二十一 捕縛
文字数 1,379文字
葉月(八月)三十日、昼四ツ半(午前十一時)前。
藤堂八郎たち町方が筋違橋から日本橋横山町の国問屋大黒屋に着いた。
大黒屋の店の表と裏を包囲し、与力の藤堂八郎率いる同心と手下たちが、日本橋横山町の国問屋大黒屋に雪崩れこんだ。
「大番頭の与平、番頭の三吉、次女の多美、おとなしく縛に就けっ」
与力の藤堂八郎は国問屋大黒屋の店先で大声で言い放ち、
「松原っ、岡野っ、大番頭の与平と番頭の三吉、次女の多美を捕縛しろっ」
同心たちに指示した。
奉公人たちは、大黒屋の外と御店内の町方に、何が起っているのかわからず驚いている。
同心と手下たちが、丁場に座っている大番頭の与平と番頭の三吉を店先に引っ立てた。大黒屋を隅々まで捜したが、女の多美は大黒屋に居なかった。
大黒屋の大番頭の与平と番頭は、何かのまちがいではないか、と思った。
同心松原源太郎と同心岡野智が手下たちに指示して、大番頭の与平と番頭の三吉を捕縛して大黒屋の店の土間に座らせた。
「何かのまちがいではありませんか。いったい何の咎で私どもを捕縛するのですか」
番頭の三吉の仕草はおどおどしている割りに、眼差しは座っている。
この仕草、明らかに狂言だ・・・。藤堂八郎はそう感じた。
「もしやして、抜け荷の摘発ですか。抜け荷などしておりませんよ」
大番頭の与平は、藤堂八郎が話していない事を口走った。
此奴、墓穴を掘りおったぞ・・・。藤堂八郎はそう思った。
「墓穴を掘ったな、与平。私は、抜け荷の話などしておらぬ。まあ、証 もある故、抜け荷の件も、北町奉行所で、じっくり、詮議いたそうかのお・・・」
そう言って藤堂八郎は、土間に座らされている大番頭の与平と番頭の三吉の前にかがんだ。
「番頭の三吉っ。又八ら四人を刺客として芳太郎に差し向け、芳太郎殺害を企てた証は又八から得ている。言い逃れできぬぞ」
「濡れ衣です。その様な恐れ多いことをした覚えはありません」
そう言い逃れするが三吉の目が泳いでいる。
藤堂八郎は、はったりを利かせて言い放った。
「芳太郎、此奴らが夜盗『寝首かき一味』である、と又八から聞いた話に、相違ないな」
藤堂八郎は蕎麦に控えている、同行した若いもんに、打ち合わせ通りに訊いた。
「はい、ございません」
若いもんは、はっきり答えた。
「また、料亭兼布佐の主の兼吉の殺害と、大黒屋清兵衛夫婦殺害の動かぬ証も得ておる・・・」
藤堂八郎は大番頭の与平の 左襟を引っぱった。
左肩から胸にかけて『昇り龍の彫り物』が現われた。
さらに、藤堂八郎は番頭三吉の右の襟を引っぱった。三吉の右の胸には『辰巳下がりの彫り物』がある。
それまで言い逃れていた与平と三吉の顔色が青ざめた。
「この昇り龍の彫り物と辰巳下がりの彫り物が証だ。
布佐さん。雪さん。これらの彫り物に相違ないな」
「はい。主の大黒屋清兵衛を斬殺した夜盗の、昇り龍の彫り物にまちがいありません」
「料亭兼布佐で私を殴り倒した夜盗の、辰巳下がりの彫り物です」
「昇り龍の与平、並びに辰巳下がりの三吉。彫り物が動かぬ証だ。
お前たちと大黒屋清兵衛夫婦が『寝首かき一味』だった事は、又八が白状しておる。
北町奉行所で詳しく聞かせて貰おうか」
「おめえ、口の軽い又八に、あれほど話すなと言ったのに、いったい何を聞いていやがったっ」
