第二章 刹那の春⑤
文字数 2,312文字
「やめて……! 離してっ!」
さくらが手を振りほどこうとするが、男性の力に勝てるわけもなく、そのままずるずると神社の境 内 に引きずり込まれそうになる。
(誰か、助けて……!)
さくらがぎゅっと目をつぶったその時だった。
「離せよ」
低い声が聞こえ、ナンパ師が握っていたさくらの手を別の誰かが握った。
驚いたさくらが目を開けると、そこにはTシャツに短パン、サンダルのラフな格好をした大 輔 の姿があった。
「俺の彼女に、何か用?」
大 輔 の声は怒気をはらみ、普段の声より低かった。大輔の登場に今までグイグイとさくらに詰め寄っていたナンパ師たちは、
「野郎連れかよ。ちっ、行こうぜ」
そう言ってその場を去って行った。
「あ、あの……。松本くん、ありがとう……」
さくらは消え入りそうな声で大輔に礼を言った。大輔はそんなさくらをちらっと見やると、
「あーもーっ!」
突然、そう叫んだかと思うと、ふわふわの髪の毛を自らの手でぐしゃぐしゃとかき乱し始めた。
「前田さん!」
「はいっ!」
さくらの背が自然と伸びる。
「可 愛 すぎっ! 犯罪! ギルティ!」
「えぇっ?」
大輔の口から出た言葉に、さくらはどう反応していいか分からない。分からないが、恥ずかしさから消え入りたくなってしまった。
「そんな格好で、一人でいたらダメ! って、俺が遅れたのが原因か……。悪い……」
大輔はさくらを責めたと思ったら、突然、自 己 嫌 悪 に襲われてしまったようで、か細い声で謝罪した。そんな大輔の様子がおかしく、さくらは思わず笑ってしまう。
「ねぇ、松本くん。お祭り、楽しもう?」
さくらはクスクスと笑いながら、大輔にそう提案する。大輔もすぐに立ち直ったようで、おう! と返事をすると、さくらの手を握って神社の鳥居をくぐるのだった。
綿菓子屋、お面屋、金魚すくい――、様々な出店を冷やかしている間も、大輔はさくらの手を離そうとはしなかった。その大きな手のぬくもりに、さくらの鼓動は高鳴る。
カランカランと下 駄 を鳴らしながら、二人は夜の祭りを楽しんでいた。
「そうだ! この後、花火大会あるじゃん?」
「え?」
一通りの出店を冷やかした後の大輔の言葉は、祭りの喧 騒 にかき消されてしまい、さくらの耳にまで届かなかった。しかし大輔は、
「花火、観 にいこうぜ!」
そう言うと、さくらの手を引いて海岸へと歩き出した。
多くの祭り客が同じことを感じていたのか、歩道は花火会場へと向かう人たちでごった返している。
「人が多いね」
さくらの言葉に大輔は、
「祭りはこうじゃなくっちゃな!」
そう言って楽しそうに笑った。その横顔が夏の夜空と共にさくらの脳裏に焼き付く。
そうして二人は花火大会の会場へとやってきた。
程なくして、花火開始のアナウンスが辺りに流れる。すると大音量の音楽に乗せ、次々と海上から花火が打ち上がっていった。
「うわぁ……!」
さくらはその迫力に、すぐに花火に釘 付 けとなる。
ドーン! パラパラ……。
ドーン! ドーン!
次々と押し寄せる音と空気を震わせる振動は、さくらだけではなくその場にいる誰もの視線を集めるには十分だった。
さくらも目を輝かせて打ち上げ花火に見入っていた。そんなさくらの横顔を、大輔はチラリと盗み見る。それから何かを決意したような真面目な表情になると、スッと視線を花火に戻すのだった。
大興奮の花火大会は終盤を迎える。
最後は壮大な音楽に乗せ、様々な打ち上げ花火が次々と間髪入れずに上がっていく。その様子に人々は歓声を上げ、大いに盛り上がっていく。
最高のフィナーレを迎え場内に終了のアナウンスが響くと、人々は口々に感想を言い合いながら移動を開始した。
人の流れができはじめる中、大 輔 はじっと真っ暗な空と海を眺めたまま動かない。
「松本くん……?」
さくらは恐る恐るその真剣な横顔に声をかけた。さくらの声に、大輔がはっとしたように顔を向けた。
「花火、終わったよ?」
さくらが移動を促すが、大輔はそんなさくらの顔を真剣な表情で見つめる。その視線に射 貫 かれたさくらは、金縛りに遭ったかのように身体が動かなくなってしまった。
「あの、さ……」
祭り会場から人々が消え始め、スタッフたちが後片付けを始めている中、ようやく大輔が重い口を開いた。さくらは初めて見る大輔の真剣な表情に、言葉が出てこない。
大輔は緊張した面持ちでゆっくりと、しかしハッキリした声音でこう言った。
「俺と、付き合ってくれない?」
「……!」
それはさくらにとって、色々な男子たちに言われた言葉だった。しかし今回の大輔からの告白は、今までのそれとは全く違った。まっすぐな視線と、言葉が、さくらの心臓を貫く。
あまりの衝撃でさくらの息が詰まった。
(ど、どうしよう……。何か、言わなきゃ……)
さくらは内心慌てる。しかし金縛りに遭ったかのような身体は、さくらが口を開くことも許してはくれなかった。ただ、大きな目を更に大きく見開くことしか出来ない。
そんな驚いた様子のさくらに、大輔は言う。
「俺、本気だから……。前田さんのこと、泣かせたりしないから。だから……」
言いながら自信をなくしてしまったのか、大輔の声が少しずつ小さくなってしまう。
さくらはそんな大輔の様子にようやく金縛りが解けたのか、
「あのっ!」
やっと声を発することができた。
(松本くんが真剣に告白してくれたんだ……。今度は、私の番……)
さくらはそう決意すると、消え入りそうになっている大輔の目をまっすぐに見返した。それから、
「あの、ね? 私も、松本くんのことがね、好き、です……!」
消え入りそうになる声を必死に振り絞り、さくらは自分の言葉を大輔に伝える。
さくらが手を振りほどこうとするが、男性の力に勝てるわけもなく、そのままずるずると神社の
(誰か、助けて……!)
