第43話

文字数 736文字

 彌羽学園の職員室には、壁がありません。正確には壁はあるのですが、廊下と職員室を隔てている壁は腰の高さほどで、その上はガラス張りになっているのです。職員室の敷居を下げ、親しみやすくする目的だそうですが、教師は常に廊下からの視線にさらされることになり、落ち着かないことでしょう。
 なぜなら、居留守はつかえないからです。どんなに嫌な客が来たとしても。

 「ですから、今からクラス替えをするなんて……。もう一学期が始まっていますし…」

男性教師の悲鳴のような声が廊下に漏れてきます。男性にしては高めの声です。

 「一学期前だったらよかったってことですか?! それならどうしてお知らせしてくださらなかったんですか! プリント一枚で済むことでしょう」

と、女性にしてはドスの効いた……、失礼。迫力のある力強い声が反論しています。

 「いえ、クラス編成は学校が行うもので、ご意向に沿って行うものでは……。おわかりいただけると思うんですけど」

 弱々しく懇願するような説明は、残念ながら逆効果だったようです。

 「おわかりいただけると思いますけど、ですって? それは、おわかりにならない私が悪いとおっしゃっているんですよね?!」

 ガラス張りとはいえ、廊下とは隔たれているというのに、言葉がはっきりと聞き取れます。よほど大きな声でまくしたてているのでしょう。
 女性よりも、男性教師の方が二十センチは身長が高そうですが、ご夫人の声量の圧力に耐えかねて、どんどん小さくなっていくように見えます。

 「どうしよう……」

 稜佳は、職員室のドアの前で立ちすくんでいました。それが普通の人間の反応でしょう。他の教師達もとばっちりをくいたくないのか、皆机の上にかがみこんでいて、震える同僚を助ける気配は見当たりません。

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