾行したのですよね。そして、皆さんの私への誤解を解こうとしてくださったのですね。私は怒りませんし、お二人が謝る必要もないですよ。むしろ、ありがとうございます。お二人の貴重なお時間を私の為に使わせてしまって、申し訳ありませんでした。」
と答えた。それを受けて、正義は、
「なら、やっぱり、皆の誤解を解きましょうよ。」
と身を乗り出し、瀬戸もこれに同調した。
「・・・それでも、やっぱり、私は、噂のことは、皆さんの判断に任せたいと思っています。お二人の優しいお気持ちには本当に感謝しています。ありがとう・・・。」
そう言うと、米子は話を続けた。
「齋藤さんは、先程、誤解されるのは辛いと言っていましたよね。でも、私はそれほど辛くはないと思っています。辛いけれど、我慢できない程ではないなと。何かの目的があって行動しているときは、割と何を言われても我慢できてしまうものです。まったく何も感じないことはありませんが。駅前で、学生さんにハンカチを受け取ってもらえなかった時、通りすがりの自転車に『死ねよ、馬鹿』と言われました、後ろからは『キモい』、『サイテー』という声が聞こえて、サラリーマン風の方には思いっきり睨まれました・・・。昨日だけではなく、そんなことは日常茶飯事です。それでも、毎回、目的を持ってしていることなので、そう言われても仕方ないと割り切ることはできます。何にお金をかけるかということや、何の職業に就くのかというのと同じように、何の為に生きて、何を一番に考えて生きるかも、また、人それぞれ。信条、信念は自由です。だから、私も自分が損をしようが、自分の信念を曲げることはありません。というより、こうやって生きて来てしまったので、今更変えることができなくなってしまいました。善いことをしても、努力をしても、その分だけ自分に還ってくるわけではないのはわかっています。因果応報と言いますが、ブーメランのように帰って来るのは、悪いことがほとんどです。善い行いや頑張りなどは投げっ放しになるのが日常です。わかっています。それでも、そういう生き方しか選べないのです・・・。自分で決めたことですから・・・。すみません・・・。」
そう言って、米子は二人に対し頭を下げた。そして、こう付け加えた。
「それに、私のことをわかっていてくれる人が、少なくとも目の前に二人いますから。お二人にわかっていてもらえれば、私はそれで満足ですよ。」
そう言って米子は笑った。それを見て、正義はもう無理強いはすまいと、納得した。正義には、米子が良い意味でも、悪い意味でもとても頑固な人間のように思えたからであった。そこで、正義は米子に対して質問をした。
「米子さんは、噂みたいな、自分でコントロールできないものが怖くないんですか。俺は自分でコントロールできないものは何だって怖いです・・・。」
正義は、ふと自分の体調や病気のことまでも思い描きながら、米子に尋ねた。
「そうですね・・・。自分でコントロールできないものに対して、考えることは大事なことだとは思います。例えば、自分以外の人は皆、自分ではコントロールできませんよね。生きているうえで、生活のあらゆる場面で、他人のことを考え、想うことはとても大事なことだと思います。でも、それ以外のコントロールできないもの全てに対して、ああだ、こうだと考えすぎても仕方がないとも思っています。結局は自分ではどうすることもできないものですから。」
米子はそう答えると、話を続けた。
「・・・噂の話で言うと・・・、私は事実と真実が違っていても良いと思っています。私が噂についての判断を皆さんに委ねる理由はそこにもあります。目に見える事実だけが真実ではない時も多い・・・。
昔、とある公園の池でそこに泳ぐ鯉などの魚を見ていた時の事なのですが・・・。悩み事をしていて、しばらく池を眺めていると、隣に一組の親子、お母さんと小学校高学年くらいの娘さんがいるのに気が付きました。その子は私に、池には何がいるのか聞いてきました。初めは見ればわかるだろうと思っていたのですが、その子の方を振り返って、私は状況を理解しました。その子は目が見えないようでした。そこで私は鯉というお魚がいるよと答えました。次にその子は、そのお魚はどんな姿をしているのと私に聞きました。私は目の不自由な子に色や状態を伝えるのに困って時間がかかってしまい、うまく答えられずにいました。