4 地母神と天父神

文字数 2,680文字

[武神彼氏2]の[15*天神地祇/1隠れる地の祇]で書きましたが、じつは紀伊半島も火山がありました。噴火がありました。愛知県から紀伊半島、瀬戸内海を経て福岡県へと二上火山帯(瀬戸内火山帯)がありました。

 1400万年前の熊野カルデラの、たった1度の、世界最大の噴火のあと、山陽の二上山火山帯の火山活動は、何故か終えます。そして角盤山や三瓶山などの山陰の大山火山帯(白山火山帯)の活動が、何故か始まります。

 紀伊半島は、熊野灘といわれる入島を拒むような険しい切岸の海岸が続きます。
 紀伊半島は、平地が少なく、山地が多く、進行を拒むような険しい岩壁が続きます。熊野カルデラが創った岩壁。噴火後も絶えない地震で岩壁が、絶えない台風の津波で切岸が削られ、さらに険しくなります。

 噴火後、初めて紀伊半島に人が来ます。
 人を拒むような切岸、岩壁を越えたあと、巨岩や奇岩に驚きます。
 何故、驚いたのでしょうか。
 切岸、岩壁、巨岩や奇岩はだれが造ったと思います。
 絶えない地震や台風の中で人は考えます。神(精霊)が、地の神、海の神、地震の神、台風の神が造ったと考えます。ここは神の造った地、熊野、と。

 そして温泉。1400万年前の噴火の余熱で、紀伊半島に温泉が湧きます。とくに多雨な熊野の温泉は有名。
 1400万年前の古代と現代が温泉で繋がってます。地下から地上へと湧きでた黄色の泉は、植物や動物を育てます。地の底ノ国に隠る地の神は、岩壁を造った地震の神は、祟りますが、恵み齎します。拒んだ人も受け入れます。
 人も、自然の、熊野の一部となります。

 熊野の地名の所以は、諸説があります。
 熊野は音読でユヤ(ユウヤ)、またはイヤと読みます。能の演目にあります。
 ユヤは湯谷で、山間の谷の温泉。かつてユヤ(またはイヤ)と呼ばれた地名に熊野の字をあてた説。ふざけてますが、じつはほかに有名な地名があります。かつてフタラと呼ばれた地名に二荒の字をあてましたが、音読でニコウと読まれ、日光と書かれました。
 出雲国の熊野と書かれた(またはクマノと呼ばれた)地名と、紀伊国のユヤ(またはイヤ)と呼ばれた地名が合わり、熊野(イヤ)となり、熊野となった説。熊野(イヤ)が、揖夜神社に関わるか、湯谷に関わるかわかりません。しかしイザナミに関わります。
 そして花窟神社に、再び関わります。
 


 改めて神話を考えます。

 古事記で、イザナギと交わったイザナミは、国を産んだあと、家に関わる神(家宅六神)、山や海などの自然の神を産み、火神カガヒコを産み、死にぎわに食物(穀物)の神オホゲツヒメを産みます。家に関わる神が産まれたということは、すでに人も産まれてます。
 家宅六神の大屋毘古神は、古事記でオオクニヌシを根ノ国(黄泉国)に導いた大屋毘古神、日本書紀一書で木ノ国(紀伊国)に木種を齎したイタケルと同神、または別神と諸説がありますが、いずれ紀伊国と出雲国を結ぶ神と考えられます。

 イザナミは地母神といわれますが、最初に家に関わる神を、最後に火神と食物神を産みます。つまり自然の神の祖神でなく、自然の中で生きる人の祖神。
 つまり地の神がイザナミと変わりました。
 やがて1日1000人の人を殺す黄泉大神に変わります。

 イザナギは、黄泉国(熊野国)から日向国へと逃げる時に塞ぎ神、穢れ神、祓い神を生みます。宮中祭祀に関わる神、そして三貴神を生みます。
 イザナギは天父神といわれますが、宮中祭祀に関わる神の祖神。
 
 スサノヲは母神イザナミに会うため、黄泉国(根ノ国/出雲国)に堕ちます。日神は、イザナギに、高天原に昇るように言われます。里子。

 日神は高天原に昇り、皇祖神となります。天孫神(皇孫神)は、日向国に降り、中ツ国(大和国)に移り、東の日の昇る伊勢国に日神を祀ります。
 同時に出雲国は大和国の統治下となり、出雲氏は黄泉大神イザナミを祀りあげます。



 一説に日神生誕と天孫降臨神話のため、日向国は創られたといわれます。
 理由は、瀬戸内海で禊を行うため。
 此岸の黄泉国(熊野国)でイザナミを殺し、塞ぎ、瀬戸内海の潮で穢を祓い、彼岸の日向国で日神を生みます。瀬戸内海を渡り、着いた国が日向国となります。事実、日向国は神話を書いた後に造られた国で、日神を伊勢国に祀る為に創られた神話の国。
 延喜式神名帳で日向国は都農神社、都萬神社、霧島神社、江田神社の小社4社が載ってますが、大社は載ってません。日神生誕、天孫降臨の国でありながら。
 それぞれの神社の社伝で、創建や祭神は神話に関わると伝えますが、本来の創建や祭神はわかりません。まあ、いろいろとあります。あとで考えましょう。

 処女受胎がキリストの神聖化を謳うように、日神の神聖化を謳います。

 という事で続きます。



 おまけの神社。熊野本宮大社(和歌山県田辺市/式内名神大社/旧官幣大社)を、ちょっとだけ、考えます。
 祭神はスサノヲ(家都美御子大神)。別名を熊野加武呂乃命。ただし元社名は熊野坐神社。祭神も熊野坐大神。熊野に坐す大神。出雲国の熊野大社も元社名は熊野坐神社。
 元社地が熊野川の中州のため、熊野川が神体の地主神、自然神と考えられます。元社地は大斎原(オオユノハラ)、または大湯原と呼ばれます。
 木の伐採で山の保水力が弱まってたところに、台風による大洪水で社殿が流され、現社地に遷ります。なんとなく笑えます。

 神話で、イザナミはカガヒコを産む前に食物神オホゲツヒメを産みます。
 高天原を逐われたスサノヲ。オホゲツヒメを斬り殺します。

 熊野本宮大社の祭神は熊野坐大神から家都美御子大神へと変わります。出雲国の熊野大社に祀る櫛御気野命と同神。本来は御饌(ミケ)神、食物神といわれます。
 社伝で伊邪那伎日真名子・加夫呂伎熊野大神・櫛御気野命と伝えます。イザナギがかわいがる、神聖な祖神・熊野の大神、櫛御気野命。出雲氏の出雲国造神賀詞による神名。イザナミでなく、イザナギ。なんとなく笑えます。
 やはり本来は熊野加武呂乃命(クマノカムロのミコト)。じつは男神(カムロ・ギ)か、女神(カムロ・ミ)か、わかりません。
 自然神は食物神と変わり、出雲氏によりスサノヲと変わります。
 しかし。
 スサノヲも、本来は紀伊国の自然神(台風の神)。やはり笑えます。

 そして。
 出雲氏は、イザナミを、オオクニヌシを、そしてスサノヲを祀りあげます。葦原ノ中ツ国(大和国)を治めた長男の後裔。東の伊勢国に高天原の日神を祀ります。次男の後裔は西の出雲国で、祟神(怨霊)を祀りあげます。
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