5 里子神と里親神・前篇

文字数 2,924文字

 前回の備考。
 イザナミはカガヒコの前に食物神オホゲツヒメを産みます。そして死にぎわにワカムスヒ(ワクムスヒ)を産みます。ワカムスヒは稚(若)い産霊の神。
 ワカムスヒの子神が神宮外宮に祀られてる食物神トヨウケヒメ。内宮に祀られてる日神の御饌神。トヨウケヒメを奉じる度会氏も、出雲氏なみの笑える神話がありますが、次回の[内宮外宮考]で考えます。



 今回は産霊(ムスヒ)の神を考えます。
 産霊の神は、産す神霊の神格化。万物の生産、生成、生育を司ります。
 カガヒコの別名はホムスヒ(火産霊)。つまり火による生産、生成、生育を司ります。イザナギに斬り殺されたあと、たくさんの神々を生みます。オオクニヌシの国譲神話のミカヅチヲ(古事記で建御雷・日本書紀で武甕槌)、フツヌシ(日本書紀で経津主)の親神も生まれます。

 古事記と日本書紀一書で、最初に造化三神アマノミナカヌシ、タカミムスヒ、カミムスヒが生じます。アマノミナカヌシは神名ごとく天の中心に坐す神で、北極星の神格化といわれます。北半球限定となりますが。
 しかしアマノミナカヌシは生じたあと、すぐに隠れます。なにも行いません。妙見菩薩が、明治の神仏分離、廃仏毀釈で垂迹神アマノミナカヌシと変わりましたが、本来は祀る神社もありません。[内宮外宮考]の伏線となりますが、外宮の伊勢神道でトヨウケヒメと同神といわれます。
 タカミムスヒも、カミムスヒも産霊の神で、造化の、創世の神。
 タカミムスヒとカミムスヒもすぐに隠れます。産霊の神ながら、なにも行いません。
 カミムスヒは隠れたあと、オホゲツヒメの死体に生えた作物を葦原ノ中ツ国に授けたり、オオクニヌシ(ナムヂ)を甦らせたり、産霊の神らしく、そして国ツ神の祖神として色々と行います。
 タカミムスヒは隠れたあと、も、なにも行いません。しかし何故か高木神と神名を変えて色々と行います。

 イザナギに、高天原に昇る(里子に出る)ように言われた日神。スサノヲのイジメで天岩屋に隠れた(籠った)日神。高木神は日神を出すように子神オモイカネに命じます。国ツ神(地祇)オオクニヌシの治める葦原ノ中ツ国を譲らせるように天ツ神(天神)に命じます。譲らせた葦原ノ中ツ国に降りるように天孫神(皇祖神)に命じます。天孫神は日神の孫神、そして高木神の孫神となります。じつは高木神も皇祖神。
 さらに高木神はオオクニヌシが覆さないよう、娘神を娶るように命じます。神武東征で、熊野国で死にそうな神武天皇にミカヅチヲの平国剣を渡すようにタカクラジ(高倉下)に命じ、熊野国から大和国へと導くようにヤタノカラス(八咫烏)に命じます。
 産霊の神タカミムスヒは、高木神と変わります。
 高天原の主宰神の日神の、里親神として高木神は、日神に代わり命じます。
 産霊の神ながら、ただ、命じます。



 神話で、スサノヲと逆に、日神は自らはなにも言いません。行いません。唯一、自らが行った事は、スサノヲと誓で五男神三女神を生んだ事、のちにスサノヲのイジメで天岩屋に籠った事です。
 イザナギに言われて高天原に昇った(里子に出された)あと、つねに日神は里親神タカミムスヒに従い、言います。行います。