すると、困った私を見かねて、その子のお母さんが、『キラキラ輝いているよ。金ぴかに光っていてきれいだよ。』とその子に伝えました。それを聞いた女の子は、『へえ。そんなにきれいなの。すごいねえ。』と言って、お母さんと笑い合っていました。でも、実際は、その鯉は、どこの池にもいるような、何の変哲もない、灰色というか、銀色のような、普通の鯉でした。辛うじて、うろこがキラキラしているようにも見えなくはないですが、お世辞にも『輝いていてきれい』だなんて言えるようなものではありませんでした。それは、今思えば、お母さんの優しい嘘でした。でも、その子の中では、その鯉はキラキラしていてきれいなものとして記憶されたでしょう。事実はただの灰色の魚ですが、その子にしてみれば、そのお魚はキラキラとして美しい。それがその子にとっての真実です。私はそのお母さんの優しい嘘が忘れられません。私はその時、本当のことだけが真実とは限らないと知りました。事実と真実は同じとは決して限らないと。たとえ間違ったことでも、それを信じれば、信じた人にとってはそれが真実になる頃もあるのだとわかりました・・・。」
「・・・噂に話を戻すと・・・、世の中に存在するものは、見た目だけではそれがどういうものか判断できないものが多いと思います。それが人ともなれば、なおさら、見た目ではわかりません。私は自分の事だってよくわからない部分があります。自分がどういう人間なのか、悩みながらいつも生きています。自分のことでさえそうなのですから。他人の事なんてなおさらわかりません。・・・他人。他の人。自分とは別の人間ですから。だからこそ、私のことを知ろうとしてくれた、お二人がいかにありがたい存在なのかがわかります。今はまだ、お二人にしか理解してもらえていないですけれど、いつかは、私が噂されているような人間ではないと皆さんに思ってもらえるように、それが皆さんにとっての真実になるように、一生懸命頑張りますよ。」
米子はそう言って、また笑った。
「・・・水を差すようで悪いですけど・・・。」
と、正義が口を開いた。
「やっぱり、小島たちはどうかしてると思う時が多々ありますよ。正直、わかってもらうのは相当難しいと思うし、それに、あいつらにわかってもらう必要は、やっぱりないと思います。無駄な努力にしかなりませんよ、それは。」
正義はまだ、この部分には納得がいっていなかった。
「齋藤さんは、あまり小島さんを良くは思っていないようですね・・・。それと同じように、私も彼女に良くは思われていませんが・・・。
・・・でも、例えば、小島さんの目に見える部分だけを考えるから、彼女のことをあまり良く思えなかったりするかもしれませんが、目には見えない部分、私たちが見ていない部分で彼女にもいいところがあるのかもしれませんよ。人は見た目ではわかりません。先程言ったことです。目に見える部分だけを見て彼女を良く思わないのは、私に関する噂を聞いて、私を良く思わない人達と同じことになってしまう・・・。それに、小島さんのことを良く思っていない人もいれば、そうではない人もきっといるでしょう。いつも一緒にいる青山さんや神田さん、葛野さん、それに、辞めて行った方々はどうでしょうね。もしかしたら、利害関係だけで付き合っているのかもしれませんが、それでも、彼女を根っからの悪人だとは思っていないでしょう。私は、根っからの悪人はいないと思っていますし、真の善人というのも存在しないと思っています。私は人間には誰にでも良い部分も悪い部分もあると思っています。そのどちらかの割合が多いことが、人からどう見えるかということ、善い人もしくは悪い人に見えるという、人の印象に繋がると思っています。人に善い人だと思われている人は、その人格を形成する性質に、悪い部分よりも善い部分の方が多い人で、悪人と思われている人は、その逆なのだと、私は思います。性善説や性悪説はよく議論されることですが、私はどちらでもないと。人間は善くもあり悪くもあると思っています。・・・そういえば、他人のマイナスな部分やイメージは、プラスな部分、善い部分よりも目に付きやすく、印象に残りやすいと、大学で心理学の授業の際に学んだ気がします。印象の悪い人の方が目に付きやすいのは学術的にも立証されていることのようです。私の噂のこともそういうことなのかもしれませんね。あ、何だか他人事のように言ってしまいましたけど。」
