第2話 誤解は情熱の始まり?

文字数 3,685文字

01
 有川雪枝、兄の悠治に守られ、大事に育てられた天真爛漫な美少女。
 一流大学を卒業後、志望のファッションサイトで働くことになった。
 その無邪気な性格とルックスですぐ会社の人気ものになり、楽しい毎日を送っている。
 しかし、他人のいい性格とルックスをいいと思わない人も存在する。

 会社の懇親会で、雪枝は三年も付き合っていた彼氏の写真を同僚たちに見せた。
「かっこいい!」「雪枝と似合ってる」など褒め声の中で、密かに不愉快を思う人がいた。
 会社の契約モデルJellyだった。
 Jellyはもともと雪枝の人気に不満を持っていた。
 いい環境で育てられ、いい大学を卒業、おまけにかわいい、そんな子にかっこいい彼氏がいるなんて、良い男を掴めるのに苦労している彼女にとって、更に受け入れなった。
 でも、雪枝の彼氏の写真を見て、Jellyは妙なことに気づいた。
 その彼氏は、Jellyがいつも行っているホストクラブQueen's Palaceのホスト正樹と瓜二つだった。

 数日後、Jellyは雪枝をショッピングに誘った。
 忘れものを取りに来るという言い訳で、雪枝をQueen's Palaceの階段の入り口で待たせた。
 やることのない雪枝は通行人たちのファッションをチェックしていた。
 そこで、向こうのコンビニの外でコーヒーを飲んでいる大介のコーディネーションに惹かれて、思わず写真を取った。

 まもなく、Jellyは上がってきた――雪枝の彼氏正樹の腕を抱えながら。
 対面した瞬間、雪枝も正樹も驚きで言葉が出なかった。
 Jellyだけが楽しそうに「まさちゃん」のことを紹介して、一緒に正樹の客にならないかと雪枝を誘った。

 雪枝は頭が空白のままでその場を逃げ出して、兄の家に駆けつけた。

 02
「大学の図書館で知り合いになったの……仕事なんて気にしないのに、どうして、どうして3年間も嘘を……私に言ったこと、全部、全部が嘘なの……」
 泣き崩れの妹を慰めているうちに、悠治も泣きそうになった。
(俺が引きこもりで売れないクソ作を書いている間に、雪枝は彼氏ができたなんて……しかも、3年も交際してたのに、俺、全く気付いていないとはTAT)
(だから、雪枝はやすやすと騙された……すべては保護者の俺の責任だ!)
「雪枝、泣かないで!お兄ちゃんは仇を取ってやるから!」
 悠治は拳を握り締め、雪枝の剣となり、盾になることを誓った。
 でもすぐに、自分の無力さに気づいた。
(と言っても、どうやって?俺は引きこもりの廃オタク。あの男はたくましそうに見えるし、彼女に嘘をつけるのも法律違反じゃない……)
(いままでした一番自慢できる復讐は、小学生の時に俺のコミックを強奪した女をヒロインを陥れる悪役にすることくらいだ……あんな自己満足なもの、復讐とは……)
(ちょっと待って、自己満足だけじゃなかったら、行けるかもしれないない!)
 そこで、悠治は長期間を渡って、あのクズ男の人生を台無しにする復讐計画を立てた。

 03
 雪枝は「もういい、しばらく気持ちを整理したい」と諦めたようだ。
 それ以上を聞くと、雪枝がもう一度傷付けると考えて、悠治は独自に調査を始めた。

 悠治はウィッグとワンピースを身に付けて、美女に変身した。
 Queen's Palaceの周りをうろついて、大介の現れを待っていた。
 大介がビルに入ったのを見って、さっそくその後ろにつけて、10階にある大介の個人スタジオまで尾行した。

 復讐心に理性を奪われた悠治は、ホストが故企画スタジオを持っていることに疑問すらもしなかった。どうせ、脱税のためのペーパー会社だろうと思って、名札に書かれている「反町大介」という名前だけをメモした。
 大介が酔っ払い女性に纏わされ、対応に困っているところを見たが→どうせ、素性が悪いせいで悪質な客に捕まれただけだ;
 大介がアシスタントらしい人とリアル密室ゲームについて話しているところを見たが→どうせ、女をたぶらかすためのデートスポットを検討しているだろ;
 大介が地下2階に入ったこと、一度も見なかったが→どうせ、雪枝を騙した件が騒ぎになって、しばらく休暇を強制されたんだろ……

 とにかく、大介のしぐさ、好み、習慣を隅々まで観察し、彼をモデルに、あの『とある外国留学生が日本のホストクラブでの冒険談(18R、リアル経験注意)』を書いた。

 それから、いままで自分の作品にも使わなった邪道なプロモーションをかけた。
「お金なら心配ない。サクラでも入れて、人気のイメージさえ作れば、ゴミ作でも本物の読者がついてくる」
「口コミ?そんなのどうでもいい、工作だとバレてもそれで話題になるから」
「ああそうだ、イラストとコミックも注文した、素材が上がったら送る。ウェブ広告もいっぱい出してくれ」
 いろいろ不正手段を悪徳広告仲介人と話していたら、悠治は更に燃り上がった。
 あのクズ男と叩き潰せば、どんな汚い手も惜しまない!