 そしてイザナギは皇祖神の親神ながら、日神を里子に出したあと、幽宮に幽れたあと、偉い神として祀られてません。祀る神社は幽宮の伊弉諾神宮だけが式内名神大社、旧官幣大社となります。有名な多賀大社は式内小社、旧郷社で、のちにやっと旧官幣大社となります。伊弉諾神宮の建つ淡路島も、国(島)として数えられてません。エナ(胎盤)として産まれてます。
 さらにイザナギは宮中祭祀に関わる神の親神ながら、じつは宮中祭祀に祀られてません。何故かタカミムスヒが祀られてます。宮中に祀られてる八神の中心は、主宰神はタカミムスヒ。宮中祭祀の主祭神もタカミムスヒ。正しく神王タカミムスヒ。
 日神が高天原の日神となり、皇祖神となり、地母神も天父神も役目を終えます。もう、神話に要りません。



 高木神。
 木ノ国の、たくさんの木々(森)の中で最も高い木は、ほかの木と異なる神威が宿ります。だから高い。地の神の神威、日神の神威も及ばない自らの産す神威で、天へと聳えます。だから高い。
 のちに神社のほかで地鎮祭等の祭祀を行うとき、神体として神籬(ヒモロキ)に神を依つかせます。神霊(ヒ)の天降(アモ)る木。天降る目印だから高い。

 という事で続きます。



 おまけの神社。
 紀伊国の須佐神社(和歌山県有田市/式内名神大社/旧県社)を考えます。
 祭神は、スサノヲ(素盞嗚尊)。全国各地に多数の、多様のスサノヲを祀る神社があります。うちのスサ神社系は、須佐神社、素盞雄神社など、スガ神社系は、須賀神社、須我神社などがあり、スサスガ神社の総本社が、出雲国の須佐神社(島根県出雲市/式内小社/旧国幣小社)。
 紀伊国の須佐神社は、出雲国から紀伊国へと移った出雲氏の奉じた分祀の神社説と、スサノヲは紀伊国の神で、本来の、スサスガ神社の総本社説があります。紀伊半島の海人族が奉じたといわれます。神紋は、出雲国の須佐神社の亀甲柏紋と異なり、桃紋。出雲神を祀る亀甲紋でありません。黄泉比良坂に植ってる桃の木と考えられます。

 両説は、ともに正説と考えられます。
 スサノヲは、本性は大気現象を生じる海ツ神(海神)といわれます。つまり台風の神。切岸を造った台風の神。のちに天災の神、疫病の神となります。

 海の彼方を眺めれば、水平線で天(アマ)と海(アマ)は接してます。つまりスサノヲは天ツ神(天神)、そして海ツ神となります。台風は天も、海も荒らしながら近づきます。スサノヲが高天原で犯した天ツ罪は農耕(稲作)社会に対する反逆罪といわれます。
 海人族が台風後の豊漁神として祀ったスサノヲ。祟りますが、恵みます。やがて紀伊半島は漁撈社会から農耕社会へと変わり、天災の神と変わります。遂われます。海の底ノ国に堕ちます。
 出雲国で国ツ神(地祇)の祖神として生まれ変わります。豊穣神(食物神)と合わさり、出雲氏により紀伊国に甦り(黄泉還り)ます。豊穣神と生まれ変わったキッカケは、石見国、高志国の神社とともに改めて[出雲王朝考]で考えます。

 高天原の日神とスサノヲは誓で五男神三女神を生みました。五男神は日神のもと天ツ神に、三女神はスサノヲのもと海ツ神になります。



 おまけのおまけ。桃の話をちょっとだけ。
 古代中国で桃の木は仙木。古代中国の神話民話を編んだ山海図経(山海経)で、鬼門は度朔山の頂に植わってる桃の木の処にあります。世界と異界の境界に植わってる桃の木の、実は異界からの邪を祓います。黄泉比良坂で、イザナギは桃の実を投げ、黄泉醜女を祓います。
 民話の桃太郎は、山から里へと河に流れてきた桃の、種として産まれ、育ち、鬼退治に出かけます。山神信仰のひとつ。
 山神信仰は、[武神彼氏2」の[13*姫の犯した罪と罰/1コノハナサクヒメ]と[2アタの姫]で書きましたが、桃太郎も、高天原の日神も、宮中祭祀の祭祀者も、隠る(籠る)事が大事。霊威、神威、権威を高めるため、隠ら(籠ら)なければなりません。
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