そう言って笑う米子に対して、何か体よく言いくるめられたような気がして、正義は少し不機嫌そうな表情を浮かべていた。そんな正義を見て、米子はまた話し始めた。
「お二人はドッペルゲンガーというのを知っていますか。」
突拍子もない質問に正義が少し驚きつつ答えた。
「えっ。ドッペルゲンガーですか。それって、あの、自分とそっくりの人間が世界に三人いて、それに出会うと死ぬとか災難に遭うとか言われてる、あれですか。」
「はい。そのドッペルゲンガーです。お二人は、いると思いますか。」
米子の突飛な質問は続いた。
「えっ。そうですね・・・。ええと・・・、まあ・・・、いるのではないですかね、自分とそっくりな人は・・・。まあ、アジアのどこかとか、日系人の多いブラジルとかにはいそうな気はしますよね。それに、双子の人で、二卵性双生児であれば、容姿はそっくりになりますものね。それを考えれば、自分に瓜二つの人間がいてもおかしくはないとは思いますが・・・。」
正義が答えると、瀬戸も続いた。
「私も、昔、同級生に、『この間あそこで見かけた』って、行ってもいない場所で自分を見かけたって言われたことがあって・・・。それがドッペルゲンガーかどうかはわからないですけど、他人の空似は結構あると思います・・・。それで、ドッペルゲンガーがどうしたのですか。」
困惑しながら、瀬戸が尋ねると、米子がゆっくりと話し始めた。
「私はドッペルゲンガーはいると思っています。それも、一人や二人ではなく、無数に存在していると思っています。」
予想外の返答に、正義は米子に聞き返した。
「えっ、無数に、ですか・・・。どういうことですか。」
正義の反応に対して米子は冗談っぽく笑いながら、話し出した。
「ドッペルゲンガーのことを話題にしたのは、少し大げさだったかもしれませんが、私は確かにこの世の中には、ここにいる自分以外の自分がいると思っています。それは、自分が関わってきたすべての人、それぞれの中にいる自分のことです。私が付き合っている人々、会ったり話したりする人々の数だけ、一人一人の中に、一人ずつ自分が存在していると思っています。そして、それらの自分は皆、ここにいる自分とは異なる自分だと思います。それは、私のことをどう思うかは人それぞれ違っていて、私のことをまったく同じように思う人間はいないからです。私が会った相手の感じ方次第で、その人の中の私の性格や、私がどんな人間かは変わっていきます。私のことを良く思わない人もいますから、そういう人の中では、私はあまりいい人間ではないということになるでしょう。でも、そういう自分も、まぎれもなく自分であって、その人にとっては真実の私です。他人から見た自分は、それぞれが皆、それぞれの人にとっての真実の私なのです。私のことを知っている人の数だけ私はこの世に存在していて、そのどれもが正真正銘の自分だと思っています。そして、自分の他人へのふるまい次第で、それぞれの自分の性格や人となりも変わります。自分の行い次第で幾通りもの自分が存在していくことにもなります。だからこそ、出会った人、皆に対して善くしたいと思いますし、皆に対して善くありたいと思います。先程も言いましたが、自分のことはわかっているようで、実際、自分のことでもよくわからないこともあります。自分のことは自分にしかわからないけれど、自分でもわからない部分がある。それに、普段の自分のふるまいや自分の姿は自分にすら見えない。だから、もっと他人に対して寛容にならなければいけないなと思います。相手の気持ちを考えるときには、同時に相手に自分がどう映っているのかを想像してみることも重要なことなのかもしれません。そう思うと、他人の悪口なんて言うものではないなと思えてくるのです。なぜなら、他人を悪く言ったり、陰口をたたいたりすればする程、自分が窮地に追い込まれていくだけですから。実際に陰口をたたく自分がいい人間でないのは当たり前ですが、相手の中の自分はそれにも増してどんどん最低な人間になって行きますから。そして、そういう言葉は必ず自分に還ってきますから。それに、大事なことは、悪口が相手にばれたらまずいとか、そう言うことではなくて、あくまで、悪口が相手の耳に入ってしまったら、相手が悲しむだろうなと想像することですから。そう考えると、良くない噂を流すことって、あまりいいことだとは言えないですよね。・・・あ、ちょっと、話が長くなりすぎてしまいましたね。私は話し出すとつい長くなってしまうことが多くていけませんね。すみません・・・。」
