ド
文字数 11,058文字
たった一頭、砂の
その首に看板の大鍵を
男は街から街へと砂漠を旅する流しの鍵屋でした。
貝笛を吹き吹き通りを行けば、人々はこわれた
ところがこの日、街から街へのいつもの
目印となる泉があるべき場所に見当たらないのです。
夜ならば星を手がかりに見当をつけることもできたことでしょう。
けれどそこは真昼の、行けども行けども一向に変らぬ砂ばかりの
そのうえ泉はラクダを休ませ、水の補給ができる貴重な休息地点でもありました。それが見当たらないのですから、鍵屋の
やがて、飲み水が底をつきました。
それでも炎天は
そうしてこのようにただラクダの歩むがまま、その背にゆられて行くばかりとなってしまったのです。
聞こえるのは、
それと、けだるく砂を踏みつづけるラクダの単調な足音のみ。
それは止まりかけの振り子のようにゆっくりと、
そうゆっくりと……。
どれくらいの時が経ったことでしょう。
鍵屋が意識を取り戻したのは見慣れぬ
鍵屋とラクダはその熱気にのまれ、
―いったい、ここは何という街なのだろう……。
旅なれたこの鍵屋でさえ、砂漠のなかにこれほどまでに栄えた街をいまだかつて見たことも、聞いたこともありません。
なにより驚かされるのはその街路樹の豊かさ。
ひと抱えも、ふた抱えもありそうな
空は―、
見下ろせば、いたずら好きそうな地元の子らが、何ごとか
やがて、通りが尽きて広場へ出ます。
おそらくはそこが街の中心地。
幾本もの通りが、ここを起点として放射状に延びています。
中央にはぽつん、と
まるでそこだけ取り残されたようにみすぼらしく。行き
使われなくなってよほど
しかし砂漠を丸一日
その視界に井戸を認めるや瞳がカッと開かれました。同時に声にならない
わが身がラクダの上にあることすら忘れていたのでしょう。
けれど痛みなど感じません。
いいえ、痛がってなどいられましょうか。転がるように地を
そのとき、
「……八十五……八十六……、ああ、ひとつ足りない。やはり井戸へ落としてしまった……」
鍵屋の耳は、しわがれた老女のそんな
しかし、もはや井戸のほかの何ものも目には入らない彼のこと。そんな声に気を留めるゆとりなどあろうはずもなく。
投げ込んだ
「おい」
鍵屋は
「よお、聞こえねえのか?」
砂のように乾いた身体が、水を吸って生き
意識が鮮明になり、五感が澄みわたってゆくようです。
鍵屋はようやく実感したのです。
たすかった、と。
そして、そのときになってようやく気づいたのです。
地に伏せてうずくまり、そのため顔は見えませんが、ベールからこぼれた長い
ふるえているのです。
「おい、男」
と
先程から呼んでいたのは、
実は鍵屋がたどり着くほんの少し前から、老女は井戸の底を
それが
それゆえ気を留める者もなく。いったい何のために、いつごろから彼女がそうしていたのかもわかりません。
そして、そこへ現れたのが隻眼の二人組だったのです。
頭に巻いた眼帯は、
旅人を
それを見て震えあがらぬ者など、この砂漠にはおりますまい。
彼らから世界の奥行きを奪ったのは、この砂漠に生息する蝶でした。
砂の中に産卵し、いつ来るとも知れない通り雨のような雨期を
ところがごく
産卵は文字通り、
植えつけらた数十の卵は眼球の水分を吸って
この間、真昼の砂漠にまいた
この蝶は不思議なことにひとつの個体から両眼を奪うことはありませんでした。それは動物を宿主と認識しているからだとする説があります。
そして砂漠に暮らす隻眼のほとんどが、この蝶の犠牲者なのでした。
彼らはそれが故に
ともかくもその一味と
この
それもそのはずで、彼らもまた鍵屋同様に道に迷い、先刻流れついたばかりなのです。
