第1話 イケメンは危険です
文字数 2,312文字
「おまえ、本当にシンのこと好きなの?」
「ぶっ」
「わ、なにやってんだよ!」
思わずオレンジジュースをふきだしちゃって、リュウが笑いながらティッシュをくれた。
リアル恋愛番組「恋する週末ホームスティ」でおとずれた、春の遊園地。
2人きりの観覧車は、頂上にさしかかっている。
「な、なんでそんなこと聞くの!? リュウには関係ないでしょ」
「あるよ。おれは、野乃花(ののか)が一番気になってるから」
「ええっ!?」
カーッとほっぺが熱くなる。
その顔がおもしろかったらしく、リュウがいじわるそうな笑みを浮かべた。
「野乃花って、意外に純情だよな。あんまり男子と話したことない?」
向かい合わせに座ってたリュウが、近づいてくる。
うそ、な、なに!?
筋肉質の体に、整った顔。
アップで見ると、本当にかっこいいな……なんてうっとりしている場合じゃないっ。
……リュウの長い指が伸びてきて……そっとわたしの髪にふれた。
わたし、キスされちゃうの!?
きゅっと体がかたまっちゃったけど、リュウは桜の花びらをとっただけだった。
鼻の先に、ピンク色のかわいい花びらを見せられる。
あわあわして、バカみたい。
たぶん、ほっぺどころか耳まで赤くなってるよ。
リュウはそんなわたしの反応をいちいち楽しんでいて、くやしくなる。
「……男子と話したことくらいあるし。合コンだってしたことあるし、ラインでつながってる男の子いっぱいいるんだから!」
これはうそ。合コンなんて別世界の話だし、ラインの男子はお父さんだけ。
リュウは「ふうん」と、ぜんぜん信じてないみたい。
「本当なんだから! 地元に素敵な男の子がいないから、しかたなく恋ステに参加したの!」
これは本当だった。
初恋の相手は、絶対に「かっこよくて」「やさしくて」「おもしろくて」「わたしだけを大切にしてくれる人」。そう決めている。
でも、現実にはそんな人とはなかなか出会えなくて、いまだ彼氏がいたことなし。
それどころか、理想が高くなりすぎちゃって、好きな人すらできたことがない。
わたしのまわりにはいないけれど、もしかしたらそんなわたしだけの王子様が、日本のどこかにはいるかもしれない。
ううん、絶対いるはずだ!
そう思って「恋する週末ホームステイ」に参加した。
「恋ステ」は、遠く離れた場所に住む高校生たちが週末だけ会える恋愛リアリティショー。
恋がしたい高校生だけが参加できる。
リュウはそんな「恋ステ」の参加者の中でも、ひときわかっこよかった。
背が高くて黒い服の似合う、高校生モデル。
ちょっと強引なオレ様気質で、わたしは「ツーショットするぞ。来い」と、観覧車に連れてこられたのだ。
ドキドキが止まらなくて、ちらっとリュウを見ると……銀色のピアスがきらり。
シンプルな鎖状のピアスが、骨っぽい首もとでかすかにゆれている。
そうだった。
リュウにはだまされない。
そう決めたんだ。
ちょうど、観覧車が一周回って、下で手をふっているシン君たちが見える。
た、助かった……!
赤いダッフルコートを着たシン君、ゆりちゃん、まいちゃん。
手をふりかえすと、リュウがその手首をつかんだ。
「……!」
「……もう一周。返事、聞いてないよ。シンのこと、好きなの?」
そんな真剣な目でみつめられると、ぐらっときてしまう。
ぐらっときちゃうけど……それ以上に、リュウは怖い。
だまっていると、リュウが小さなため息をついて、手を離してくれた。
ほっ……。もう1周なんて、心臓がもたないよ。
係員が「足元にお気をつけくださーい」と扉をあけてくれる。
その開けた扉の陰で……。
本当に自然に、まるで流れるように。
ほっぺに軽く、キスされた。
ひえっ……!
「おしおき。シンばかり見てないで、おれのこともちゃんと見てよ」
カチンコチンに固まるわたしを、「行くぞ」とリュウが手を引く。
な……なんだったの、今の!?
心臓がドキドキして、足がふるえてる。
リュウは女子に、ものすごく積極的にいくと思ってたけど、本当にそうだった。
だまされちゃだめだ、わたし! しっかりして!
満開の桜の下、黒い服を着たリュウは場違いな悪魔みたい。
うっかり好きになったら、手のひらで転がされてポイッとされちゃうかもしれない。
だってリュウは、先週までありすちゃんとツーショットをくりかえしていた。
寒がりなありすちゃんの手は、いつもリュウのポケットの中だった。
でもありすちゃんが「赤いチケット」でリュウに告白したら……。
リュウの答えは「ノー」。あっさりふってしまった。
ありすちゃんは、チケットが先週で終わりだから、告白するしかなかったのに。
泣きながら帰るありすちゃんを見て、わたしは誓ったのだ。
「いくらかっこよくても、好きにさせといてふっちゃう悪魔みたいな人には、恋をしちゃいけない。悪魔にはだまされない!」と。
その証拠に、わたしが恋愛初心者だということも見破った。
お姉ちゃんに派手めのメイクとエクステをしてもらって、ミニスカートも借りて、恋愛マスターな感じにしているのに。
だいたい、ありすちゃんとおそろいで買ったピアスをつけながら、わたしの初キッス(たとえほっぺであっても!)を奪うなんて、信じらんないよ。
ふっと、リュウと目が合う。
わたしはまた、動けなくなる。
リュウ、ニッと笑って、自分の唇を人差し指でチョンチョン。
……こ、今度はそこにキスってこと……!?
