第21話〈胡蝶の夢〉

文字数 595文字

 あるいはぼくが

はあるというのでもいうのだろうか−−。
『荘子』が描いている有名な挿話にあるとおり、この世は(はかな)い夢であるかも知れないのだし、実際そのとおりなのだ。

 この世が夢であったならば−−、と《あなた》と益もないことを話しあったりしていると、やはり(まぶた)は重くなり、夢のなかへと落下し、そして落下しつづけるのだけれど、《あなた》はそのときも側にいてくれていたのだろうか、あるいはそうだったのかもしれないが、《あなた》は

(うそぶ)いてパソコンと睨めっこをしてるから−−。

 だいたい1時間半前後で目を覚ますのが常で、というのもやはりレム睡眠とノンレム睡眠があるからで、鈍くなった頭を働かせながら寝言−−起きているから、起言とでも言うのだろうか−−を言うと、《あなた》は大きな声を出して笑う。
 いったいぼくはなんと言っただろうか。「素人はあっちに行ってな」とでも言っただろうか。ぼく自身が素人であるのに、どんな意味があったのだろうか。〈夢は無意識への王道〉なんて言うけれど。

 ぼくは小説を書き、《あなた》は論文を書く。
《あなた》に対して、昔ある有名な教授が〈論文の読者は1.5人だ。そのうちの1人は自分自身だけれど〉といったようなことを書いていた、とぼくが話すともなく話すと、《あなた》は「まぁ、そのとおりだろうね」と言う。

 そのようにして、静謐な午後は過ぎていくのだけれど−−。
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