彼らにとってもこの街はまさしく地獄に
さっそく浅黄色の眼帯をこれ見よがしに頭に結び、これから一杯ひっかけようと繰り出したところ。広場にさしかかって片割れが足をとめたのです。
その視線の先には、井戸を覗き込んでいる例の老女の姿が―。
長い
となれば、今はまだ
歩み寄るや、刀を突きつけて老女を
しかし、おびえあがった彼女は振り返ることすらできません。
そんな
鍵屋は井戸へと
むろん故意にではありません。
しかし隻眼の二人にしてみれば、おもしろくない。
「おい、……男」
となる訳です。
声を振り返り、その眼帯を見るや、さすがに鍵屋も事態をのみこみました。
こうなれば一切の言い逃れは命取りになるばかり。
そこはさすがに世馴れたもの。賊を相手に
思うや、
「どうかこの指輪でおゆるしを」
その言葉尻をひったくったのは風。
風はブンっと唸って鼻先をかすめ、空へ。それを追って長い棒きれのようなものがくるくると舞い上がり、鍵屋のうしろに群がった野次馬のなかに落ちてゆきました。
人々がわっと
棒きれは鍵屋の左腕だったのです。
賊の長刀は、指輪を腕ごとはね上げていました。
いそいそと腕をひろいに走るその片割れ。
鍵屋は、不意に軽くなった左の肩を
長刀をふるった方の男が、濡れた刃先を
老女がいません。
さてはこのどさくさに逃げたのか。
二人組は、とんだ邪魔のせいでせっかくの獲物を逃してしまいました。
とはいえ、
「じゃあ、遠慮なくもらっとくぜ」
そう吐き捨てると、二人は指輪を腕ごと持ち去りました。
広場の中央―。
無い腕を抱いて、鍵屋が
関わり合いは御免とばかりに、道行く人はみな
服のなかから転げ落ちた鍵屋の財布と貝笛を、誰かがひろって逃げてゆきました。
次第に、鍵屋は
遂には仰向けに転がり、暮れてゆく夕空の星々を眺めるだけとなってしまいます。
いったい、ここは
いまだかつて見たことの無い星のならびです。
広場に
見知らぬ土地で誰にも看取られず、ひっそりと死んでゆく……。
名もなき
思わずその右手でおのれの胸ぐらを
そこに首から提げたお守りがありました。
小さな木札に
鍵屋のひとり娘の手によるものです。
まだ字も書けず、工作ひとつできないような
鍵屋は道中この疵を
そして、この瞬間もそうして家族を想い、最期のときを迎えようとしていたのでした。
ところがそんな鍵屋の回想を
「おぉーい……、おぉーい……」
悲痛な声が聞こえます。
「おぉーい……」
声はすぐそばの井戸から、地底へと投げかけられています。
先ほどの老女の声でした。
身を乗り出して井戸の底を覗き込み、しわがれた喉を涙にふるわせて精一杯に叫んでいるのです。
―さっきの婆さんだな。いったい井戸の底に何が落ちているっていうんだい?
声は井戸の底深くで
―わかってるよ、婆さん。
「おぉーい……、おぉーい……、おぉーい……」
鍵屋は目を閉じて、声に耳を傾けます。
咆哮はさらに反響を深めていき、
次第に男なのか女なのか、
年寄りなのか赤子なのか、
はたまた人なのか
あるいはそれらが
今度は一転し、
潮が引くように揺りかえし揺りかえし遠のいて、
ついにはたったひとりの少女のかぼそい泣き声となり、
さびしくふつりとやみました。
―。
ただひとり、鍵屋は
不意に、何かが頬をくすぐります。
どうやらねずみのようです。鼻のひげをひくひくさせて、鍵屋を
まもなくそいつは、尻尾に結んだ鈴をりりりと鳴らして鍵屋の胸へ登ってきました。それを追って懸命に動かした鍵屋の目にもその姿が映ります。
なんと愛らしい子ねずみでしょう。
まっ白です。
さては鍵屋を看取るつもりなのか、見張り番よろしく
―おや?
