第19話 ペロス

文字数 805文字

 ペロスは激怒したのか知らないが、算数の時間に一人校庭でサッカーボールを蹴っていた。
 ペロスはすぐに先生から逃げ出して、勝手に家に帰ったりした。
 ペロス、お前はイケメンだった。でも女にはモテなかった。男には…… 変にモテた。
 中学生のころ、ペロスはあだ名のもとである行為をみんなの前で披露した。俺は体が柔らかいんだ。ペロペロ。まじかよ、気持ちいいのか? それ。
 すぐに入院した。頭を打った、膝を割った、血が止まらない、意識がない。
 でも治った。ケロッとしていた。
 高学年の時には家から勘当されて、スーパーの冷凍食材を万引きして飢えをしのいでいた。
 お前の出来損ないの手料理は「ペロスペシャル」の異名を与えられ、よく罰ゲームに使用された。
 黄金の中学時代だった。何もかもが輝いて見えていただろう。

 良くないのは質の悪い連中とつるみだしてからだった。高校生、パイセンってお前は呼んでいた。
「パイセン達、マジかっけーんだ」って、お前、エロいこととかひたすらやられてたくせに。
 人を憎むってことを知らないんだ。
 大学に何とか合格して、周りがほっと一息ついたのも束の間。
 パイセンに呼び出されて、昼から雀荘。パイセンに脅されて、スロットの代打ち。果てに中退。
「パイセン達と、ビッグになる」って息巻いての上京。
 共同経営の風俗店を見事にこかして、ケツ持ちの企業に膨大な借金を負わされた。
 酒の量が増えた。
 あらゆる消費者金融から借り入れを断られていた。
 それなのに、パイセン達の生活の面倒を見ていた。
「ひとりじゃ生きられないよ」って、お前さ。
 自己破産して、弁護士費用踏み倒して。
 西まで逃げて、真っ白な履歴書、嘘で塗り固めて。
「ひとりじゃ生きられないよ」って、お前さ。

 悪口、聞いたことないよ。
 お前を嫌いな奴、見たことない。
 何が正しくて、何が間違いなのか、俺にはもう分からないけど。
 お前こそが詩を、書くべきなんだ。
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