西村賢太と寅さん

作者 TamTam2021

[創作論・評論]

7

721

1件のファンレター

西村賢太と寅さん、この二人のアウトローの物語には共通点がある。それは決して成功して幸せになってはいけないというお約束である。これこそが彼らの物語の鉄の掟であり、それによって庶民の英雄になっていることである。惨めで辛い日々をそれでも生きて行かなければならない我々庶民にとって必要な物語のための。新たにファンレターさまの紹介と私のコメントも掲載しました。

ファンレター

雑草魂で

お便り失礼します。西村賢太さんが急逝されて残念に思います。西村さんの作品をきちんと読んだことがないのですがTamTam2021さんの評論を読み、どんな作品なのか興味を持ちました。辛い生い立ちのために他とは違う生き方をし、世の中を斜めから見て、それでも懸命に五十代半ばまで生き、最期は自分の意思とは関係なく、突然この世からおさらばしてしまった作家。決して綺麗な生き方、容姿とは言えず、底辺を彷徨う野良犬のような悲しい存在だったのかも知れません。そして、寅さんと共通することがTamTam2021さんのご指摘で、ああそうか!と府に堕ちました。私達は西村賢太さん、寅さんを通して自分自身を見ているのです。辛く悲しい世の中を不器用に、それでも命を繋ぐために懸命に生きていく姿を愛おしく思い、「頑張れよ。俺もお前のように頑張るからさ」とエールを贈っているのですね。サクセスストーリーは「もしも」の世界を夢物語のように楽しむものですが、西村作品や寅さんは、富や名誉を掴むことはなく、幸せにならないことがお約束のようですね。我々に優しく寄り添い慰めてくれるところが長年愛され続ける所以なのでしょう。雑草魂。そんな言葉が浮かびました。雑草という名の植物は一つもないのですが、本当は一つ一つに名前があるのに、一括りにされてしまった悲しさを口にすることはなく、踏みつけられても引きちぎられても、逞しく根を張り、花を付け実を結ぶ…そんな強さと儚さとを併せ持つ生き様を誇りに思い、明日も頑張ろうと思うのです。良い作品をありがとうございました。

返信(1)

お便りありがとうございました。いわゆる成功者たちの自伝を読むとそんなにうまくことが運ぶものなのかと一種、呆れてしまうことがあります。それはだいたい有力者と出会い引き上げて貰ったりするのですが、何やらそこに今話題のジャニーズ的な裏がなかったか気になったりします。世の中は本当に不公平でコネやカネがない一般庶民にはとても生きにくくできています。慶応高校が甲子園で優勝してもあまり素直に喜べないことにはそんなこととも関係があるのではないでしょうか。やっかみ、羨望といえばそれまてですが、彼らは明らかに一般庶民とは別な世界で生きているいわゆる特権階級の人たちです。そんな人たちが我が物顔で若者の聖地甲子園を占拠している姿には目をそむけたくなる人がいても不思議ではないでしょう。この国のほとんど大多数の人々は日々の生活のために、生きるために耐えがたいことにも歯を食いしばって耐え、自分と家族のために汗水たらして働いている貧しい人たちなのですから。北町貫多や寅さんはそんな人たちの味方であってほしいです。