第4話 ひよこ(果歩)

文字数 1,412文字

 何故だか分からないけど、自分の立ち位置というものが、子供の頃からあるような気がする。
 私の立ち位置。
 末っ子。一番小さい子。何をやってもイマイチで、周りに面倒を見てもらってばかりいる子。
 それが私だった。
 可愛くて活発な美穂ちゃんに隠れて、私はいつもみそっかす扱いだった。
 新くんにはいつもいじめられてたし、美穂ちゃんも鈍臭くて、要領の悪い私にいつもうんざりしていたと思う。
 パパだって、ママだってそうだ。
 美穂ちゃんは何でも積極的で、ピアノもバレエも自分からやりたいと言って、私はそれにくっついて始めただけだけど、それでもどちらも大好きでちゃんと美穂ちゃんより長く続けていたのに。
 何だか、いつも頑張った姿を認めてもらえない、そんな気がしていた。

 こんなに大袈裟にすることなかったのに。
 ベッドに寝かされて、頭を包帯でぐるぐる巻きにされて、何だか居心地が悪かった。
 拓磨さんだって。
 あんなに悲痛な顔をして、謝ってくれなくてもよかったのに。
「女の子の顔に傷をつけて、本当に申し訳ない」
 拓磨さんは子供の私に、深々頭を下げた。
 拓磨さんに会ったのは久しぶりだった。
 もう大学生らしいけど、最近は全然うちにも来なかったし、井上の家に行っても、バイトとか学校でいなかったから。
 私だってもう子供じゃないし。
 もう小学四年生なのに。
 新くんと遊んでいたら、突き飛ばされて、コンクリに頭をぶつけた、なんて話が拓磨さんには伝わったらしいけど、実際は中学生になって、なかなか遊んでくれなくなった新くんに付き纏っていたら、振り切った新くんの手を避けきれずに、勝手に転んで、頭をぶつけたのだ。
 だって、みんな大きくなって、なかなか私と遊んでくれなくなったんだもの。
 つまらない。
 ポツリと呟いた。
 本当につまらない。
 美穂ちゃんも高校生になってしまって、急に大人びていよいよ果歩には目もくれない。さらに新くんまで中学生になっめ、部活が始まったからか、休日も忙しいみたいだ。
 私が中学生になったら、美穂ちゃんも大学生だ。そしたらますます誰も自分とは遊んでくれなくなってしまうのだろう。
 現に大学生の拓磨さんだって、今はもう全然私たちと過ごすことはなくなっているのだ。
 頭を怪我したと聞いて、拓磨さんと新くんはわざわざうちまで謝りにきた。
 怪我をさせた新くんより、拓磨さんは悲痛そうな顔をしてずっと責任を感じているようだった。
 相変わらずのみそっかす。みんなに心配をかける出来損ない。まるでひよこみたいだな、と思う。
 鬼ごっこやかけっこをしたときに、いるにのいない扱いにされる、甘やかされたひよこ。大幅なハンデをつけてもらえるけど、決して対等にはなれない子。
 何となく引け目を感じるコンプレックスは、学校でも変わることがなく、早生まれのせいで体が小さめな私は、結局、クラスでも集団の後ろの方でみんなにくっついていくような子だった。さすがにひよこ扱いではないけど、学級委員に推薦されることもないし、成績もいつも真ん中あたり。字は上手だと褒められるから、習字は得意だけど、体育はからっきして、結局学校でも新くんみたいな子から鈍臭い子認定されている。
 私はため息をついた。
 自分の遠くで、周りの少し大きな子供たちが、どんどん大きくなってしまう。
 私も美穂ちゃんや新くんみたいに、何でも自分で決めてみたい。
 ぼんやりしながら、そんなことを考えていた。
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