二人ぼっち

文字数 1,074文字

ぽちゃん、と音がして、目を開けたら、そこはもう夢の中。

「ふふ、また来てくれたんだね。嬉しい」
「当たり前じゃん」
ここは、二人の、ふたりだけの空間だ。
私と彼女以外何もいない。人間どころか動物も植物さえも。
「今日は何をしようかしら?」
「今日は久しぶりにお話しよう? 最近人肌が恋しくて…」
「もちろん! 二人でくっついて、二人だけのお話! とっても素敵よね!」
彼女はそういって屈託のない笑顔をこちらに見せてくれた。
彼女はとても美しいんだ。もちろん容姿は言うまでもなく完璧だ、でもそれ以上に心が綺麗なんだ。
彼女の中には汚れなんて一つもなくて、まだ何にも染まっていない純白の彼女。そんな彼女が私に笑いかけている、その事実だけで私の心は洗われるんだ。
「ねえ、なんのお話をする? 私、あなたとのお話ならなんでも好きよ!
「そうだなぁ。あ、じゃあこの前あった…」
二人で他愛もない話をする。中身のない、本当にくだらない話。でも、私にとってこの時間は何よりも大切で私の心の支えなんだ。
二人でしばらく話した後、しばらくの沈黙が訪れた。いつも、必ずこの時間が訪れる。二人の二人だけの心が通じ合うような時間。
そこには言葉なんてなくて、言葉なんて必要はなくて、何を言わずとも私と彼女は自然とこの時間を共有するんだ。
そんな時間にピリオドを打ったのは彼女の方だった。
「ねえ、ふたりぼっちだね」
彼女はおもむろにそう言った。穏やかで、何かを確かめるようなそんな声色。例えるなら、目の前にある箱に宝物があるかどうかをゆっくりと確かめるかのような、そんな緊張と不安と期待を持った声色。
「それって普通、ふたりきりって言わない?」
私がそんなことを言えば、彼女は薄く笑った。
「だってここには私とあなたしかいないでしょ? だからふたりぼっち。私は前までひとりぼっちだったのよ」
彼女は今度は悲しそうに微笑む。
でも、それは私も同じなんだよ。
なんて思ったけど、それよりも今の彼女を見ていられなくて、彼女のそんな顔を見たくなくて、私は彼女の頬に触れようとする。
だけど、その手が彼女に触れることはなかった。
ああ、彼女に触れることが出来なくなってしまった。
「もう、時間みたい。…ねえまた来てくれる? 明日も来てくれる?」
「もちろん、会いにいくよ。だって私達は」

ひとりぼっちの人間達だから。
その言葉を言い切る前に彼女とのつながりが電話のようにプツンと切れた。
また朝が来てしまった、一人ぼっちの朝が、彼女のいない朝が。
彼女はここにはいない。
だから、私はまた夜、夢を見る。彼女に会いに。彼女とふたりぼっちになるために。
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