今度は遠くで何やら音がします。
静まり返った街のどこかでじゃらじゃらと鳴り響いています。
鍵屋の彼には、すぐにその正体がわかりました。
近づいて来ます。
意識も
月を隠したそのシルエットが鍵屋を見下ろしています。
鍵束の持ち主は、この影の人でした。
腰に
折り良く月明かりが青く満ちて、その顔を照らします。
若い女―。
上唇の左上から
その見ず知らずの美しい
「では、わたしはもう」
ところが彼女は鍵屋の唇を軽くつまんで閉じ合わせると、続く「死ぬのですね」を
そうして娘は光り輝き、母のようなこの上も無い優しさで鍵屋を抱きすくめたのでした。
―今、まさに召されるのだ。
光と
鍵屋が意識を取り戻すのは、その三日後のこと。
けれどその間のことは夢うつつながらも、断片的におぼえています。
まず、医師らしきごま塩髭の男に傷口を洗われたこと。
例の顔に傷もつ娘が激痛にもだえる自分をベッドへ押さえ付けていたこと。
部屋の様子からそこがその娘のものだとわかりました。
次に、医師の話し声。
おそらくは投薬の指示を彼女にしていたのでしょう。
そして、手当てを終えた医師が表へと出たそのとき、扉から差し込んだ朝の光。
時間をかけて少しずつ口に流し込まれた薬のにがみ。
部屋の隅でひとり食事をとる彼女のその
驚くべきことに、顔に傷もつこの娘は丸三日のあいだ、激痛と悪夢にうなされる鍵屋をつきっきりで看病していたのです。たまたま街へ迷い込んだにすぎない、どこの者ともしれぬ旅人を。
そして三日目の朝、鍵屋はようやっと目を覚まします。
最初に何をしたか。
鍵屋はまず天井を見つめたまま左腕を持ちあげてみたのでした。
どうか夢であってくれと願って。
しかし、あげたはずの腕の重みが肩の先にありません。
わかりきっていることでした。
なので落胆よりはむしろ、失って当然の命をわずか腕一本との引き換えで取り戻せたことに感謝することにしたのです。
もちろん、寝ずの看病をしてくれた娘にも厚く礼をのべました。
彼女は口がきけません。
なるほど、夢うつつで聞いていた声はすべて医師のものでした。
それでも耳は聞こえます。
顔の傷は、鍵屋と同じように隻眼の賊にやられたのだと身振りで教えてくれました。
彼女に身内はありません。
ここにたったひとりで住んでいるのだそうです。
その事情も懸命に教えてくれようとはするのですが、残念なことに読み書きもできないらしく、どうにも要領を得ませんでした。
家族もまた賊の
もし、そんな惨状を
ともかく、通りすがりの
それから鍵屋は娘に名をたずねました。
すると、彼女はあれこれと|身振り手振りをしたのちに、まっすぐに天を指差します。
鍵屋がそれを真似て、
「空?」
そう
鍵屋は確かめるべくもう一度、
「そら?」
笑いをこらえて、うんうん、それでいいとうなずく娘。
そこはやはり若い娘です。他愛も無いことなのでしょうが、いったい何がそんなに
それが、彼女が見せた最初の笑顔。
「ソラ」
鍵屋は、この身寄りのない娘をそう呼ぶことにしました。
当面は安静が必要でした。
もっとも、そうでなくとも鍵屋はソラの
一方のソラはというと。
彼女はお城での皿洗いで生計をたてていましたが、さらに朝の
そこでは、積みおろしの際にこぼれ落ちる果物などの荷を、路上で生活をする貧しい子供たちや野良犬から守る番をしています。こんな雑用でも無理をして頼みこみ、やっと手に入れた仕事でした。
顔に傷をもち声もないソラに、おなじ年頃の娘たちのような売り子は
自然、仕事が限られました。
お城のほうは夜遅くまで。
市場のほうはまだ日も
したがって寝不足になり、ただでさえ器用とはいえない彼女ですからうつらうつらしては高価なお皿を割ってしまいます。市場では野良犬にいいように遊ばれてしまいます。
