あきらめるな!

文字数 1,248文字

「キシキシいってるけど、アメミヤ、それ何食べてんの?」
「え、高野豆腐の煮物」
 じっとアメミヤの口元を見つめていると、それがどうかしましたか、みたいな顔をされた。
「いや、絶対そんなフワフワなもの噛んだ音じゃないし。大体、それってホントに高野豆腐?」
 アメミヤの箸が摘まんでいるのは、どう見ても薄茶色のサイコロだ。
「煮汁を究極絞ると、こうなるんだよ」
「なんで絞る必要がっ?!」
 キムラがアメミヤの肩をパシッと叩いた。
「煮汁のシミてない高野豆腐って、存在意義ある?」
「そうしないと、汁漏れするじゃん」
「じゃあ、高野豆腐なんて入れなきゃいいじゃん」
「入れたかったんでしょ、バランス的に」
「歯の浮くような食感の高野豆腐が、バランス語るな」
「歯がめり込むようなモチ食べてる人に、言われたくありません~」
「好物ですー。てかカンダ、モリモリ食べてるね、オールブラックス」
「なにそれ強そう。オールグリーンよかマシかな。ピーマン好きじゃないし」
「赤紙弁当もすごかったよね」
「ケチャップご飯に、オンリー赤パプリカのヤツ?徴兵されちゃってるじゃん」
「過酷な状況なのは一緒でしょ」
「アメミヤの弁当はいいよね、おかずも種類多くて」
「食べてみる?」
 みじん切りしたニンジンを練り込んだつくねを二個差し出して、アメミヤはニヒルに笑う。
「ゴチ。……んん?これって何味?」
無味(むみ)
「タレなしで下味もなし?……吐き出していい?」
「キムラってばお行儀悪すぎ、環境に悪すぎ。地球に謝れ。塩分控えめ、体にはいいんだってさ」
「控えてないない、味なんて存在してない」
「”砂を噛むような”をリアルで体験したわ。もしかして、アメミヤの弁当って、いつもこんな感じなの?」
「ここまで無味はそうそうないけど、基本うっすい」
「美味しい?」
「美味しくはないけど、正しいんでしょ。カンダの弁当だって、お母さん的には正義なんだと思うよ」
「その正義には抗議したい」
「味はともかく、ネタとしてはオイシイよね。SNSに上げてみる?バズってんのあったじゃん」
「あれは愛情弁当だもん、制裁的なものじゃなくて。……せめて、自分で作れればなあ」
「朝の忙しいときにジャマ、とか言われそうじゃない?」
「もう、言われた」
「一応、抵抗はしたんだ」
 無駄な抵抗をな、と聞こえたのは気のせいだろうか。
 ……味方じゃないのか、アメミヤよ!
「アイジョーには違いないって」
 ニチニチとノリ餅を食べているキムラが、にやっと笑った。
「そのアイジョーを漢字で表すと?」

一択で」
「……ああ、無情」
「革命でも起こす?」
 アメミヤが歌う「民衆の歌」をBGMに、今日もアイジョウでお腹がいっぱいだ。
「戦ってみるか」
「連敗中じゃん」
 顔を見合わせて笑うしかないが、単色弁当は、もう嫌なのだ!
 弁当の夜明けをこの手に!
「ねえ、連合組んで戦わない?」
 ずいと体を前のめりにさせれば、怪訝な顔をする友だちふたりが、顔を見合わせている。
「「どうやって?」」
 このふたりは、自分たちが何部なのかをお忘れのようだ。 
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