2人の読書家

文字数 499文字

 彼女は本を読むのが好きだ。
 彼も本を読むのが好きだ。

 彼女はいつも本を読んでいる。
 彼もいつも本を読んでいる。

 彼女は本を読むのが遅い。
 彼は本を読むのが速い。

 いつも彼は自分が読み終えた本を彼女に貸してあげていた。
 彼が3冊本を読み終わる間に彼女はやっと1冊読み終えるくらい本を読むのが遅かった。

 ではどうして彼女はこんなに本を読むのが遅いのか?

 例えば今から100年以上前に書かれた短編の冒頭にこんな記述があるとする。

―この靴は150ドルもした上等な靴なんだぞー

 この一文を見て彼はなんとなく「ああ、150ドルってことは2万5千円くらいかぁ…そんなに上等か?」とそのまま通り過ぎてしまうが彼女は当時の貨幣価値を調べて今のレートに直すといくらくらいになるのだろう、と立ち止まる。

 一事が万事においてこんな調子なので彼女は本を読むのが遅い。
 だから彼女は1冊1冊の細かい描写もしっかり覚えている。その代わり今まで読んだ冊数は少ない。

 一方彼は1冊1冊の細かい描写は覚えていないが今までに多くの作品を読んできている。
 
 2人を知る本を読まない知人は聞いた。

「どっちが正しい読書の在り方なの?」

 と。
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