無論その分はソラの給金から天引きにされますが、それでも
ソラは働きます。
その労苦を鍵屋のまえでこぼすこともせずに。
疲れた顔ひとつ見せることもなく。
では、そんなソラの献身を鍵屋は知らなかったのかといいますと。いいえ、やはりそこはひとつ屋根の下。寝食を共にしておりますから、感づかない方が不思議でしょう。
そもそものところ鍵屋は、あの手術にかかった費用や薬代がどうなったのかを知りません。
といって、見返りも無く、進んでよそ者の命を救うようなもの好きが、この砂漠にそう何人もいるとも思えませんでした。
一旦それを知らないとわかると無性に気にかかるもので、ましてやそれらは
確かなのはただひとつ。
―ソラの厄介になっている。
事実はソラに確かめるべきでした。
けれど世話になっている手前、気おくれがして、いつも訊きそびれてしまうのでした。
仮にそれを確かめたところで、
すでに財布も翡翠の指輪もありません。
ラクダも盗まれています。
商売用の工具箱と下取りした大量のこわれた錠、そして看板の大鍵だけは、街外れに捨てられてあったのをソラが見つけてきてくれました。
が片腕となったいま、回復したところで職人として生活できる見込みはありません。
もはやここを出て
鍵屋は
何とかしなくてはという想いに押しつぶされるようにして、日々を
そんなある日、鍵屋は不思議なことに気が付きます。
出会ってからというもの、ソラがずっとおなじ服を着つづけていることに。
胸にいつも大きな黒いシミをつけていました。
貧しくとも決して不潔にはしないソラのこと。あえて着替えないでいる理由がきっとあるはず。
まもなく鍵屋はそのシミが手術の際に付いた己の血のあとだと知るのです。
それにしてもソラはどうしてその汚れた服を替えないのでしょう。
ただでさえソラの親切は日々鍵屋の肩へとめどもなく積み重なってゆきます。ゆえに来る日も来る日も胸の奥でソラに
その理由を鍵屋は、
―たすけた恩をこれ見よがしに売りつけている。
そう受け取ってしまったのです。
次第に鍵屋はソラの服のシミを、
いいえソラ自身を、
できるだけ顔をあわせないようにと、朝はソラが出かけるまで熟睡の
夜もソラの帰りを待たずにベッドへもぐってしまい、たまに顔をあわせても、いまいましく服のシミを
命の恩人であるはずのソラは、今やもっともあさましく
そんな風ですから、ソラへ向けることのできない
子ねずみこそとんだ災難でしょう。
尻尾の鈴をりり、とでも鳴らせば
しかし当のソラは恩の押し売りどころではなかったはず。
子供のように
だいいち片腕をうしなった無一文の職人に、いったいどんな見返りを期待できるというのでしょう。
恩を押し売ったところで何も望めないことぐらい、わかりきったことではありませんか。
ソラが着替えないのには、ほかの事情がありました。
鍵屋の体力がほぼ回復したころのこと 。
いつものように日がな一日ごろごろしていると、医師が訪ねてきました。傷口を縫い合わせてくれたあのごま塩髭の医師です。
鍵屋はてっきり医師が見舞いに来てくれたものと思って部屋へ迎え入れたのですが、髭を掻き掻き言うことには、
「今週の払いがおくれてるんだが」
寝耳に水でした。
借金までしてソラが自分を助けてくれていたなんて。
医師はソラの帰りを待てず、かわりになにか
むろん鍵屋はそれを止めようとはしたのです。
が、乱暴に開け放たれた
ありませんでした。
服が。
洗濯された替えの包帯が、隅っこのほうに行儀よく重ねられてあるだけでした。
医師は腹立ちまぎれに鼻で
「そうだった。全部これにしちまってたんだ、あのガキ!」
―?