そう言って、悪口を言われている当事者であるはずの米子は笑っていた。正義は、そんな米子の話す言葉を、何だか、スピーチコンテストみたいな堅苦しいことを言い出したな、この人、と思って聞いていたが、彼の様子を見ていて、どうやら、これを本人は本気で思って、話しているらしいということだけは、正義にもわかった。ただ、本人が言うように、話が少し長いなとも思った。彼は何となく、学生時代、全校集会で聞かされた校長の話を思い出した。あの頃の自分は、すごく良いことを言っているなと思える内容でも、話が長くなってくると、落ち着かなくなってきて、話の内容が全然頭に入らなくなっていたのに、米子の話を落ち着いて聞いていられる今の自分はその分だけ成長したのか、はたまた、米子の話がそんな自分を食いつかせるだけの内容のある話なのか、果たしてどちらが正しいのだろうかと、正義はまた余計なことを考え始めていた。この時点で、落ち着いて他人の話を聞いているとは、あまり言えないのではないかということを、正義本人は理解していないようであった。そんな正義の隣で、瀬戸は終始、大人しくじっと米子の方を見ながら、彼の話に耳を傾けていたように見受けられた。やはり、見た目の割に、こういう部分はちゃんとしているのだよな、と正義は改めて思った。

 米子が一通り話を終えると、正義と瀬戸は彼の言ったことについて少し考えを巡らせていた為、しばらくの間、三人ともに無言の状態が続いていた。米子は二人が物思いにふけっている間、時折、鳩の様子を窺っていたが、鳩は相変わらずほとんど動こうとはせず、ポストの上に留まり続けていた。おそらく、米子の話したことについて自分なりに真剣に考えているのであろう根は真面目な瀬戸とは対照的に、正義は、米子の話のことを考えつつも時折、鳩を見ながら、「ポストにマヨネーズ」はどこかで聞いたことがあるけれど、「ポストに鳩」は聞いたことがないなどと、前にもどこかで考えていたようなくだらないことを、さも何か大切な思索にふけっているかのような真剣な面持ちで考えていた。しばらくして、米子が、
「何だか、全然、ろくにおもてなしもできず、ましてや一人で長話をしてしまって、申し訳ないです・・・」
と口を開いた。それに対し、瀬戸が、
「いえ、おもてなしは、結構ですけど、なんか、立ち話もなんですから、とりあえず中に戻りましょうよ。ね。そうしましょう。」
と言って、米子と正義の背中を押した。再び、ダイニングに戻り、椅子に腰かけた正義と瀬戸に、米子は冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して、テーブルの上に置き、それらを二人の前に置いた。
「良かったら、どうぞ。これなら、汚れてないので安心ですよ。」
米子の言葉に対し、二人は薄笑いを浮かべながら顔を見合わせた。
「大丈夫。大丈夫ですから。多分。」
と米子が言うと、二人は笑いながらコーヒーのタブを起こした。正義はコーヒーを口にしながら、いいこと言うけれど、やはり、なんか変わった人だよな、この人は。と、米子のことを考えていた。そして、米子が言った、「人は見た目ではわからない」という言葉を思い返していた。それはまさに、米子本人を表す言葉ではなかったかと、正義は思った。初めて米子を見た時は、その容姿、風貌に衝撃を受けたものだが、彼の働きぶりや姿勢、考え方は、とてもその見た目からは想像できなかったなと、つくづく正義は思っていた。また、ただのあやしげな同僚であった米子の家で、今こうして同じ時間を過ごしていることの不思議さ、運命の巡り合わせの妙のようなものを、正義は感じていた。

 しばらく三人はたわいもない話をした後、正義と瀬戸は米子の家を出た。帰り際、塀の外で見送る米子の姿と、心なしか二人の方を見つめているように見えた鳩の顔が、正義の印象に深く残った。帰り道、瀬戸の自転車の荷台に座る正義は、今更になって、米子が話したことについて、真剣に考えていた。前に座る瀬戸も、同じように米子が話したことを考えているようだった。二人はしばらく無言のままで、来た道を引き返していた。そんな中、ちょうど、日光街道に差し掛かる辺りで、瀬戸が沈黙を破った。
「・・・この間、私が、自分を変えたいと思ってるって言ったの、覚えてますか。」
