第95話 ミッドナイト・ストリートパフォーマンス【2】
文字数 1,105文字
「うちの劇団が国際大道芸祭りに出演することが決定した!!」
カズコ団長が深夜のファミレスで、劇団のお手伝いのおばちゃんたちに言う。
「おめでとうございます!」
僕もみんなに紛れておめでとう、と言ってみた。
「るるせ。おまえはうちの劇団の子供たちがパフォーマンスする前に、場を暖めてもらう!」
よくわからない。
「と、言いますと? どういうことで?」
「ギター弾いて歌え!」
「は?」
「前座で弾き語りしろ、っつってんだよ、るるせ!」
「は、はぁ」
「はぁ、じゃないだろ、返事は!」
「いえす、まいろーど!」
「よろしい」
「僕のギターは大道芸か……?」
「なんか文句あるか」
「ないです、サー!」
「ふむ」
そんなわけで、カズコさんの劇団は〈ひたち国際大道芸〉という国際的な大道芸人たちが世界中から集まる祭りに参加することになり、その〈前座〉で僕はギターを弾くことになってしまった。
☆
「いいじゃん、そのギター弾き語り」
「そ、そうっすか」
「ああ。良いねぇ」
劇団の稽古場に持ってきたアコースティックギターを練習していると僕に声をかけてきたのはアキナさん、とみんなに呼ばれているボーカリスト様である。
アキナ、というのはそんな名前の昔のアイドルに顔が似ているからであり、男性で、二十代の長距離トラックの運転手であった。
アキナさんは、カズコさんの児童劇団にもよく顔を出していたが、バンドをやっていた。
「国際大道芸。打ち上げには参加したんだろ」
「はい。みんな、良い人ばかりでした。大道芸やっているだけあって、プロ意識だけじゃなく、ひととの接し方が良くて」
「あはは。良かったな、るるせ。ところで、よぉ」
「なんでしょう、アキナさん」
「町に、雑貨屋をやっていた場所がある。二階建ての、国道に面した」
「ああ。知っています。少し前に閉店してしまったお店ですね」
「そこ、今度テナントとして学習塾が入るらしいんだわ」
「学習塾ですか。時代ですねぇ」
「で、学習塾が入るその前に、ゲリライベントとして、ライブコンサート……対バンやることになったんだわ。そこのオーナーが、学習塾と未だ揉めていることもあって、ね」
「アキナさんのバンドがそこでライブやるのですね」
「るるせ」
ぐいっと、アキナさんの顔が僕の顔に近づく。
「そこで、おまえの音楽ユニットも、出演者として参加しないか、と誘っているのだが?」
「だが?」
「どうだ? やってみないか。ライブ、やったことないだろう」
しばしの沈黙。
それから僕は頷く。
「はい! 僕ら、参加します!」
「よっしゃ! 決まりだ!」
こうして、僕とカケの音楽ユニットは、生まれて初めての対バンに参戦することになったのであった。
〈次回へつづく〉
カズコ団長が深夜のファミレスで、劇団のお手伝いのおばちゃんたちに言う。
「おめでとうございます!」
僕もみんなに紛れておめでとう、と言ってみた。
「るるせ。おまえはうちの劇団の子供たちがパフォーマンスする前に、場を暖めてもらう!」
よくわからない。
「と、言いますと? どういうことで?」
「ギター弾いて歌え!」
「は?」
「前座で弾き語りしろ、っつってんだよ、るるせ!」
「は、はぁ」
「はぁ、じゃないだろ、返事は!」
「いえす、まいろーど!」
「よろしい」
「僕のギターは大道芸か……?」
「なんか文句あるか」
「ないです、サー!」
「ふむ」
そんなわけで、カズコさんの劇団は〈ひたち国際大道芸〉という国際的な大道芸人たちが世界中から集まる祭りに参加することになり、その〈前座〉で僕はギターを弾くことになってしまった。
☆
「いいじゃん、そのギター弾き語り」
「そ、そうっすか」
「ああ。良いねぇ」
劇団の稽古場に持ってきたアコースティックギターを練習していると僕に声をかけてきたのはアキナさん、とみんなに呼ばれているボーカリスト様である。
アキナ、というのはそんな名前の昔のアイドルに顔が似ているからであり、男性で、二十代の長距離トラックの運転手であった。
アキナさんは、カズコさんの児童劇団にもよく顔を出していたが、バンドをやっていた。
「国際大道芸。打ち上げには参加したんだろ」
「はい。みんな、良い人ばかりでした。大道芸やっているだけあって、プロ意識だけじゃなく、ひととの接し方が良くて」
「あはは。良かったな、るるせ。ところで、よぉ」
「なんでしょう、アキナさん」
「町に、雑貨屋をやっていた場所がある。二階建ての、国道に面した」
「ああ。知っています。少し前に閉店してしまったお店ですね」
「そこ、今度テナントとして学習塾が入るらしいんだわ」
「学習塾ですか。時代ですねぇ」
「で、学習塾が入るその前に、ゲリライベントとして、ライブコンサート……対バンやることになったんだわ。そこのオーナーが、学習塾と未だ揉めていることもあって、ね」
「アキナさんのバンドがそこでライブやるのですね」
「るるせ」
ぐいっと、アキナさんの顔が僕の顔に近づく。
「そこで、おまえの音楽ユニットも、出演者として参加しないか、と誘っているのだが?」
「だが?」
「どうだ? やってみないか。ライブ、やったことないだろう」
しばしの沈黙。
それから僕は頷く。
「はい! 僕ら、参加します!」
「よっしゃ! 決まりだ!」
こうして、僕とカケの音楽ユニットは、生まれて初めての対バンに参戦することになったのであった。
〈次回へつづく〉