第9話 十七歳の地図【その顛末】
文字数 1,477文字
「敗北者の館へようこそ!」
「いや、ここ、僕の実家の僕の部屋なんだけど……」
「な? 言っただろ、カケなんて奴を東京に呼ぶと碌なことにならないって」
「ああ。みんなの忠告を無視した僕がバカだった」
「まあ飲め。この敗北者の館で」
「だから僕の部屋に名前つけるなってば」
「発泡酒だ。麦酒を買う金は敗残者にはないのだからな」
「ああ。その通りだ。飲もう」
「ちなみにこの発泡酒はおれの金で買ったのだが、な」
「ああ」
コーゲツと発泡酒を飲む僕。
僕は帰郷していた。
都落ちだ。
なんだかんだあって、僕の青春はカケがプロの俳優になって牙を剥き、勝利の美酒に酔いしれて勝者となって終わった。
今では奴はジャニーズとコマーシャルに出演したり有名な漫画原作映画の俳優として活躍したり、という案配である。
僕の目の前にいるコーゲツも、そもそも有名人なので、大学でも無駄に有名なようだったし、邪魔者扱いされたのだろう。
田舎に戻ることとなった。
そしてギンは当初の目標通りモテモテになって女性をとっかえひっかえしながら仕事を続けていた。
予想は出来ていたのかもしれない。
だいたい僕自身も、今で言えば「SNSで無駄に有名になっちゃったひと」みたいな感じで、どこに行っても僕を知っているひとがいて、遠くから声をかけてくるようになって、そんな場所に住むのは流石に無理だった。
余談だが、数年前に京都に行ったら、
「この助平」
と、知らない女の子に言われた。
その他、たくさんのひとに声をかけられた。
別にそういう土地ではないと思うので、僕が知られていたのだろう、と推測した。
まるで地元のひとになったかのようだった。
全然助平なことはしていないのだが、とりあえず何故か僕のことを知っているひとたちがいて、声をかけてくれた。
オタクっぽい男性に、
「伏見だ! 伏見へ行け!」
とのアドバイスも受けた。
そういえば、そのとき、京都で、女性に、
「簡単に諦めちゃ、ダメだよ!」
と、言われた。
僕のこころにその言葉はとても響いて、僕は頑張ることにした。
もうちょっとだけ、生きることにした。
あと、他にも、
「今日は本当にダサいからむしろ格好良くないよ」
と、複雑なダブルミーニングかなにかを駆使したようなことを僕に言ったひとがいた。
どの時点でこうなったのか。
わからない。
だが、まあ、自意識過剰だ、と言われれば、そうなのかもしれない。
いや、他にも嬉しいことを言ってくれた方もいるのだが、今回はその話ではないので、先へ進むことにする。
ひとつだけ加えておくと、両手を挙げて、
「わぁい!」
と、大声で僕の前で言ってくれた女性がいて、とても嬉しかったのだが、その台詞で有名な漫画家が尊敬している漫画家の昔の友人、リア友がコーゲツであり、人生、どこで誰と誰が繋がっているかわからないものである。
あまり書くと営業妨害になりそうなのでその話はやめておこう。
それで言うなら、わぁい、という台詞の方には、僕は食べかけのウィンナーをもらった経験がある。
ともかく。
僕の青春は、敗北で終わった。
☆
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
受話器越しで、笑い声。
「ね! 言ったでしょ! カケを連れて行ったアンタが悪い! 一番の策士はカケだったってわけ!」
演劇部の部長だった女性が言う。
「あいつの憎しみや怒りがどこに向いているのかもわからなかった単細胞がアンタだったわけ! ざまあみろ! 笑えるぅー!」
酷い言われようである。
が、その通りだった。
僕は電話を切った。
そのうち、僕の電話はほとんど誰とも繋がらなくなった。
〈了〉
「いや、ここ、僕の実家の僕の部屋なんだけど……」
「な? 言っただろ、カケなんて奴を東京に呼ぶと碌なことにならないって」
「ああ。みんなの忠告を無視した僕がバカだった」
「まあ飲め。この敗北者の館で」
「だから僕の部屋に名前つけるなってば」
「発泡酒だ。麦酒を買う金は敗残者にはないのだからな」
「ああ。その通りだ。飲もう」
「ちなみにこの発泡酒はおれの金で買ったのだが、な」
「ああ」
コーゲツと発泡酒を飲む僕。
僕は帰郷していた。
都落ちだ。
なんだかんだあって、僕の青春はカケがプロの俳優になって牙を剥き、勝利の美酒に酔いしれて勝者となって終わった。
今では奴はジャニーズとコマーシャルに出演したり有名な漫画原作映画の俳優として活躍したり、という案配である。
僕の目の前にいるコーゲツも、そもそも有名人なので、大学でも無駄に有名なようだったし、邪魔者扱いされたのだろう。
田舎に戻ることとなった。
そしてギンは当初の目標通りモテモテになって女性をとっかえひっかえしながら仕事を続けていた。
予想は出来ていたのかもしれない。
だいたい僕自身も、今で言えば「SNSで無駄に有名になっちゃったひと」みたいな感じで、どこに行っても僕を知っているひとがいて、遠くから声をかけてくるようになって、そんな場所に住むのは流石に無理だった。
余談だが、数年前に京都に行ったら、
「この助平」
と、知らない女の子に言われた。
その他、たくさんのひとに声をかけられた。
別にそういう土地ではないと思うので、僕が知られていたのだろう、と推測した。
まるで地元のひとになったかのようだった。
全然助平なことはしていないのだが、とりあえず何故か僕のことを知っているひとたちがいて、声をかけてくれた。
オタクっぽい男性に、
「伏見だ! 伏見へ行け!」
とのアドバイスも受けた。
そういえば、そのとき、京都で、女性に、
「簡単に諦めちゃ、ダメだよ!」
と、言われた。
僕のこころにその言葉はとても響いて、僕は頑張ることにした。
もうちょっとだけ、生きることにした。
あと、他にも、
「今日は本当にダサいからむしろ格好良くないよ」
と、複雑なダブルミーニングかなにかを駆使したようなことを僕に言ったひとがいた。
どの時点でこうなったのか。
わからない。
だが、まあ、自意識過剰だ、と言われれば、そうなのかもしれない。
いや、他にも嬉しいことを言ってくれた方もいるのだが、今回はその話ではないので、先へ進むことにする。
ひとつだけ加えておくと、両手を挙げて、
「わぁい!」
と、大声で僕の前で言ってくれた女性がいて、とても嬉しかったのだが、その台詞で有名な漫画家が尊敬している漫画家の昔の友人、リア友がコーゲツであり、人生、どこで誰と誰が繋がっているかわからないものである。
あまり書くと営業妨害になりそうなのでその話はやめておこう。
それで言うなら、わぁい、という台詞の方には、僕は食べかけのウィンナーをもらった経験がある。
ともかく。
僕の青春は、敗北で終わった。
☆
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
受話器越しで、笑い声。
「ね! 言ったでしょ! カケを連れて行ったアンタが悪い! 一番の策士はカケだったってわけ!」
演劇部の部長だった女性が言う。
「あいつの憎しみや怒りがどこに向いているのかもわからなかった単細胞がアンタだったわけ! ざまあみろ! 笑えるぅー!」
酷い言われようである。
が、その通りだった。
僕は電話を切った。
そのうち、僕の電話はほとんど誰とも繋がらなくなった。
〈了〉