①ソグネフィヨルド・フロム村

文字数 822文字

2015年3月2日

「長いことノルウェーに住んでたけどさ、観光なんてほとんどしてないんだよ」
「村長、あんまり興味なさそうですもんね」
「まあな。だけどフィヨルドは別だ。入り江から見上げる断崖には毎度圧倒される。レミン、イルリサットのアイスフィヨルドも見に行ったことないんだろ?」
「ええ。フィヨルドは初めてです。上からの景観も見てみたい」
「上からはやめとけ」
「え?何でです?」
「お前高い所苦手だろ」
「言ったことないですよ、それ村長でしょう!?」
 ライチョウとレミンはクレバスの村での調査を終えた後、グリーンランドの極東イットッコットーミーへと向かった。町では砕雪モビルを預け、ネレーリット・インアート空港からノルウェー、ハンメルフェストへ飛んだ。
 昨日ハンメルフェスト極地研究所にて砕雪モビルを調達すると、飛行機でベルゲンへ向かい、フロム鉄道経由でソグネフィヨルド玄関口のフロム村へと辿り着いた。
「まだ気候は冬ですけど、夏はもっと賑わうんでしょうね。遊覧船乗りたかったなあ」
「そろそろベルゲンに戻らないと。船の代わりにフロム鉄道に乗せてやっただろ」


 氷河期、陸地にあった巨大な氷の塊は溶けて海に流れていった。その重みで土地が削られ、複雑な地形が生まれた。
 ノルウェー沿岸一帯に拡がる有数のフィヨルドは、場所によって異なる美しさを持っている。大地をえぐるような断崖絶壁、そこへ流れ込む青く澄んだ海水。それを見に様々な国から訪れる観光客。ライチョウは観光業で成功しているフロムの村をうらやましく思った。
「俺達の村にもこれだけ人が来ればな」
「自然では負けていないんですけどね」
「これから行くとこはフロムのように栄えちゃいない。セツド村よりちょっと閑散としてる感じかな」
「また移動するんですか!?」
「ここは北極圏よりずっと南だぞ。俺達がやってるのは『極地紀行』なんだから」
「てことは北へ戻るんですね・・・」
 二人は再びフロム鉄道に乗り、ベルゲンへと向かった。
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