さくらがぎゅっと目をつぶったその時だった。
「離せよ」
低い声が聞こえ、ナンパ師が握っていたさくらの手を別の誰かが握った。
驚いたさくらが目を開けると、そこにはTシャツに短パン、サンダルのラフな格好をした
「俺の彼女に、何か用?」
「野郎連れかよ。ちっ、行こうぜ」
そう言ってその場を去って行った。
「あ、あの……。松本くん、ありがとう……」
さくらは消え入りそうな声で大輔に礼を言った。大輔はそんなさくらをちらっと見やると、
「あーもーっ!」
突然、そう叫んだかと思うと、ふわふわの髪の毛を自らの手でぐしゃぐしゃとかき乱し始めた。
「前田さん!」
「はいっ!」
さくらの背が自然と伸びる。
「
「えぇっ?」
大輔の口から出た言葉に、さくらはどう反応していいか分からない。分からないが、恥ずかしさから消え入りたくなってしまった。
「そんな格好で、一人でいたらダメ! って、俺が遅れたのが原因か……。悪い……」
大輔はさくらを責めたと思ったら、突然、
「ねぇ、松本くん。お祭り、楽しもう?」
さくらはクスクスと笑いながら、大輔にそう提案する。大輔もすぐに立ち直ったようで、おう! と返事をすると、さくらの手を握って神社の鳥居をくぐるのだった。
綿菓子屋、お面屋、金魚すくい――、様々な出店を冷やかしている間も、大輔はさくらの手を離そうとはしなかった。その大きな手のぬくもりに、さくらの鼓動は高鳴る。
カランカランと
「そうだ! この後、花火大会あるじゃん?」
「え?」
一通りの出店を冷やかした後の大輔の言葉は、祭りの
「花火、
そう言うと、さくらの手を引いて海岸へと歩き出した。
多くの祭り客が同じことを感じていたのか、歩道は花火会場へと向かう人たちでごった返している。
「人が多いね」
さくらの言葉に大輔は、
「祭りはこうじゃなくっちゃな!」
そう言って楽しそうに笑った。その横顔が夏の夜空と共にさくらの脳裏に焼き付く。
そうして二人は花火大会の会場へとやってきた。
程なくして、花火開始のアナウンスが辺りに流れる。すると大音量の音楽に乗せ、次々と海上から花火が打ち上がっていった。
「うわぁ……!」
さくらはその迫力に、すぐに花火に
ドーン! パラパラ……。
ドーン! ドーン!
次々と押し寄せる音と空気を震わせる振動は、さくらだけではなくその場にいる誰もの視線を集めるには十分だった。
さくらも目を輝かせて打ち上げ花火に見入っていた。そんなさくらの横顔を、大輔はチラリと盗み見る。それから何かを決意したような真面目な表情になると、スッと視線を花火に戻すのだった。
大興奮の花火大会は終盤を迎える。
最後は壮大な音楽に乗せ、様々な打ち上げ花火が次々と間髪入れずに上がっていく。その様子に人々は歓声を上げ、大いに盛り上がっていく。
最高のフィナーレを迎え場内に終了のアナウンスが響くと、人々は口々に感想を言い合いながら移動を開始した。
人の流れができはじめる中、
「松本くん……?」
さくらは恐る恐るその真剣な横顔に声をかけた。さくらの声に、大輔がはっとしたように顔を向けた。
「花火、終わったよ?」
さくらが移動を促すが、大輔はそんなさくらの顔を真剣な表情で見つめる。その視線に
「あの、さ……」
祭り会場から人々が消え始め、スタッフたちが後片付けを始めている中、ようやく大輔が重い口を開いた。さくらは初めて見る大輔の真剣な表情に、言葉が出てこない。
大輔は緊張した面持ちでゆっくりと、しかしハッキリした声音でこう言った。
「俺と、付き合ってくれない?」
「……!」
それはさくらにとって、色々な男子たちに言われた言葉だった。しかし今回の大輔からの告白は、今までのそれとは全く違った。まっすぐな視線と、言葉が、さくらの心臓を貫く。
あまりの衝撃でさくらの息が詰まった。
(ど、どうしよう……。何か、言わなきゃ……)
さくらは内心慌てる。しかし金縛りに遭ったかのような身体は、さくらが口を開くことも許してはくれなかった。ただ、大きな目を更に大きく見開くことしか出来ない。
そんな驚いた様子のさくらに、大輔は言う。
「俺、本気だから……。前田さんのこと、泣かせたりしないから。だから……」
言いながら自信をなくしてしまったのか、大輔の声が少しずつ小さくなってしまう。
さくらはそんな大輔の様子にようやく金縛りが解けたのか、
「あのっ!」
やっと声を発することができた。
(松本くんが真剣に告白してくれたんだ……。今度は、私の番……)
さくらはそう決意すると、消え入りそうになっている大輔の目をまっすぐに見返した。それから、
「あの、ね? 私も、松本くんのことがね、好き、です……!」
消え入りそうになる声を必死に振り絞り、さくらは自分の言葉を大輔に伝える。