「ぶっ」
「わ、なにやってんだよ!」
思わずオレンジジュースをふきだしちゃって、リュウが笑いながらティッシュをくれた。
リアル恋愛番組「恋する週末ホームスティ」でおとずれた、春の遊園地。
2人きりの観覧車は、頂上にさしかかっている。
「な、なんでそんなこと聞くの!? リュウには関係ないでしょ」
「あるよ。おれは、野乃花(ののか)が一番気になってるから」
「ええっ!?」
カーッとほっぺが熱くなる。
その顔がおもしろかったらしく、リュウがいじわるそうな笑みを浮かべた。
「野乃花って、意外に純情だよな。あんまり男子と話したことない?」
向かい合わせに座ってたリュウが、近づいてくる。
うそ、な、なに!?
筋肉質の体に、整った顔。
アップで見ると、本当にかっこいいな……なんてうっとりしている場合じゃないっ。
……リュウの長い指が伸びてきて……そっとわたしの髪にふれた。
わたし、キスされちゃうの!?
きゅっと体がかたまっちゃったけど、リュウは桜の花びらをとっただけだった。
鼻の先に、ピンク色のかわいい花びらを見せられる。
あわあわして、バカみたい。
たぶん、ほっぺどころか耳まで赤くなってるよ。
リュウはそんなわたしの反応をいちいち楽しんでいて、くやしくなる。
「……男子と話したことくらいあるし。合コンだってしたことあるし、ラインでつながってる男の子いっぱいいるんだから!」
これはうそ。合コンなんて別世界の話だし、ラインの男子はお父さんだけ。
リュウは「ふうん」と、ぜんぜん信じてないみたい。
「本当なんだから! 地元に素敵な男の子がいないから、しかたなく恋ステに参加したの!」
これは本当だった。
初恋の相手は、絶対に「かっこよくて」「やさしくて」「おもしろくて」「わたしだけを大切にしてくれる人」。そう決めている。
でも、現実にはそんな人とはなかなか出会えなくて、いまだ彼氏がいたことなし。
それどころか、理想が高くなりすぎちゃって、好きな人すらできたことがない。
わたしのまわりにはいないけれど、もしかしたらそんなわたしだけの王子様が、日本のどこかにはいるかもしれない。
ううん、絶対いるはずだ!
そう思って「恋する週末ホームステイ」に参加した。
「恋ステ」は、遠く離れた場所に住む高校生たちが週末だけ会える恋愛リアリティショー。
恋がしたい高校生だけが参加できる。
リュウはそんな「恋ステ」の参加者の中でも、ひときわかっこよかった。
背が高くて黒い服の似合う、高校生モデル。
ちょっと強引なオレ様気質で、わたしは「ツーショットするぞ。来い」と、観覧車に連れてこられたのだ。
ドキドキが止まらなくて、ちらっとリュウを見ると……銀色のピアスがきらり。
シンプルな鎖状のピアスが、骨っぽい首もとでかすかにゆれている。
そうだった。
リュウにはだまされない。
そう決めたんだ。
ちょうど、観覧車が一周回って、下で手をふっているシン君たちが見える。
た、助かった……!
赤いダッフルコートを着たシン君、ゆりちゃん、まいちゃん。
手をふりかえすと、リュウがその手首をつかんだ。
「……!」
「……もう一周。返事、聞いてないよ。シンのこと、好きなの?」
そんな真剣な目でみつめられると、ぐらっときてしまう。
ぐらっときちゃうけど……それ以上に、リュウは怖い。
だまっていると、リュウが小さなため息をついて、手を離してくれた。
ほっ……。もう1周なんて、心臓がもたないよ。
係員が「足元にお気をつけくださーい」と扉をあけてくれる。
その開けた扉の陰で……。
本当に自然に、まるで流れるように。
ほっぺに軽く、キスされた。
ひえっ……!
「おしおき。シンばかり見てないで、おれのこともちゃんと見てよ」
カチンコチンに固まるわたしを、「行くぞ」とリュウが手を引く。
な……なんだったの、今の!?
心臓がドキドキして、足がふるえてる。
リュウは女子に、ものすごく積極的にいくと思ってたけど、本当にそうだった。
だまされちゃだめだ、わたし! しっかりして!
満開の桜の下、黒い服を着たリュウは場違いな悪魔みたい。
うっかり好きになったら、手のひらで転がされてポイッとされちゃうかもしれない。
だってリュウは、先週までありすちゃんとツーショットをくりかえしていた。
寒がりなありすちゃんの手は、いつもリュウのポケットの中だった。
でもありすちゃんが「赤いチケット」でリュウに告白したら……。
リュウの答えは「ノー」。あっさりふってしまった。
ありすちゃんは、チケットが先週で終わりだから、告白するしかなかったのに。
泣きながら帰るありすちゃんを見て、わたしは誓ったのだ。
「いくらかっこよくても、好きにさせといてふっちゃう悪魔みたいな人には、恋をしちゃいけない。悪魔にはだまされない!」と。
その証拠に、わたしが恋愛初心者だということも見破った。
お姉ちゃんに派手めのメイクとエクステをしてもらって、ミニスカートも借りて、恋愛マスターな感じにしているのに。
だいたい、ありすちゃんとおそろいで買ったピアスをつけながら、わたしの初キッス(たとえほっぺであっても!)を奪うなんて、信じらんないよ。
ふっと、リュウと目が合う。
わたしはまた、動けなくなる。
リュウ、ニッと笑って、自分の唇を人差し指でチョンチョン。
……こ、今度はそこにキスってこと……!?