第13話 落ちこぼれた人

文字数 1,934文字

 夕方・・・。
アーケードに灯りが灯る。
どこからとも無く、少年達(悪ガキ)が、店の前に集まって来る。
道路は二つのグループに分かれる。
『今日の仕事にアブれた路上生活者(プー太郎)』と『落ちこぼれの少年(ガキ)グループ』である。

道路は少年達の自転車だらけである。
少年達は道路に座り込み、股の間に唾を吐いている。
静子さんは少年達のその仕草がどうも気に成って、

 「あの子供達、どうしてあんなに唾を吐くのかしら」

石田さんは少年達をチラッとみて、

 「はやりっスよ、ハヤリ!」
 「ハヤリ? 変なハヤリ(流行)ねぇ。どこから来るのかしら、あの子達」
 「あのタオルを頭に被ってるヤツは北中、 隣の茶髪は浅(アサ・浅草)中、 銀髪は御(オカ・御徒町)中、 学ランが南中、 ボウズが二中、 今、裸に成ったヤツが竜(リュウ・竜泉)中、その他みんな パープー中 っス」

静子さんは石田さんの説明に関心して、

 「よく分かるわねえ」
 「常連っスよ。アタシの後輩も居るし」
 「後輩? でも、御(オカ)中って御徒町でしょう。よくこんな所まで来るわねえ」
 「アイツ等、機動力があるからどこでも行きますよ」
 「機動力?」
 「チャリっスよ、ママチャリ!」
 「ああ、あの自転車ね。でもあれじゃあ通行の妨害に成るわねえ。ちょっと、イッちゃん! オーナー起こして来て」
 「えッ、オーナーっスか? はい」

暫くして具流氏が売り場に出て来る。

 「はい。何か?」
 「何かじゃないわよ。何やってたの?」
 「いや、ストコンでちょっと発注を。難しいねえ。あとで教えてくれる」
 「いいわよ。その前に店の周りを掃除してくれる」

具流氏は店の外を見る。

 「おお、だいぶ汚れたねえ」
 「ついでに、アノ少年達もね」

道路にタムロする少年達を見る具流氏。

 「ああ、アレね。今、ああ云うタイプの子供が多いね。分かった。任せなさい」

具流氏がバックルームから 「チリトリとホウキ」 を持って売り場に出て来る。
静子さんはきつい顔で具流氏を見ている。

 「・・・じゃッ!」
 「あ、アンタ! 叩いたりしたらダメよ」
 「分かってるよ」

表に出て行く具流氏。
どう云うわけか路上生活者の酔っ払いが、具流氏に応援の掛け声を放つ。

 「おう、社長ッ! 頑張れ。 イロ男ッ! 無理すんなよ。適当にヤレば良いんだ。一杯、飲めッ!」

石田さんは心配そうに、

 「オーナー大丈夫っスかねえ・・・」
 「大丈夫でしょう。そのくらいの事はやってもらわないと」
 「プー達と話し込ンじゃたりして」
 「え〜ッ!」

・・・暫くして、具流氏が売り場に戻って来る。
外を眺めて、

 「どお、少しは綺麗に成ったろう」
 「え? ・・・あの子達はまだ居るじゃない」 
 「うん? あ~、あの子供ね。アレはもうすぐ帰る」
 「本当?」

静子さんが店の外を見ていると悪ガキ達が一人、また一人と居なくなる。
石田さんが、

 「ホントウだ。オーナー、何て言ったんスか?」
 「うん? ナ・イ・ショ」
 「へえ、アンタも結構使えるじゃない。用心棒ぐらいなら成れそうね」
 「何言ってんだ。僕は、元秘書だよ」
 「今はアタシの秘書じゃない」

石田さんは驚いて、

 「ええッ! オーナーってヒショだったんスか?」
 「うん? うん。そんな事より事務所の中、ハエだらけだぞ。あれじゃ恐ろしくて眠れないよ」
 「眠る? あ、そうだ! 殺虫剤」
 「殺虫剤? そんな問題じゃないと思うけどねえ・・・」

石田さんがひつこく具流氏に迫る。

 「オーナー、キョウジュだったんスか? 教授ってアタマ良いんスよね。格好良い。でも、ちょっと変な人ですね。どこの大学でやってたんスか?」

具流氏は付きまとう石田さんに、

 「いいから、石田サンは仕事して下さい」 

静子さんは石田さんを見て、

 「イッちゃん! 売る場に殺虫剤あるわよね」
 「ありますよ。どうするんスか?」
 「事務所のハエを皆殺しにするの。何か多くない、この店」
 「ハエっスか? そうっスか?・・・」
 「あ、それからさっき伊藤サンから電話が有って、夕方の五時から店内の配線工事をするんですって」
 「夕方の五時?・・・もう直ぐじゃないか。忙しく成る時間だろう」
 「何だか、天井の蓋を開けて管の中に線を通すだけだから、直ぐに終わるんですって」
 「あ〜あ、それだけ」

と、そこに軽ワゴン車が店の前に停まる。

 「・・・? あれじゃない?」
 「ちょっと早くない?」
 「早い方が良いわよ。お客サンの邪魔にもならないし」

静子さんは石田さんの言いそびれた言葉を思い出し、

 「ああ、さっきの弁当の万引き事件。それがどうしたの?」
 「あッ! いや、何でもないっス」

具流氏は驚いて石田さんをキツイ眼で睨む。
                    つづく
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