星が溢れる

文字数 984文字

死んだ人はどこへ行くのだろうか。あの世と呼ばれるもう一つの世界か? それとも天国、はたまた地獄だろうか。
そもそも死んだ人間の行き場所など本当にあるのだろうか。

ある日の夜の星が異様に綺麗だったと言われている。
この島国に甚大なる被害を与えた大震災が起こった日の夜のことだ。その大災害で多くの人が亡くなった。泣く余裕もないほどにひどい惨劇だった。
数え切れないほどの人が波に飲まれ、瓦礫の下に眠った。そんな日の夜、人々は誰の真似をするわけでもなく夜空を見上げた。
人はいつも何かにつけて天を仰ぐ。流れる涙を溢さないためか、何処かにいる神に祈りを捧げるためか。
それはその日も例外ではなかった。皆が皆、あの日の同じ空を眺めていた。
そこにあるのは、語ることのできないような美しい情景。我々の言葉では到底表すことのできない景色だった。
皆が言葉を失い、ただその空を見上げていた。
この世のすべての寒色を集めてきたかのように複雑に、だが芸術的とも言えるほどに綺麗な空と、数え切れない程の星々が眩く煌めきながらも優しく、そして強やかに私たちを照らしていた。
その星々の輝きはまるで一つ一つが主役のように強く強く輝いていた。
それはまるで星々が『私はここにいるよ。ここにいるのよ、私を見つけて』と誰かに訴えかけているように見えた。
いなくなってしまった私達それぞれの愛する人が、そこにいる気がした。
そんな星々を見て、ある人が言った。
「死んだ人は星になって我々を見守っている」と。
それを心に抱いてからようやく、人々は涙を流したのだ。

今、思い返せばそんなものは残された者が自分を慰めるための暗示であり、そこに根拠も確証もないとわかる。
だが、当時の私にはやけに納得できるものだったのだ。
先の災害で亡くなった彼らは星となり見守ってくれている、確かにその時はそう思っていたのだ。

もう、あの災害から長い時が過ぎた。もうあの時のように輝く星たちは私には見えない。
それでも私は空を見上げる。涙を落とさないためでも、神に祈りを捧げるわけでもない。
それでも私は、空を見上げるのだ。
私は今でも信じてしまっているのだ。
まだ、太陽が眠りについているその時に、彼らが私を見てくれていることを。
私の愛してやまない彼女が、あの輝く一番星であることを。
あの日の眩く煌めいていた星々がまだ存在することを。 
永遠に、消えることがないことを。

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