笑うな!

文字数 885文字

「ひーっいっひっひっ!」
 弁当箱のフタを開けた瞬間に、キムラが腹を抱えてのけぞった。
「笑いすぎ」
「だって、ダークサイド弁当とか!こないだのオールグリーンよりインパクト大!」
「あれだって、充分闇落ちしてたじゃん」
 ドカ弁の7割を占めているのは、ノリが敷き詰められたごはんの部。残りは具の一切ないひじきの煮物。
 ここ重要。テストに出ます。
 


「ふたりみっけって、なにその弁当っ!」
 もうひとりの部員であるアメミヤが、部室に入るなり目をむいた。
「青のりご飯に、オンリーピーマンのときより衝撃的っ」
「オールグリーンね」
 キムラはそのネーミングが気に入ってるようだ。
 オールグリーン。なんの皮肉か。
 まったく良好じゃないよ。問題ありあり。
「カンダのお母さんって、ユニークだよねー」
 ニヤニヤしているキムラの前には、女子高生らしい、可愛らしいサイズの弁当箱が置かれていた。
「何やらかして、海藻弁当になったの?」
「さあね。地雷の位置が毎回違うから、わっかりません」
 投げやりな気分で箸をつけると、ご丁寧にもご飯は二重構造となっている。いわゆる「海苔だんだん」というやつだ。
 ご存じですか?「海苔だんだん」。
 ご飯敷いて、おかかにお醤油、海苔乗せて。ご飯敷いて、……以下繰り返し。
 だから、掘っても掘っても、出てくるのは暗黒面。
「どこも一緒だあ。PKOに地雷除去を依頼しようかねって、ちょっと待って」
 アメミヤがキムラの手元を凝視している。
「それって、モチ?」
「モチロン」
 しれっとうなずくキムラの弁当箱には、焼いてから時間がたっていることがありありとわかる、しなっとしたノリに包まれた餅が横たわっていた。
「焼いたのって朝でしょ?硬くなってない?」
「硬いって、ほどでも、ないかな」 
 明らかに柔らかくはないだろうという歯ごたえを感じさせるかぶりつき方で、キムラは餅を食いちぎった。
「キムラのお母さんもやるなぁ」
 そういうアメミヤの弁当は多彩なおかずに、フリカケご飯も適正量。
 だが、一見ごく普通の弁当を食べ始めたアメミヤの口元から、食事中にあるまじき音が聞こえてきた。
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