セリフ詳細

1969年1月17日の日記から・・・・・・


 私は昭和24年1月2日から、この世界に存在していた。と同時に私は存在していなかった。

 家庭で幼年時代を過し、やがて学校という世界に仲間入りした。ここで言いたいのは学校における私の役割である。学校という集団に始めて入り、私はそこで「いい子」「すなおな子」「明るい子」「やさしい子」という役割を与えられた。ある役割は私にとり妥当なものであった。しかし、私は見知らぬ世界、人間に対しては恐れをもち、人一倍臆病であったので、私に期待される「成績のよい可愛いこちゃん」の役割を演じ続けてきた。集団から要請されたその役割を演じることによってのみ私は存在していた。その役割を拒否するだけの「私」は存在しなかった。その集団からの要請(期待)を絶対なものとし、問題の解決をすべて演技者のやり方のまずさに起因するものとし、演技者である自分自身を変化させて順応してきた。中学、高校と、私は集団の要請を基調として自らを変化させながら過ごしてきた。

 この頃、私は演技者であったという意識が起った。集団からの要請は以前のように絶対なものではないと思い始めた。その役割が絶対なものではなくなり、演技者はとまどい始めた。演技者は恐ろしくなった。集団からの要請が絶対のものでないからには、演技者は自らの役割をしかも独りで決定しなければならないのだから。


作品タイトル:[哲学探究Ⅰ]<わたし>とは何か? ~デンケン先生と哲学ガール~

エピソード名:12 高野悦子『二十歳の原点』

作者名:千夜一夜読書人  nomadologie

58|社会・思想|連載中|15話|38,944文字

哲学, 思想

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デンケン先生と一緒に楽しく哲学します。