「はい、言ってましたね、そんなこと。」
「そう思ってはみても、私は結局、髪型とか、ファッションとか、見た目から入ることしかできなくて・・・。自分の意見をはっきりと口にするとか、間違ってるなと思ったことは間違ってるとはっきり言うとか、そういう、心の在り方みたいなことというか・・・、
人生哲学って言うのか、うまく言えないですけど、そういうもの・・・。何かを考えるときに、自分の中の価値判断の基準になるような重要な柱みたいなものが、まだ、自分にはないなって。米子さんの考え方を聞いてて思いました・・・。」
「いや・・・、それを言うなら、俺なんてもっと・・・。正直、瀬戸さんの方が、自分なんかよりよっぽど、しっかりと自分の考えを持ってると、見てて思うし・・・。
俺は、瀬戸さんより三年も無駄に生きてますけど、今の今まで、心の在り方だとか、自分の考え方だとかいうものをしっかりと考えたことはなかったような気がします・・・。考えるのが面倒だとか、どうせ俺は何してもダメだからとか、病気だからとか、境遇のせいとか、毎回なんかのせいにして、結局、そういうことを真面目に考えるのを後回しにしてきて・・・。だから、俺は未だに、どんな人間になるべきか、どんな人間であるべきかなんていう考えが自分の中にないって、米子さんの話を聞いて、気が付きましたよ・・・。もはや、今の俺は生き方に迷うとか、それ以前の問題で、生き方の選択肢自体が自分の中にはないなって・・・。行き当たりばったりで、流されるように生きてきたなって・・・。」
静かに耳を傾ける瀬戸に対し、正義は、さらに話を続けた。
「もちろん、米子さんの考え方はすごいな、立派だなと思ったけど、同時に、俺にはそれは無理だなと思ったところもいっぱいあったし。疑問に思うところもありました・・・。
ああいう考え方だから、あの人はいつも一生懸命なんだなってことは納得できましたけど、いつか、頑張りすぎて自分を滅ぼしてしまわないかとか、何だか少し、心配になりました・・・。俺にはあんな風に頑張ることはできない。それでも、自分と同世代の人が、確固たる信念みたいなものを既に持って、生きてることに、何だかすごいなって思ったり、羨ましいなって思ったり、色んなことを考えさせられたような気がします・・・。」
「齋藤さんだって、米子さんの話、余所見しながら聞いてた割には、ちゃんと考えてるじゃないですか。」
そう瀬戸に言われて、少し嬉しかったのと同時に、余所見していたのをしっかり見ているとは、相変わらず鋭い洞察力だなと感心しつつ、正義は、また話し始めた。
「・・・米子さんにも言ったけど、俺だったらやっぱり、誤解されたままなのは怖いな。自分でコントロールできないものは怖いよ。他人にどう思われてるかとか、すごい気になるし。その癖、米子さんみたいに良く思われようと努力する気もない・・・。それでも、他人に馬鹿にされることが嫌だから、つい自分を大きく見せようとしたり、見栄を張ったり、強がったりしてしまう。それで、自分に自信もないから、つまらないことを気にしたり、それに腹を立てたり、他人の発言を悪い方に取って、自分の方が他人のことを誤解したり・・・。
瀬戸さん、覚えてますか。カタクリの花について聞いてきたお客さんに、俺が突っかかってしまった時のこと・・・。あれが、まさにそういう状況でした・・・。」
「覚えてます。だって、齋藤さん、私にも八つ当たりしてきたし。それにまだ、あの時のこと、謝ってもらってませんから。」
「・・・その節は・・・、大変申し訳ありませんでした・・・。」
「冗談ですよ。・・・にしても、たしかに、ちっちゃいことでお客さんに怒ってましたよね。」
「そうですね。どうせ俺なんて、自他ともに認めるケツの穴の小さい男ですから。ケツの穴が小さすぎて、生まれてこの方、クソもしたことがないんじゃないかって、巷では噂されていますよ、きっと。」
「きたなっ!急に下ネタとか、止めてくださいよ。しかも、すごい卑屈だし。つまんないし。意味わからんし。」
「・・・まあ、そういう俺の姿が滑稽で周りに馬鹿にされてるのにも気が付けませんでしたから。見ている方は、それがまた滑稽だったろうな・・・。そういう自分に嫌気がさしてるんだけど、現状から抜け出す術もなく、もがいているのが、今の俺ですね・・・。」
「じゃあ、そこから抜け出さないと、ですね!私も自分が目指す自分に近づけるように、米子さんみたいに自分の考えをしっかり持とうって思います。」
