人を呪うということ
文字数 876文字
「いやあ、それが、詳しくは知らないんですよ。なにせ人によっても微妙に違うものでしたから、これは使えないなと思って忘れてしまいました」
この人はいたいけな女学生のおまじないを何に使うつもりだったのだろう。
津野は初めて間に会ったとき、彼が学生服を着ていたのを思い出した。やっぱりあの時詳細を聞いていなくて良かった。
けれど、津野はそこで気になった。
「そんな迷信みたいなものに効果があるんですか」
正直、消しゴムに好きな人の名前を書くことで縁結びの神様が動く、くらいの暴論のような気がする。
「さあな。ただ、
酒坂は例えば、とこんな話をした。
ある女子が男子にその不幸になる呪いをかけたとする。
それ自体には何の効果もなかったが、男子は第三者によって自分にその呪いがかけられたことを知る。男子は近くに貧乏神をまつる神社があるのを知っていたが、それが効くとは信じていなかった。
だが、気にしないようにすればするほど、その呪いのことが気になって仕方がない。それが本当に効いているのか、今日何か不自然なことはなかったか。そもそもどうして自分がそんなものをかけられなくてはいけないのか。
気にすれば気にするほど、自分の身に降りかかる不幸が、その呪いによるもののような気がしてくる。実際は昨日までと何ら変わらぬ日常を送っているのに。
そうして、少なくともそいつの中で不幸になる呪いは完成する。あるいはその話を聞いた誰かもそれを認識する。閉じられた世界では、それは怪異として認識されてもおかしくはない。
「まあ、恋のまじないだってそんな物だろう。気にもしていなかった女子が自分の名前を消しゴムに書いているなんて聞けば、いやでもそいつを気にしてしまう。それが反転したようなものだ。そしてこれは、立派な呪いのメカニズムの一つだ」
最後に酒坂とは思えない可愛らしいたとえが入ってしまったが、おおまかには理解出来た。