第5話 迷子の恋

文字数 1,623文字

「リューウ! ゆりとツーショしよっ」
 星をながめているわたしたちに声をかけてきたのは……さっきまで、シン君と一緒にいたゆりちゃん!
 白いふわふわのパーカーを着て、寒そうに立っていた。
「野乃花ちゃん、ごめんね?」
 申し訳なさそうに首をかしげるゆりちゃんは、真っ白いうさぎみたい。
「ううん、だいじょうぶだよ!」
 ホントはもう少し話していたかったんだけどな……。
 リュウが断ってくれないかな? と期待したけど、「オッケー」とゆりちゃんの元へ。
 ゆりちゃんもモデル活動をしているから、本当に美男美女のカップルだ。
 あ……白いうさぎが、黒いうさぎの手をひいて、ホテルの遊歩道へと消えていった。
 ゆりちゃんとリュウは、そのあとずっと外で話をしていたらしいと、ほかの子に聞いた。


 そして翌日。事件は起きた。
 ゆりちゃんが告白の赤いチケットを出した。
 シン君一筋だったゆりちゃん。
「シンがわたしに告白してくれますように!」と旅の途中で寄った神社で、絵馬に書いていたくらい。
 想いを伝える場所は、海。
 いざ、告白という時になり、呼び出された人を見て……全員、目が点になった。
 ゆりちゃんが赤チケを使った相手は……。
 リュウ。
 どうして????
 夕陽がしずんでいく砂浜を、2人が歩いて行く。
 あんなにシン君に猛アタックしてたのに、どうして急にリュウに?
 だれかが「リュウのやつ、ゆりにも手え出してたのかよ」と言った。
「あほなこと言うな」
 シン君の鋭い声。
「おれがはっきりせんかったから……ゆりちゃん、リュウに電話で相談しよったらしい。それで、好きになった。リュウの恋チケはいつ終わるかわからんし、気持ちを信じてもらうには告白しかないと思ったんちゃうか」
 ゆりちゃん、電話の権利をリュウに使ったんだ!
 リュウがわたしに電話したあとかな? 
 どうしよう、そんなに恋する気持ちって変わるものなの?
 じゃあ、リュウも……昨日、ゆりちゃんと話して、気持ちが変わったことだって考えられる。
 ううん、もともと「気になる」と言われただけで、好きだと言われたわけじゃない。
 ほっぺのキスも、甘い言葉も……リュウにとってはあいさつ程度なのかも。
 不安が波のように押し寄せて、立っているのがやっとだった。


「ふう……」
 ゆりちゃんの告白から、1週間。
 トイレでリップクリームを塗り直したとたん、大きなため息が出てしまった。
 やってきたのは、アクセサリーが手作りできるクラフト館。かわいいアイテムがいっぱいで、ブレスレットやキーホルダー、いろいろなものが作れる。
 でも、気持ちが上がらない。
 あのとき。海での告白で、戻ってきたのはリュウだけだった。
 波打ち際で、ゆりちゃんは肩を震わせて、ずっと泣いていた。
 今思えば、参加する前のわたしって、恋のこと、何もわかっていなかった。
 彼氏を欲しがる前に、自分が人をきちんと好きにならなきゃ、恋なんてできない。
 リュウと、ずっと気になってるシン君。
 自分の気持ちがわからなくて、迷子になった気分。
「野乃花ちゃん、めっちゃ真剣な顔してるー! 相手はどっち? シン? リュウ?」
 わっ。まいちゃん!
「ま、まだわかんないよ」
「わかんないって、野乃花ちゃん明日でおしまいだよ?」
「……だよね。もう時間がないよね……」
 ごくり。
 わたしはまだ、自分の気持ちを決められない。
 それは、シン君のことがわからないからだ。
 かっこよくて、やさしくて、おもしろくて、わたしの理想そのもの。
 だけど、こんなに一緒にいたのに、ゆっくり話したことがない。
 理想の王子様と、甘い言葉をささやく悪魔くん。
 ……気持ちをはっきりさせるためには、まずはシン君と話さなくちゃ!
「シ…シン君! あの、一緒にブレスレット作ろ!」
 精一杯の勇気を出して、シン君を誘った。
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