「そうですか。・・・俺は頑張るの苦手だし、そもそも『頑張る』っていう言葉自体が嫌いでね。まあ、でも米子さんと瀬戸さんを見習って、何か一つでもいいから、一生懸命取り組めるものを見つけたいなと思う・・・かな・・・。」
「なんか、いつもはっきりしないですよね。」
と言って、瀬戸は笑っていた。

 俳人ゆかりの橋が見えてきたところで、瀬戸と別れた正義は、再び、物思いに耽った。自分は一生、他人や自分自身、そして自分の運命を怨み、呪って生きていくしかないと正義はずっと考えてきたが、果たして、それは本当にそうなのだろうかと、自問自答しながら、彼は橋の手すりに両腕を乗せ、その上に自分の顎を乗せた状態で、じっと、川の流れを眺めていた。正義が今まで抱いてきた人生観によると、人生は気が付けばいつでも破滅に向かって進んでいるもので、それをいち早く察知して、何とか自らへの被害が最小限になるように軌道修正する。その繰り返しが人生であり、それが生きていくということだと、彼は思っていた。だからこそ、人生が楽しいものだとは思えなかったし、何をしていても悲壮感は消えないし、拭い去ることもできなかった。だが、本当にそうだろうか。本当にそれでいいのだろうか。本当に自分はこのままでいいのだろうか。何となく、米子と瀬戸を見ていて、正義は自分の考えに疑問を持ち始めていた。自分が考えていた人生は、今までの自分が確固たる考え方や自信を持たないまま生きた上で抱いた妄想ではないのか。瀬戸の言っていたように、自分にも「柱」のような価値判断の基準になるようなものが、そんな、たしかなものがあれば、人生に対する見方が変わることもあるのではないか。太陽の光が乱反射する水面を見つめながら、正義はささやかではあるが、希望のようなものが見えた気がした。
 生きていくということは、即ち、人と付き合っていくこととも言えるが、今まで他人のことなどあまり深く考えず、また、他人と深くかかわることを避けてきた正義にとっては、人とうまく付き合っていくということはそう簡単なことではないように思えた。その悩みは、正義の中にかすかに生まれた希望をかき消すには十分に思えた。正義は、米子が先程語ったことについてまた、考えていた。そして、彼は、他人の中にいる「もうひとりの俺」について考えた。他人との接触を避けてきた自分が、そもそも他人に覚えられているのだろうか。自分は他人の中に存在しているのだろうか。正義にはそれが甚だ疑問であった。川を眺めながら、彼はいつかのことを回想していた。それは彼が瀬戸と同じ二十歳の時であった。彼はその頃も自分の体調のことで悩み、うまく毎日の生活を送れず、当時の彼の心は荒み切っていた。そんな状態で昔の知り合いに会いたくはなかった為、彼は成人式には出席しなかった。その後、偶然、道端で同級生に遭った際、その同級生から何故同窓会に来なかったのかと聞かれた。同級生が言うには、成人式の後に、皆で集まって同窓会を開いた。お前のところにも招待状が届いたであろうとのことであった。正義は同窓会の話など知らなかった。招待状なども一切、彼の家には届かなかった。当時はまだ、彼が家を出る前で引っ越してもいないし、電話番号も昔のままだったのにもかかわらずであった。もちろん、知っていたところで正義は同窓会には出なかったであろうが、その一件で、彼は他者の自分への関心の度合いがわかったような気がして、内心ショックであった。彼は、何故来なかったのかと自分に聞いた同級生にしても、本当は、別に自分が来ても来なくてもどちらでも良かったと思っていたに違いないと確信した。そんな自分の、「もうひとりの俺」がこの世の中に存在しているなどとは、到底思えなかった。いわば、自分は、この世には今ここにいる自分一人きりなのだと、彼は思った。それならそれで、清々すると嘯いてみても、ただ虚しく、寂しさが募るだけであった。それであれば、これから先の人生の中で、他人の中の自分を増やしていけばいいではないかと思ってみても、今の彼にはその自信はまだなく、そんな落ち込んだ気持ちの彼には、水面の輝きが鬱陶しく思えてきて、正義はその場から離れた。
