第110話

文字数 798文字

「稜佳、気にすることないわよ。精命が絡むと、フラーミィの目の色が変わるのはいつもの事なんだから。そんなことより、白い精命と黒い精命でいっぱいに、っていうのはどういう意味なの?」

 そんなことより?!

 精命を軽んじる発言に、再度、ムッとします。瞬間的に寄ってしまった皺を誤魔化すために、指で額を押さえて答えました。

『いい質問です。人間が鏡に入り、影を使うことによって、精命が使用されます。白い鏡で使用された精命は、白い霞のようなものになります。しかし黒の鏡で使われれば、黒い霞となるのです。白と黒いずれの場合でも、精命を使うと霞は霧が立ち込めるように鏡に溜まっていくのです。
鏡と繋がっていない私のような影の場合は、使用された精命の残滓は、風と共に霧散してしまいますが』

「なるほどね。」

『おそらく鏡には精命の量が少ない誰かがいて、一来はその誰かのために、精命を提供しているのでしょう。』

「でもそれなら、誰かの影に直接血をあげればいいんじゃない?」

『一来の血の精命が多いといっても、影を動かそうとすれば継続的に血を影に与えなければなりません。ですから一旦、鏡の中の人物に精命を提供し、依り代を通して影に精命を与えているのでしょう。人間は精命の貯蔵庫のようなものですね』

「それでもいっぺんに血を大量にあげるわけにいかないから、一来君は定期的に血を提供してるのか……」

『そういうことでしょうね。まあ、鏡の中の人物の精命が少ない……と言っても、それは通常の範囲でしょう。稜佳も浅葱先生も精命の量は多い方でした。それでも鏡の中では意識を保てなかったのですから、精命の量が普通の方が鏡に入り影と入れ替わったら、おそらく遠からず命の危険が生じるでしょう』

「えーっ! 私って死んじゃうところだったの?!」稜佳が悲鳴に似た声をあげる。
『稜佳も浅葱先生も精命が多いですから、眠ってしまう程度で帰って来られてよかったですね』
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