「お前さんのその腕の手当てのときだよ。あのガキ、こん中にあったのをぜーんぶ破いちまいやがった。なにしろシーツも床も俺の服もみーんな血まみれで、布という布は使い切っちまったからな。そうやって機転をきかせて包帯を間に合わせたのはいい。けど、まさかそれがなけなしの
立ちつくす鍵屋の視線の先には、散乱した包帯があります。
「すっかり終わっちまってから金がねえったってよお、はいそうですかって今縫った糸を抜くわけにもいかねえだろ。消毒の酒だって、使っちまったあとだぜ」
その
「お城の皿洗いなんかでちまちま返されるなんざ、わりに合わねえんだよ。お前さん、ホントに何も持ってねえのか?」
そのシミのなかに愛らしい
「なら、働け」
どの
「働いて返せ」
そこで
「働けねえならせめて乞食でもしてこいっ。この
年頃の娘が自分の服を切り刻む思いとは、いったいどんなものなのか。
医師がさんざ悪態をついて帰ったあとも、鍵屋はそこに突っ立ったまま、じっと包帯を見ていました。
しかし、おもむろに傷口の包帯を
包帯の交換はいつもソラにまかせっきりでした。
それも鍵屋の寝ている
とどのつまり、残された服は大きな血のシミが付いたあの一着きりだったのです。洗おうにも鍵屋とひとつ屋根の下ですから、脱ぐのをためらったのでしょう。
―ソラ。
鍵屋は部屋を飛び出します。
居てもたっても居られず、とっさに駆け出したのです。
けれど鍵屋はこの街を知りません。
思えば部屋から一歩も出たことがなく、つまりは街並みも、行き交う《かう》人々もひとつとして見覚えがないということで、文字通り右も左もわからない。
何よりまずソラの居場所を知りません。
今更ながらそれに気がついて、動けなくなります。
同時になぜだかソラはもう帰ってこないような気がしました。
すべてを失い、身寄りひとつないこの街です。鍵屋は失うものはもはや何もないと高をくくってもいたのですが、そうと思うやじっとしてはいられない。すがるように手当たり次第に、通行人にソラの所在を尋ねます。
しかし誰一人として相手になってくれません。
鍵屋は途方にくれました。
ソラに会って俺はどうしたいのだ。
しかし、たとえそうできたとして、何になる。
いますべきことは自身が
―ソラのために。
そう、今の彼にもきっと何かができる。
そして、
でもいったい何ができるというのでしょう。
少なくとも、血で
鍵屋もそれはわかっています。
わかってはいるのですが、気ばかりが焦って何ひとつ思い浮かばず、ただ時だけがいたずらに過ぎていくように感じます。
そうしてふと、
―そうだ、お城。こうしている今このときも、たしかソラはお城の
医師の言葉に思い当たりました。
ならばなおさら会いに行くよりも……。
鍵屋は部屋へとってかえして床の包帯をかたづけ、掃除を始めました。
我ながらなんと
理屈も何もありません。
何かをせずにはいられなかったのです。
そうしながら
自分にできる何か。
それを探しました。
自分にできる何か。
自分にできる何か。
自分にできる何か。
もとより
慣れない片腕でも、あっという間にかたづいてしまいます。
自分にできる何か。
俺にはいったい何ができる?
はやる心にせっつかれて、|呟きつつうろうろと。
やがて、そんな彼を立ち止まらせたのは、部屋の隅に捨ておかれた例の看板の大鍵でした。
ラクダの首に提げ、街から街へと旅を共にしてきたかつての鍵屋の象徴―。
それはまるで不意に鉢合わせたもうひとりの自分の姿のようでもありました。
手に取り、
「自分にできること」
ソラの帰宅まで、まだ時間があります。
鍵屋は意を決し、