3月31日(火)石巻駅から女川駅
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電車に乗って、車窓を眺めていた。
石巻から女川までは陸前稲井・渡波・万石浦・沢田・浦宿・女川の6駅。30分かからない。
日当たりのいいのどかな風景の中に、電車に向かって手を振っている人がいた。
笑顔で、嬉しそうに、穏やかな感じに。
乗っている人もまばらな石巻線だったけれど、知り合いでも乗っているのかと思った。
しかし視線が動いて『誰か』を見ているようでもなくて、ただ走っている電車に向かって手を振っているようだった。
特別でもなんでもない、私にとっては走っていることが当たり前に感じてしまうJRの電車に向かって、手を振っていた。
手を振り返す。
気持ち、目が合ったような気がした。
笑顔の人に、
こちらも笑顔で。
それからも、道路に人がいると、
ほとんどの人がこちらに手を振っていた。
そして、電車が走っていることが当たり前と感じられることのすごさに改めて気づく。
電車にごとごと揺られながら、そんなことを思った。
日常が当たり前のように来る。
それがどんなにかけがえのないのか、失うまで気づけないのかもしれない。
その気持ちは私にはわからない。
いつも近くにあった電車がなくなってしまったことがないから。
いつもと変わらないように旅に出て、いつもと変わらないように電車に乗っていた。
その『いつも』がいつまでも同じとは限らない。