第1章

文字数 1,396文字

 真夜中の住宅街。
 高校生の藤村結衣は自分の部屋で静かに寝ている。
 暗闇に包まれたその部屋に突然、着信音が響き渡る。

「ん、んんん……」

 結衣はゆっくりと目を開け、近くにあるスタンドライトに手を伸ばす。
 明かりを点けた瞬間、小さな明かりが結衣の周辺を照らし出す。
 白い壁には制服と時計が掛けられている。

(何なの……)

 目を擦りながら身体を起こすとスタンドライトの下に置いてあるスマートフォンを手に取る。
 画面にはLINE通話の通話画面が表示されている。

「うん?」

 結衣は眉間に皺を寄せながら画面を見つめる。
 黒色で塗りつぶされたアイコンに記号や数字で作られた名前。
 一目見ただけで異様な雰囲気を醸し出すアカウントだった。

「何、これ…… いたずら?」

 時計を見ると十二時を指している。

(いたずらだよね……)

 素早く電話を切ると静けさが辺りを包み込む。

「早く、寝ないと……」

 スマートフォンを元の場所に戻そうとした瞬間、再び着信音が鳴り始める。

「え?」

 例の画面が表示され、結衣は気味悪そうに見つめる。

「何なのよ……」

 通話ボタンを押し、スマートフォンを耳の方に近付ける。

「もしもし?」

 恐る恐る話し掛けるが反応は無い。

「もしもし? どなたですか?」

 何度も呼び掛けるが画面からは音一つしない。

「いたずらはやめてください。切りますよ」

 通話ボタンを強く押し、スマートフォンを元に戻す。

(全く、何なの……)

 スマートフォンを睨み付けながらスタンドライトを消した結衣はすぐに深い眠りに付いた。


 雀の鳴き声が響き渡る朝。
 制服姿の結衣は自分の部屋で学校に行く準備をしていた。
 艶のある黒色のショートカットには寝癖一つ無い。

「これで良しっと」

 学生鞄を持った結衣は足早に自分の部屋を出ると階段を使って一階へと降りて行く。
 廊下の奥にあるリビングに入ると母親の藤村静香がキッチンで皿を洗っている。
 青色のエプロンに身を包み、長い黒髪は後ろで結んでいる。
 目の前のテーブルには紫色のバンダナで包まれたお弁当が置かれている。

「じゃあ、お母さん。行ってくるね」

 お弁当を学生鞄に入れた結衣はリビングの方に体を向ける。

「行ってらっしゃい。ゴミ捨て、お願いね」

 静香は笑顔で結衣に声を掛ける。

「分かった」

 結衣はそう言ってリビングを出ると急ぎ足で廊下を歩く。
 廊下を抜けると塵一つ無い玄関が姿を現す。
 玄関の隅に燃えるゴミの袋が一つ置いてある。

「行ってきます!」

 靴を履いた結衣はゴミ袋を持つと玄関の扉を開け、朝日に包まれた外の世界へ飛び出して行った。


 公園に辿り着いた結衣は入口の横にあるゴミ捨て場へと足を進める。
 鉄製の扉を開け、ゴミ袋を中に入れると素早く扉を閉める。
 そのまま立ち去ろうと歩を進めた瞬間だった。

キィィィ…… キィィィ……

 公園の中から金属音が響き渡る。

(何、この音……)

 結衣は入口から中を見渡す。
 公園の中にはジャングルジムなどの遊具が様々な所に置かれている。

キィィィ…… キィィィ……

 再び金属音が響き渡る。
 結衣は音の方に顔を向ける。
 そこには誰も乗っていない二つのブランコが置かれていた。

キィィィ…… キィィィ……

 片方のブランコがまるで誰かが乗っているように揺れている。

(風だよね……)

 結衣は足早に公園から去って行った。
 それと同時にブランコの揺れが徐々に小さくなり、やがて止まった。
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