第三章 凍りついた冬②
文字数 2,174文字
改めて大学のキャンパスをこうして見渡してみると、高校までの狭い空間とは大違いだな、と思わせてきた。
各学部の校舎に広いグラウンド。
校門をくぐった先にあるのは高校までの景色とは全く違うものだった。
さくらは深呼吸をして、これまでの遅れを取り戻すべく歩みを進める。
さくらがこうして大学に通うようになってから、さくらの存在感は高校の時以上に目立つものとなっていった。
特に男子学生たちの視線はさくらに釘 付 けと言っても過言ではない。
長くつやつやした黒髪は、大学生になった途端に派手な髪色をする学生たちとは違って目立つものだった。
(髪……、切ろうかな……?)
さくらはどうも注目される原因がこの長い髪にあると思っていたようだ。
しかしさくらの容姿は高校時代の可 愛 らしい雰囲気から、大人の気品を兼ね備えたものとなっていった。少女から脱したさくらの魅力に、男子学生たちが釘付けになるのも無理はないと言えよう。
更にさくらは、どこかのサークルに属することもなかった。
そう言った孤高の存在がまたミステリアスで、高 嶺 の花 を彷 彿 とさせる。
遠巻きにさくらを見る男子学生の視線は熱かった。
そんな男子学生の中にも、さくらに直接アタックを仕掛ける猛者 がいた。さくらにラブレターを送るもの、直接思いの丈をぶつけるもの……。
様々な形でさくらにアピールをする彼らは、ことごとく玉砕していくこととなる。
(今は、恋愛とか、考えられない……)
さくらの心の中には、大学生活を送る上でも高校時代に過ごした大 輔 との思い出が強く残っていたのだった。その楽しいはずの大輔との思い出は、さくらをどんどん苦しめていった。
「前田さくらさん! まずは、お友達から、お付き合いしてください!」
「ごめんなさい」
もう何度目になるか分からない告白を断るとき、さくらの胸に去来することがあった。
(この人たちだって、いつかは私を残していなくなってしまうかもしれない……)
さくらは愛 しい人を失う恐怖と、大輔への思いから、どんどん恋愛を遠ざけることとなったのだった。
それだけモテるのに、彼氏を一人も作ろうとしないさくらは、女子学生たちからはいい目で見られることはなかった。ただでさえ容姿だけでも嫉妬の対象となり得る上に、告白してくる男子学生をことごとく振っていくのだから、女子学生たちは全く面白くなかった。
そのためさくらが所属出来る女子グループはどこにもなくなっていった。
いつしかさくらは、一人でいることが多くなっていくのだった。
(まぁ……、勉強しにきているのだから、気にしない、気にしない)
さくらはそう自分に言い聞かせ、大学生活を送っていく。
そんなさくらはある日、大学の講義で『依存』について学んだ。
簡単に言えば人に頼ることなのだが、それが過ぎると、その人がいないと生きていくことすらままならなくなる、と言うものだった。その心理的メカニズムについて解説している講義だったのだが、さくらはこの授業を受けて気付いた。
(私が大輔くんのこと好きだって思っていた気持ちも、依存なのでは……?)
さくらは自分が、大輔の存在に依存していたのではないか。
そう考えるようになったのだ。
一人では生きていくことが出来ない依存というものに、さくらはいつしか嫌 悪 感を覚えるようになっていった。
(誰かに頼らないと生きていけないほど、私は弱くはない、はず……)
強がりでも何でもなく、さくらはいつしかそう思うようになった。それから、自ら恋愛についても分析を始めた。
恋愛は、相互依存の典型的な形ではないのか、と。
お互いがお互いの存在に頼り、その先に見える未来は二人して共倒れするものではないのか、と。
そう考えたとき、さくらはもう、誰かに恋をすることはないな、と思った。
(頼るのも、頼られるのも、うんざり)
だったら、一人で生きていく。
自分の人生は自分で歩む。
誰かを必要としない。
さくらはこう考えることで、大輔との楽しかった思い出を記憶の奥底に封印していくのだった。
それからのさくらの人生は、さくらが心に決めた通り一人で歩むこととなる。
さくらの決めたことを聞いた菜月は、何か思うところがあるような表情をしていたが、さくらの考えに何も口出しはしなかった。
この考えを否定したら、さくらは大輔との思い出に押しつぶされて、壊れてしまうのではないかと思ったのだ。菜月はどんな形であれ、さくらが生きていくことを望んでいた。
さくらが恋愛に対して臆病になっているだけだと、菜月には分かっていた。
しかしさくらがこの考えでこれからも生きていってくれるのなら、と、菜月は言葉を押し殺していたのだった。
さくらはこの考えに至ったとき、一人で生きていく決意表明も込めて、腰まであった長い髪をバッサリと切ってしまった。
(鏡を見るたびに、これで思い出せる)
それに、長い髪が周囲から注目されていると思っていたさくらにとって、髪を切ることは周囲からの視線を集めずに済む方法だと思っていた。
これなら一石二鳥だと考えたのだ。
肩くらいの長さのボブヘアに変わったさくらを見た、大学生たちは驚いた。
さくらの心境の変化に気付くものはいなかったが、髪を短くしたことで、皮肉にもさくらのもつ雰囲気をより孤高の存在に高めてしまったのだった。
各学部の校舎に広いグラウンド。
校門をくぐった先にあるのは高校までの景色とは全く違うものだった。
さくらは深呼吸をして、これまでの遅れを取り戻すべく歩みを進める。
さくらがこうして大学に通うようになってから、さくらの存在感は高校の時以上に目立つものとなっていった。
特に男子学生たちの視線はさくらに
長くつやつやした黒髪は、大学生になった途端に派手な髪色をする学生たちとは違って目立つものだった。
(髪……、切ろうかな……?)
