第2話 少女

文字数 1,962文字

 二時間の授業を終え、下の階に降りてくると、賑やかな声が聞こえてきます。
 華やかな中学生くらいの少女とさらにそれより小さい小学生くらいの少女と、その少女に何やらちょっかいを出している、生意気そうな元気な男の子が三人でトランプをしていました。
 それより少し離れたソファで、四人の大人たちが楽しげに、お酒やお茶を各々飲んでいました。
「先生、お疲れ様でした。今お茶をお出ししますね」
 拓磨さんのお母様が立ち上がりました。弁護士ですが、家にいるとキャリアウーマンな感じは全くせず、至って普通のお母さんという感じでした。
「拓にぃも入って遊ぼう。三人じゃつまらない。果歩はいっつも七並べ弱いんだよ」
 男の子が元気にいうと、その横にいた、気弱そうな少女が泣きそうな顔をします。ふっくらした色白の頬が可愛らしく、大きな潤んだ目から涙が溢れそうで、素直に可愛がられて育ってきた感じが伝わって来ます。
「また果歩ちゃんをいじめたのか。いい加減にしろ」
 拓磨さんが男の子に意外にも強い感じで注意します。涼しげな目元のあたりが似ているので、この二人が兄弟なのだな、と見て取れました。
「騒がしくてすいません。ご紹介します」
 家庭教師をする前に、一度だけご挨拶した拓磨さんのお父様が、このふた家族を紹介してくれました。

 まず、先ほど女の子を泣かせていた男の子が拓磨さんの弟の新くんです。小学四年生で、近くの公立小学校に通ってきます。元気いっぱいのわんぱく小僧という感じで、でもお兄ちゃんのいうことだけはよく聞く、素直そうな子でした。
 その新くんからいじめれていた子が、渡辺果歩ちゃんです。小学校一年生なので、みんなの末っ子のせいか、いつもみそっかす扱いされて、それは後々彼女の性格に大きな影響を及ぼしますが、私から見ても可愛らしく、思わず何かと面倒を見てあげたくなるような可愛らしさがあります。
 ちょうど拓磨さんも新くんの間に挟まれる形でわいかにも利発そうな、将来はとても美人になりそうな子が、果歩ちゃんの姉の美穂ちゃんです。当時は中学校に上がったばかり。
 何でもハキハキ話す、大人びた子で、拓磨さんの家庭教師と自己紹介すると、学部はどこですか、東北大なんてすごい、と積極的に話しかけてくれました。
 これがふた家族の子供たちの四人です。

 ソファに座っていた大人四人は、その子供たちの親たちになります。
 まず、拓磨さんと新くんの両親の弁護士のお母様と公認会計士のお父様です。
 拓磨さんのお父様は、拓磨さんに性格的に似ているのか、穏やかでどこかどっしりしている印象がありました。にこやかなお母様と並ぶと、なるほどお似合いな夫婦だな、と感じました。
 美穂ちゃんと果歩ちゃんの両親は、拓磨さんの家とは逆で、お父様が弁護士でした。
 弁護士というより、理科の先生のような、どこか神経質な感じですが、娘さんたちにはとことん甘いパパでした。この方もこのふた家族の関係に大きく影響を及ぼします。
 果歩ちゃんのお父様も市内で弁護士事務所を経営していました。拓磨さんのお母様は別の事務所で、いち弁護士として働いていましたが、いずれは果歩ちゃんのお父様の事務所に入り、事務所名に名前を入れて、共同で事務所をやっていく可能性も、今考えればあったのだろうと思います。
 果歩ちゃんのお母様は、ただお一人だけ、仕事をしていない専業主婦でした。可愛らしいお二人の娘さんに恵まれた、優雅な奥様、という印象です。働いていないせいか、どこか浮世離れした、世慣れない印象でした。
 この四人は、全員が東京の大学で知り合ったそうです。
 しかも全員が東北出身者。拓磨さんのお父様、果歩ちゃんのお母様が仙台市、拓磨さんのお母様が秋田県、果歩ちゃんのお父様が青森県のご出身だそうです。
 東京の私大の、地方の遺跡や古城を見に行く旅行サークルで知り合った四人は、自然に仲良くなり、それぞれお付き合いが始まったそうです。
 ふた家族が仙台市に家を構え、それぞれ公認会計事務所と弁護士事務所を開きます。ふた家族は家も近く、こうして子供たちを交えて、今でも頻繁に交流があるそうです。
 ちょうど、子供も男の子と女の子が二人ずつ。歳の差は、一番上の拓磨さんと、一番下の果歩ちゃんで十歳ありますが、ふた家族でキャンプに行ったり、お正月に集まったり、ちょうどいとこのような感じだったのだと思います。
「学生時代からのお友達なんて素敵ですね」
 私が素直にいうと、そうなんですよ、と拓磨さんのお父様が答えます。
「もう老後は四人で暮らそうって言ってるくらいです」
 果歩ちゃんのお父様も続けます。女性方二人も、頷いて同意しています。こんなに仲が良く、経済的にも恵まれた状況であれば、本当にそうなっても不思議じゃないな、という印象でした。
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