第11話〈彼女について私が知っている二、三の事柄〉

文字数 937文字

彼女−−つまりY−−と出会ったのは高校時代で、3年生のときにおなじクラスになったのだったけれど、その当時は親しかったというとそうでもなく、いまでは巷間に流布して知られている「スクール・カースト」があったからで、Yはトップに君臨し、ぼくは底辺だったと記憶している。
 でもYは「スクール・カースト」のことを微塵にも気にしない性質(たち)で、というよりもむしろ不幸を愛しているといった性質(たち)で、ぼくと話せば仲良くもしてくれたし、つまり、気立てがいい−−という気がする。
 何年か前に、Yに連絡を取って−−そう、LINEでだった−−恵比寿で会ったことがあった。
 恵比寿という街はお洒落過ぎてぼくはあまり行ったことはないのだけれど−−その意味では、表参道も青山も代官山もそうなのだが−−、駅に着いてYを待つかたわら、近くにある喫煙スペースでタバコをすこし(せわ)しない様子でひっきりなしに−−君ってチェーン・スモーカーだね、とYに言われたことを思い出しながら−−吸ったりもした。
 Yは果たして現れたのだけれど、きれいな黒髪−−あるいは茶髪ーーのロングヘアがトレードマークだったのに、ベリーショート並みに髪を短くして、なにかあったのだろうか、と訝しんだ。
 私も恵比寿はぜんぜん知らないし、とYは言うので、ぼくとYはすこし歩きながら夕食をとれる店を探すことにしたのだが、なかなかいい店は見つからない。結局いまとなってはなぜそんな店を選んだのかもわからない、雑居ビルの2階に店を構える、客がまったくいない居酒屋に入ることになった。
 
 Yは席に着くやいなや注文聞きの店員に、まさに駆けつけ一杯、という感じでビールを注文し、席に届けられるとすぐに飲み干し、お代わり! と勢いよく叫ぶのだった。
 これは店からの奢りです、と言ってその店員が刺し身の盛り合わせをテーブルに運んでくるのだけれど、それはYが高校時代にマドンナ的存在だったようにYが美しかったからだろうか、あるいは−−こちらのほうがありえるかもしれないのだが−−流行っていない店だったから余っていた食材を提供した、のかもしれない。
 
 何杯かお酒を胃に流しこんだあと、ねぇ、誰にも話したことはないことなんだけど、とYはおもむろに話しはじめるのだが−−。
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