第6話「デートが始まる。」
文字数 1,469文字
一睡もできずに朝を迎えた僕は、シャワーを浴びて眠気を吹き飛ばしてからヒゲを剃った。
自分が持っている中で一番いい服を着ようと思ったが、今まで見た目を気にしたことなんて無いのでどれを選べばいいか分からなかった。約束してから2日あったんだから準備しておけば良かったと僕は後悔した。「黒系で合わせておけば無難」と聞いたことがあるので、とりあえず僕は黒のスラックスを履き、半袖のグレーのポロシャツを着て、黒のポーチを斜めに下げて前に持ってきた。それから黒のスニーカーを履いて待ち合わせの駅に向かった。
11:40
集合場所であるコンビニ前に着いたが、さすがに20分前なので彼女の姿は無かった。
しばらくその場で待っていたが、じっとしていても緊張が増すばかりなのでコンビニに入ることにした。特に買うものは無いがコンビニで何もしないのも不自然なので、僕は店内をうろうろしていた。商品を見ている振りをしていたが、何も見えてはいなかった。それくらい緊張していた。
11:43
僕はコンビニを出たが、まだ彼女の姿はない。今度は駅前の商店街に入り、全く興味のない店を一軒ずつ眺めていった。
手を繋ぎながら歩いている男女を見かけると、僕と彼女がそうしている姿を想像して鼓動が速まった。緊張しすぎて具合が悪くなりそうなので、カップルからは目を背けながら集合場所に戻った。
11:54
気を紛らわすために駅前の花壇に植えてある花を眺めていたところで彼女がやって来た。僕は制服姿しか見たことがなかったので、彼女だと気づくまでに時間が掛かった。
彼女はベージュのワンピースにグレーのパンプスを履き、グレーのハンドバッグを腕から下げていた。控えめな化粧をして、おそらくヘアアイロンをかけたセミロングの髪はふんわりとしていた。
彼女は10メートルほど先から僕に気がつくと、こちらの顔を覗き込むようにして小さく手を振ってから早足で歩いて来た。
「お待たせ。」
僕は彼女の美しさに見惚れて、頭から足先までを舐めるように見てしまっていた。
「そんなに見られたら恥ずかしいじゃない。」
「ごめん。」
またこのやり取りだ。
「行きましょう?」
どの喫茶店かは聞かされていなかったので、僕は彼女に付いていくことにした。彼女は僕の斜め前を歩きながらたまに振り返ったり、歩く速度を緩めて隣を歩いたりした。
細い路地に入ったところで僕は声をかけた。
「活気のある駅前とは違って、ここは静かだね。」
「表と裏って感じがしない?」
彼女はたまに意味深なことを言う。
そのまま進んでいくと不気味な裏路地に入った。辺りはゴミが散乱し、壁はスプレーの落書きだらけ、今にも崩れそうな家が左右に立ち並んでいた。
「こういう所を通るのは嫌じゃないの?」
彼女は辺りを見回した。
「好きでもあるし嫌いでもあるわね。」
「どういうこと?」
「不潔だとか怖いのは嫌だけど、それがリアルだと感じられるから好きなの。こういうのって変かな?」
「いや、分かる気がするよ。この世には綺麗なものや汚いもの、表と裏、善と悪など色んなものがある。人間は綺麗なものばかりを見て、汚いものからは目を背けようとする。僕もその1人なんだろうけど。醜い生き物だよ、人間なんて。」
彼女はクスリと笑って僕の頬をつついた。
「またそんなこと言って。私が泣いちゃうわよ。」
「ごめん。つい余計なことを。」
「でもね、私もそう思ってたの。」
それから少し歩いたところで彼女は立ち止まった。視線の先を見てみると、雰囲気のある老舗の喫茶店があった。
「ここよ。入りましょう?」
自分が持っている中で一番いい服を着ようと思ったが、今まで見た目を気にしたことなんて無いのでどれを選べばいいか分からなかった。約束してから2日あったんだから準備しておけば良かったと僕は後悔した。「黒系で合わせておけば無難」と聞いたことがあるので、とりあえず僕は黒のスラックスを履き、半袖のグレーのポロシャツを着て、黒のポーチを斜めに下げて前に持ってきた。それから黒のスニーカーを履いて待ち合わせの駅に向かった。
11:40
集合場所であるコンビニ前に着いたが、さすがに20分前なので彼女の姿は無かった。
しばらくその場で待っていたが、じっとしていても緊張が増すばかりなのでコンビニに入ることにした。特に買うものは無いがコンビニで何もしないのも不自然なので、僕は店内をうろうろしていた。商品を見ている振りをしていたが、何も見えてはいなかった。それくらい緊張していた。
11:43
僕はコンビニを出たが、まだ彼女の姿はない。今度は駅前の商店街に入り、全く興味のない店を一軒ずつ眺めていった。
手を繋ぎながら歩いている男女を見かけると、僕と彼女がそうしている姿を想像して鼓動が速まった。緊張しすぎて具合が悪くなりそうなので、カップルからは目を背けながら集合場所に戻った。
11:54
気を紛らわすために駅前の花壇に植えてある花を眺めていたところで彼女がやって来た。僕は制服姿しか見たことがなかったので、彼女だと気づくまでに時間が掛かった。
彼女はベージュのワンピースにグレーのパンプスを履き、グレーのハンドバッグを腕から下げていた。控えめな化粧をして、おそらくヘアアイロンをかけたセミロングの髪はふんわりとしていた。
彼女は10メートルほど先から僕に気がつくと、こちらの顔を覗き込むようにして小さく手を振ってから早足で歩いて来た。
「お待たせ。」
僕は彼女の美しさに見惚れて、頭から足先までを舐めるように見てしまっていた。
「そんなに見られたら恥ずかしいじゃない。」
「ごめん。」
またこのやり取りだ。
「行きましょう?」
どの喫茶店かは聞かされていなかったので、僕は彼女に付いていくことにした。彼女は僕の斜め前を歩きながらたまに振り返ったり、歩く速度を緩めて隣を歩いたりした。
細い路地に入ったところで僕は声をかけた。
「活気のある駅前とは違って、ここは静かだね。」
「表と裏って感じがしない?」
彼女はたまに意味深なことを言う。
そのまま進んでいくと不気味な裏路地に入った。辺りはゴミが散乱し、壁はスプレーの落書きだらけ、今にも崩れそうな家が左右に立ち並んでいた。
「こういう所を通るのは嫌じゃないの?」
彼女は辺りを見回した。
「好きでもあるし嫌いでもあるわね。」
「どういうこと?」
「不潔だとか怖いのは嫌だけど、それがリアルだと感じられるから好きなの。こういうのって変かな?」
「いや、分かる気がするよ。この世には綺麗なものや汚いもの、表と裏、善と悪など色んなものがある。人間は綺麗なものばかりを見て、汚いものからは目を背けようとする。僕もその1人なんだろうけど。醜い生き物だよ、人間なんて。」
彼女はクスリと笑って僕の頬をつついた。
「またそんなこと言って。私が泣いちゃうわよ。」
「ごめん。つい余計なことを。」
「でもね、私もそう思ってたの。」
それから少し歩いたところで彼女は立ち止まった。視線の先を見てみると、雰囲気のある老舗の喫茶店があった。
「ここよ。入りましょう?」