6 里子神と里親神・中篇

文字数 1,911文字

 人は、かつて森(木々)の中で生きてました。森は食物を恵み、湧水を恵み、外敵を塞ぎました。人にとり森が世界のすべて。
 人は、きっと世界は大きい木、高い木でできてる、と考えてました。
 天へと聳える枝葉が天界を支え、地から聳える幹が地上界を結び、さらに見えない根が地下界を結ぶ世界樹。世界各国の神話で世界樹は書かれてます。

 古代中国の神話民話を編んだ山海図経(山海経)で、氐人(半魚人)の国の東方の、都広山の頂に植る建木も世界樹。中央(中心)に建木が、さらに東方に扶木(日木)、西方に若木が植わる、と書かれてます。日は扶木から昇り、若木へと沈みます。建木は神が天界と地界を昇り降りする為の通天柱。大阪府大阪市浪速区恵美須東の新世界に建つ建物は通天閣。
 山海図経で、神を降ろすため、高い柱を建てる祭祀も書かれてます。
 帝は、日の再生(甦生)に憧れました。そして不老不死の仙人の隠る、日の昇る扶木の植る東方の、海の彼方の、蓬莱山(仙境)にある仙薬を求めました。
 扶木の別名は扶桑木。かつて日本は扶桑国と呼ばれました。
 山海図経で、扶桑木の下に温源谷があり、昇る日は三足烏を載せてる、と書かれてます。太陽黒点の神格化。
 神武天皇を導いたヤタノカラス(八咫烏)。じつは神話にヤタノカラスは三本足と書かれてません。三足烏と合わさり、三本足となります。本来は、三足烏は死んだ帝の霊魂を日に導くといわれます。

 のちに古代中国の世界樹は、何故か扶木だけが有名となります。



 淡路国、または瀬戸内海の海人族は、もとは北九州の筑前国(筑紫国)を本拠地とした安曇氏といわれます。
 漁撈でなく、大陸や朝鮮半島と、日本列島の各国の海運を生業としました。のちに神武東征で本拠地を淡路国へ移し、勅令で全国の海人族をまとめました。
 紀伊国の海人族は安曇氏と関わる氏族かわかりませんが、やはりもとは筑前国を本拠地とした宗像氏、または支族といわれます。事実、福岡県(筑前国)にスサノヲを祀る須賀神社は多く、三女神を祀る宗像大社(福岡県宗像市/式内名神大社/旧官幣大社)もあります。

 筑前国の賀茂神社(福岡県うきは市/旧郷社)、熊野国の矢宮神社(和歌山県和歌山市)、熊野那智大社(和歌山県東牟婁郡/旧官幣中社)の摂社・御縣彦社、大和国の八咫烏神社(奈良県宇陀市/式内小社/旧県社)。各社の社伝で、ヤタノカラスは神武天皇を筑前国から、紀伊国、熊野国、大和国へと導きます。

 筑前国の、海人族の安曇氏が治める志賀島の、日の沈む若木の植る西方の、海の彼方に祖霊が眠ります。祖国、西方浄土があります。

 という事で続きます。



 おまけの神社。
 熊野三山のひとつ、熊野那智大社(和歌山県東牟婁郡/旧官幣中社)は、熊野本宮大社、熊野速玉大社と異なり、延喜式神名帳に載ってません。式内社でありません。
 那智大社は、もとは那智滝で読経修行(滝行)を行う修行場。修験道の、佛教(密教)の影響により現・熊野信仰の神社となります。ややこしくなりますが、那智滝を神体とする、別宮の飛瀧神社(和歌山県那智勝浦町)は原・熊野信仰の神社となります。本殿も拝殿も、社殿は建ってません。オオクニヌシ(大己貴神)を祀ってますが、本来の祭神は、熊野カルデラが創った那智滝に宿る神(精霊)。自然神。
 那智滝の祭祀場が、滝行の修行場と変わり、那智大社と変わります。
 熊野三山は、精霊崇拝の原・熊野信仰、祖霊崇拝の元・熊野信仰、そして佛教の影響による現・熊野信仰があわさった神社となります。
 さらに熊野三山は佛像の展示場と変わります。
 那智大社の祭神は、主神は夫須美大神(結大神)。一説にイザナミと同神。配神は、本宮大社の家津御子大神、速玉大社の速玉大神、飛瀧神社の大己貴神、そして国常立尊、天照大神。さらに9柱の本地仏が並べ祀られます。皇族や貴族は温泉と熊野三山をめざしてきます。まるで温泉街の秘宝館。
 さらに那智大社は観音信仰の中心となります。次回に考えまましょう。
 あと、境内摂社にヤタノカラス(賀茂建角身命)を祀る御縣彦社があります。



 那智大社の扇祭は、那智滝を模した扇神輿が、飛瀧神社御瀧本から那智大社へと那智滝の神を迎える祭。道中で松明の火で清めるため、別名は火祭と呼ばれます。水(滝)と火の祭。神輿はヤタノカラスに扮した神職に迎えられます。
 扇に日を模した赤丸(日丸)が描かれたり、渡御の前後に田植舞や田刈舞などの田楽も奉じられたり、豊穣祈願祭と思われますが、じつは違います。
 祭に隠れ、こっそりと花窟神社から那智大社へと夫須美大神(イザナミ)を迎えてます。花窟神社は、熊野信仰と深く関わります。
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