与平は三吉を罵倒するが今となっては何もならない。
藤堂八郎たち町方が筋違橋から日本橋横山町の国問屋大黒屋に着いた。
大黒屋の店の表と裏を包囲し、与力の藤堂八郎率いる同心と手下たちが、日本橋横山町の国問屋大黒屋に雪崩れこんだ。
「大番頭の与平、番頭の三吉、次女の多美、おとなしく縛に就けっ」
与力の藤堂八郎は国問屋大黒屋の店先で大声で言い放ち、
「松原っ、岡野っ、大番頭の与平と番頭の三吉、次女の多美を捕縛しろっ」
同心たちに指示した。
奉公人たちは、大黒屋の外と御店内の町方に、何が起っているのかわからず驚いている。
同心と手下たちが、丁場に座っている大番頭の与平と番頭の三吉を店先に引っ立てた。大黒屋を隅々まで捜したが、女の多美は大黒屋に居なかった。
大黒屋の大番頭の与平と番頭は、何かのまちがいではないか、と思った。
同心松原源太郎と同心岡野智が手下たちに指示して、大番頭の与平と番頭の三吉を捕縛して大黒屋の店の土間に座らせた。
「何かのまちがいではありませんか。いったい何の咎で私どもを捕縛するのですか」
番頭の三吉の仕草はおどおどしている割りに、眼差しは座っている。
この仕草、明らかに狂言だ・・・。藤堂八郎はそう感じた。
「もしやして、抜け荷の摘発ですか。抜け荷などしておりませんよ」
大番頭の与平は、藤堂八郎が話していない事を口走った。
此奴、墓穴を掘りおったぞ・・・。藤堂八郎はそう思った。
「墓穴を掘ったな、与平。私は、抜け荷の話などしておらぬ。まあ、
そう言って藤堂八郎は、土間に座らされている大番頭の与平と番頭の三吉の前にかがんだ。
「番頭の三吉っ。又八ら四人を刺客として芳太郎に差し向け、芳太郎殺害を企てた証は又八から得ている。言い逃れできぬぞ」
「濡れ衣です。その様な恐れ多いことをした覚えはありません」
そう言い逃れするが三吉の目が泳いでいる。
藤堂八郎は、はったりを利かせて言い放った。
「芳太郎、此奴らが夜盗『寝首かき一味』である、と又八から聞いた話に、相違ないな」
藤堂八郎は蕎麦に控えている、同行した若いもんに、打ち合わせ通りに訊いた。
「はい、ございません」
若いもんは、はっきり答えた。
「また、料亭兼布佐の主の兼吉の殺害と、大黒屋清兵衛夫婦殺害の動かぬ証も得ておる・・・」
藤堂八郎は大番頭の与平の 左襟を引っぱった。
左肩から胸にかけて『昇り龍の彫り物』が現われた。
さらに、藤堂八郎は番頭三吉の右の襟を引っぱった。三吉の右の胸には『辰巳下がりの彫り物』がある。
それまで言い逃れていた与平と三吉の顔色が青ざめた。
「この昇り龍の彫り物と辰巳下がりの彫り物が証だ。
布佐さん。雪さん。これらの彫り物に相違ないな」
「はい。主の大黒屋清兵衛を斬殺した夜盗の、昇り龍の彫り物にまちがいありません」
「料亭兼布佐で私を殴り倒した夜盗の、辰巳下がりの彫り物です」
「昇り龍の与平、並びに辰巳下がりの三吉。彫り物が動かぬ証だ。
お前たちと大黒屋清兵衛夫婦が『寝首かき一味』だった事は、又八が白状しておる。
北町奉行所で詳しく聞かせて貰おうか」
「おめえ、口の軽い又八に、あれほど話すなと言ったのに、いったい何を聞いていやがったっ」
与平は三吉を罵倒するが今となっては何もならない。