 04
 時間を現在に戻す。
 Queen's Palaceの支配人のオフィス。
 大介とナイスバディの美女支配人は見つめ合っている。
 大介がクラブの人気ホストになったことに、二人とも困惑だった。
「ええと、小説?……日記?」
 支配人は細い眉をひそめた。
「ああ、お店の客さんたちから聞いた。何かの留学生が書いた日記か、妄想小説のようだ」
「で、その小説で出たクラブの名前はうちのと同じだから、お客さんたちはあなたをあてに来たっということ?」
「俺、その小説を知っている!」
 支配人の隣にいる正真正銘のホストは説明に入った。
「最近、お客さんたちの間で話題になったらしい。うちにその『大介』がいないか、何回も聞かれたんだ」
 ホストは不思議そうに大介をもう一度見た。
「いや、でも、本当に小説キャラとそっくりだな!」
「それが一番わからないところだ……」
 大介は頭痛を感じた。
 一体誰がこんないたずらを?
 知り合いの中でこういうことをする人がいないと思うが……
「へぇ、エイちゃんはそれを読んだの?」
 支配人は興味津々に目を瞬いた。
「一応、勉強として」
「おもしろい?」
「女性ならはまると思う!うちの悪口も一切していない」
「なるほど、リンク、送ってね」
「了解!」

「コッホン」
 大介は咳払いして、二人を呼び戻した。
「とにかく、うちは一切関与していないわ。大介さんは誰かに恨まれた覚えがないの?」
 支配人は白を切った。
「俺が、恨まれた?」
「だって、あの小説が人気になっても、うちにデメリットがないでしょ。むしろ、宣伝してくれて、大歓迎だわ。今一番困っているのは大介さんでしょ?」
「……確かに、どう見ても、俺当てのようだ」
「そうそう、いい解決方法を思いついたわ」
 支配人は人差し指を立てた。
「大介さんがうちに入ればいいのよ!そうすれば、うちだけじゃなく、大介さんも儲けるわ!」
「結構です#」
 おしゃれ女子たちに囲まれたせいで現れた蕁麻疹はまだ完全に消えていないのに……
「あら残念、気が変わったら、いつでも来てね~」
 支配人はウィンクで大介を送り出した。

 05
 大介はざらっと例の小説を読んだ。
 その自分と同じ名前と外見を持ち、世間知らずの少女にセクハラレベルのちょっかいを出す恥知らず男がムカつく。そして、なんとなくその男には良からぬ展開が待っているような悪い予感がする。
 もしそうなったら、またリアルに自分に迷惑をかけるかもしれない。
 サイトの運営に電話をしようと思ったら、今は金曜日の夜だと気づいた。
 処理は最速でも来週の月曜になる。さらに、作者に確認を取るなど段取りがあり、作者が無責任無返事な場合、もっとややこしくなる。
 自分にこんなに詳しい人なら、知り合いに間違いない。
 だったら、探し出して、直接に会った方が早い。
 そう思うと、大介はすぐアメリカ時間のハッカーの友達に電話をした。
 まもなく、IPアドレスから解析されたリアルの住所が大介の携帯に届いた。


 06
 大介の予感は正しかった。
 彼をホストだと勘違いした悠治の計画はこうだった。
 まず、大介を持ち上げる。そのおかげで、大介は新しい客をゲットし、売り上げが伸び、天に昇る気分になるだろう。
 そして、主人公の少女を落とす時点から、大介の本性をどんどん暴いていく。持ち上げられた分、落差が激しく、落ちた時の痛みが強い。
 さらに、読者に文句を言われたら、これはリアルな経験だと言い張れば、客たちの大介へのイメージも動揺する……

「そろそろ下げを始めよう」
 貯めた原稿の進捗を見て、悠治は次の段階に入ると決めた。
 大介の醜い本性が暴かれるのを想像したら、不気味な笑い声を漏らした。
「フフ、フフ、フフフフ……」

「ピンポーン」「ピンポーン」「ピンポーン」
 空気を読めないように、ドアベルが鳴った。
「誰だ?いいところなのに……」

「はい~」
 興ざめされた悠治は、不機嫌な顔で扉を開けた。
「!!」
 一瞬、夢でも見ていると思った。
 あの大介が、凍り付いた顔で目の前に立っている。
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