セリフ詳細

収容所の看守たちの銃はどれも装填されていない。囚人を殺す必要がないからだ。処刑は、飢えと寒さと絶望にまかされている。

看守は三十人から四十人、囚人は百五、六十人。一人として健全な者はなく、まだ宵の口というのに大半が死んだように眠っている。
蚕棚にぎっしり並べられた寝袋のうちに――
ひとつだけ、あった。頭一つ分はみだした寝袋が。地球人のかれはわれわれのあいだではずば抜けて背が高い、ゲセン人の身長に合わせた寝袋に、おさまりきらなかったのだ。


私が寝袋を引きずり始めると、看守が寝ぼけまなこを向けてきたので言ってやった、「だんな、また一人、死んじまったんですよ」。
「そうか。いつもの所へ出しといてくれ。じきに凍るだろう」

作品タイトル:【戯曲】闇の左手(ル=グウィン原作/オリジナル訳に基づく二人芝居)

エピソード名:第一幕(4)

作者名:未村 明(ミムラアキラ)  mimura_akira

186|SF|完結|48話|17,630文字

SF, ファンタジー, ル=グウィン, 戯曲, 脚本, オリジナル訳, 波乱万丈, 友情, 切ない, 両性具有

88,339 views

宇宙のさいはて、極寒の惑星。スパイとみなされた地球からの使節は、ただ一人の理解者である現地人の宰相と、大氷原を横切って決死の逃避行を試みる。雪と氷に閉ざされた死の世界で二人を待ち受けるものとは……。
日本では『ゲド戦記』の原作者として知られるル=グウィンの、真の代表作『闇の左手』。その壮大な物語を、かぎりなくストイックな表現で二人芝居の朗読劇にしました。
未村明によるオリジナルの翻訳に基づいています。勝手な二次創作ではなく、正式に原作者の許可を得ています。生前に台本をお見せしたら、大変喜んでくださいました。
(人形は園英俊(そのひでとし)氏の作品です。)

(ここから小声)じつは、原作小説の既存の日本語訳には、訳し間違いが多々あります。少なくとも、固有名詞の発音は私の訳のほうが「正しい」です。ル=グウィンさんに(生前)直接お会いしてお訊きしました。ご本人による朗読テープも私は持っていて(残念ながら絶版)、随時確認しています。
例1.主人公二人のうち一人の名前は、「エストラヴェン」です。冒頭の「エ」にアクセントがあります。(ハ●カワ訳のように「えすとらーべん」ではありません。)
例2.もう一人の主人公ゲンリーの所属する惑星同盟の名前は、「エキュメン」です。同じく冒頭の「エ」にアクセントがあります。(ハ●カワ訳のように「えくーめん」ではありません。)
さらに詳しい話は別編「もっと『闇の左手』」をご覧ください。