これから、どう、人と関わっていくのか。正義にとっての重大なテーマが浮き彫りになっていた。人は付き合う人間によって、良くも悪くも大きく変わっていくと、昔どこかで誰かが言っていた言葉を彼は思い出した。自分が善き人に出会い、善くなっていくことなどあるのだろうか。もし良き出会いがあったとして、善くなっていくことなどできるのか。彼は考えていた。「類は友を呼ぶ」とはよく言ったもので、そもそも自分がまず善い人間ではないのに、善き人に出会うことなどあり得ないのではないかと彼は思った。自分のことばかり考えているが、先程の言葉を解釈すると、人の出会いは相手があってのことなのだから、相手にとっては自分が善き人でなければならないのではないか。付き合う人たちがお互いに高め合っていくという意味の言葉だったとしたら、自分にはそれは荷が重すぎると彼は思った。自分が良き出会いに恵まれることも難しいが、それ以上に、自分が他人にとって良い存在であったり、人を良い方向へ導いたり、変えたりすることの方がより困難に思えたのだった。そんなことを考え、下を向きながら歩いていると、彼は宿の前まで歩いてきていたことに気が付いた。
部屋に戻ると、正義はいつものようにベッドの上に置かれたものを端に寄せ、そうしてできたスペースに自らの身を投げ込んで、天井を見上げながら、考え事の続きをしていた。彼はまた眠れそうにはなかった。ベッドの上で目を閉じたまま時間だけが過ぎるが、良い考えなどまるで浮かびはしなかった。今までの癖なのか、何を考えてみたところで、すぐに悲観的な考えばかりが頭をよぎるのであった。二日前、自転車を失ってまで買いに行った馬券のレースのことも、もう半ばどうでもよくなっていた。普段の正義であれば、結局この時間まで起きていたのなら、今日、馬券場に行けばよかった。そうすれば自転車も失わずに済んだのにと激しい後悔に苛まれているところだが、そんなことさえも、もはや考えてはいなかった。ベッドの上に正義だけを残して、時間はただ静かに過ぎて行った。

 次の日の夜、正義は少し早めに出勤すると、駐輪場のそばで瀬戸が来るのを待った。間もなく、瀬戸が川崎の自転車に乗って来たのを見ると、正義は彼女の方へと近づいていった。
「あ、おはようございます・・・。この間は、どうも。・・・あ、これ、自転車もありがとうございました。今度はちゃんとパンクの修理できていると思いますので・・・。」
「おはようございます。いえいえ、こちらこそ、色々手伝ってもらって、ありがとうございました。」
「いやぁ・・・、結局、周りの誤解を解くことまでは出来なかったですから。力及ばず、すみませんでした・・・。」
「もう。すぐにそうやって謝る。本当に感謝してますから、素直に感謝されて下さいよ。」
そう言って笑うと、瀬戸はバッグから何かを取り出して、正義に手渡した。
「これ・・・、良かったら、感謝のしるしですから、受け取ってください。」
正義は渡されたものを見ると、どうやらTシャツのようであった。
「なんか、この前、ピン留めでやきもち妬いてましたからね。齋藤さんにも何かあげないとなって思いまして。」
と言って、瀬戸はまた笑った。
正義がTシャツを拡げると、そのフロント部分には、キング・クリムゾンの「クリムゾンキングの宮殿」のジャケットがプリントされていた。正義はそれを見て、彼女は俺が「二十一世紀の精神異常者」だとでも言いたいのかと思った。彼女の冗談だか本気だかわからない、謎のセンスに、正義が返答に困っていると、突然、後ろから肩を叩かれた。彼が振り返ると、始業前から既に汗だくの米子が満面の笑みを浮かべていた。そして、正義にこう言った。
「実はそのプレゼント、私も選ぶのを手伝いました。どうですか。気に入ってもらえましたか。」
米子の発言に対して正義は、ということは、これは、ほぼ、あんたのセンスということではないか、と心の中でツッコミを入れたが、素直に二人に喜びを告げて笑い合った。正義は思った。もしかしたら、自分はもう既に良い出会いを得ているのかもしれないと。だとしたら、今度は自分がどうするかではないかと。そんなことを考えながら、正義は、早速、更衣室で貰ったTシャツに袖を通した。
 ちなみに、余談ではあるが、自転車と引き換えに購入した皐月賞の馬券は、当初の正義自身の予想通り、外れていた。携帯電話でレース結果を見ながら、何事も全部が全部、うまくいくわけではないのが人生というものだと、正義は改めて実感した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み