第13話:魔女の末裔

文字数 1,356文字

 その少女は、俺がこの店――アヤカシ堂で働く前からの常連だったらしい。
 ウェーブのかかった見るからにサラサラしてそうな長い金髪。
 青とも緑とも言えない、不思議な色の瞳。
 色白の肌に、鼻の周辺にそばかすがあるのが特徴的だ。
 服装は真っ黒なワンピースで、フリルがついているのが上品な印象である。
 どこからどう見ても異国情緒あふれる少女が神社に来たら、俺でなくても思わず見てしまうだろう。ちなみに俺は境内の掃き掃除中だった。
 この神社――鳳仙神社という名前ではあるが、その実態は神社の皮をかぶった妖怪絡みの怪しい店、アヤカシ堂。
 この少女は神社だと思いこんでいる参拝客だろうか?
 少女は迷うこと無くまっすぐに社務所に向かう。参拝ではなくお守り目当てなのだろうか。
「おや、いらっしゃい」
 社務所の売り場窓口から、天馬百合――鳳仙神社の巫女であり、アヤカシ堂の店主――が顔を出す。
「今日も材料を買いに来てくれたのかな」
 店長がそう言うと、少女はコクリとうなずく。
 その親しげな様子から、初めての客ではないのだな、と俺は察した。
「え、と……蚊の目玉を五グラムと……ノミの心臓を十グラム、あとは……」
 俺はその発言内容に耳を疑う。蚊の……蚊の目玉? なにかの聞き間違いか?
 しかし、店長は「はいはい、少々お待ちを」と言って一度引っ込むと、しばらくしてから小瓶を持ってきた。
「はい、蚊の目玉にこっちの瓶がノミの心臓ね。壊れやすいから取り扱いには気をつけて」
 少女は商品を受け取ると、代金を渡して足早にその場を離れる。去り際に俺をチラリと見てそのまま歩いていってしまった。
「店長、あの子は?」
 石段を降りていく少女の背中を見ながら、俺は訊ねる。
「あの子は魔女の末裔だよ」
「ま、魔女?」
「イギリス出身でそこで何年か修行を積んだ本物の魔女さ。なに、日本でも海外で修行を積んで魔術店を営んでいる魔女もいるくらいだ」
「そういや店長も魔女ですもんね」
 というと、店長は俺のほっぺたを引っ張る。
「魔女じゃなくて女神だって言ってるだろう」
「いででで……女神ならもっと優しくしてくださいよ」
「ふん、女神というのは気まぐれに人間を試したり罰を与えるものさ」
 なるほど、そういう意味でなら店長はまぎれもなく女神である。
「まあとにかく、ここではそういった魔女や魔術師のニーズを叶えるために魔法薬の材料も取り揃えている。いわばなんでも屋だな」
「ふーん、手広くやってるんすね」
「その材料の取り扱いにも気をつけないといけないのが骨だがな……さっきの蚊の目玉やノミの心臓なんかは特に潰れやすいし……」
 まずその目玉や心臓を取り出すのが根気のいる作業になりそうだな、と俺は苦笑する。
「ところで魔法薬ってどういうものなんですか?」
「ものによって効果は様々だ。飲むことによって変身できたり、一時的に能力を上昇させたり、あとは惚れ薬とかな」
「へえ……」
 本当に魔法みたいな効果があるんだな。
 正直いまいちピンとこなかったが、俺はそんな感じで相槌を打つ。
 その時は、俺には関係のない話だと思っていたからだ。
 しかし、もしかしたら俺はいわゆる巻き込まれ体質なのかもしれない。
 半妖になってしまった件もそうだし、俺の周りにはなぜか妖しいものが集まってしまうのである。

〈続く〉
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