さくらはどうも注目される原因がこの長い髪にあると思っていたようだ。
しかしさくらの容姿は高校時代の
更にさくらは、どこかのサークルに属することもなかった。
そう言った孤高の存在がまたミステリアスで、
遠巻きにさくらを見る男子学生の視線は熱かった。
そんな男子学生の中にも、さくらに直接アタックを仕掛ける
様々な形でさくらにアピールをする彼らは、ことごとく玉砕していくこととなる。
(今は、恋愛とか、考えられない……)
さくらの心の中には、大学生活を送る上でも高校時代に過ごした
「前田さくらさん! まずは、お友達から、お付き合いしてください!」
「ごめんなさい」
もう何度目になるか分からない告白を断るとき、さくらの胸に去来することがあった。
(この人たちだって、いつかは私を残していなくなってしまうかもしれない……)
さくらは
それだけモテるのに、彼氏を一人も作ろうとしないさくらは、女子学生たちからはいい目で見られることはなかった。ただでさえ容姿だけでも嫉妬の対象となり得る上に、告白してくる男子学生をことごとく振っていくのだから、女子学生たちは全く面白くなかった。
そのためさくらが所属出来る女子グループはどこにもなくなっていった。
いつしかさくらは、一人でいることが多くなっていくのだった。
(まぁ……、勉強しにきているのだから、気にしない、気にしない)
さくらはそう自分に言い聞かせ、大学生活を送っていく。
そんなさくらはある日、大学の講義で『依存』について学んだ。
簡単に言えば人に頼ることなのだが、それが過ぎると、その人がいないと生きていくことすらままならなくなる、と言うものだった。その心理的メカニズムについて解説している講義だったのだが、さくらはこの授業を受けて気付いた。
(私が大輔くんのこと好きだって思っていた気持ちも、依存なのでは……?)
さくらは自分が、大輔の存在に依存していたのではないか。
そう考えるようになったのだ。
一人では生きていくことが出来ない依存というものに、さくらはいつしか
(誰かに頼らないと生きていけないほど、私は弱くはない、はず……)
強がりでも何でもなく、さくらはいつしかそう思うようになった。それから、自ら恋愛についても分析を始めた。
恋愛は、相互依存の典型的な形ではないのか、と。
お互いがお互いの存在に頼り、その先に見える未来は二人して共倒れするものではないのか、と。
そう考えたとき、さくらはもう、誰かに恋をすることはないな、と思った。
(頼るのも、頼られるのも、うんざり)
だったら、一人で生きていく。
自分の人生は自分で歩む。
誰かを必要としない。
さくらはこう考えることで、大輔との楽しかった思い出を記憶の奥底に封印していくのだった。
それからのさくらの人生は、さくらが心に決めた通り一人で歩むこととなる。
さくらの決めたことを聞いた菜月は、何か思うところがあるような表情をしていたが、さくらの考えに何も口出しはしなかった。
この考えを否定したら、さくらは大輔との思い出に押しつぶされて、壊れてしまうのではないかと思ったのだ。菜月はどんな形であれ、さくらが生きていくことを望んでいた。
さくらが恋愛に対して臆病になっているだけだと、菜月には分かっていた。
しかしさくらがこの考えでこれからも生きていってくれるのなら、と、菜月は言葉を押し殺していたのだった。
さくらはこの考えに至ったとき、一人で生きていく決意表明も込めて、腰まであった長い髪をバッサリと切ってしまった。
(鏡を見るたびに、これで思い出せる)
それに、長い髪が周囲から注目されていると思っていたさくらにとって、髪を切ることは周囲からの視線を集めずに済む方法だと思っていた。
これなら一石二鳥だと考えたのだ。
肩くらいの長さのボブヘアに変わったさくらを見た、大学生たちは驚いた。
さくらの心境の変化に気付くものはいなかったが、髪を短くしたことで、皮肉にもさくらのもつ雰囲気をより孤高の存在に高めてしまったのだった。