三匹のサムライ

文字数 18,095文字

三匹のサムライ

「モリ、俺、思うんだけど、小さい頃、バトルフィーバーJってあったじゃない?覚えてる?」
 「覚えているよ。スーパー戦隊ものの第三弾だったよね?ゴレンジャー、ジャッカー電撃隊ときてバトルフィーバーJ。七十年代最後の作品だね。その次のデンジマンから「電子戦隊」なんて、もろ八十年代調になったからね。ちょうど新旧の分かれ目みたいなところだよ。ガンダムだって七十年代最後だけど内容が新時代だったから、七十八年のリアルタイムでは人気が無くて、八十年に入ってから時代が変わって受け入れられた感じがあるよね。」
 「まあ、そんなに詳しい解説はいらないんだけど、ただ、俺らがちょうど幼稚園の年長さんで、一番そういうのに興味を持つときじゃない?だから印象深いんだけど、でね、思うんだけど、あれってさあ、秘密結社とか侵略者がいて日本が侵略の危機に瀕しているっていうのを子供の頃から教える番組に違いないって思っているんだけど。どっかの侵略者が日本を狙って、日常に潜んでいて、突如出てくる。今はスーパー戦隊が守っているけど、そのうち、君たちが日本を守ることになるんだっていう子供向けの啓蒙番組だったんだじゃねーのかな。この考え、どう思う?」
 「どう思うって、スーパー戦隊シリーズの作者の八手三郎に聞くしかないなあ。まあ、この人は実在しないみたいで、シナリオは数人で書かれて、しかも、特定できないようになっている。だから、聞くことは出来ないね。それよりか、ゴレンジャーとジャッカーまで書いたり、仮面ライダーシリーズで一人で秘密結社と戦うっていうもう一つの機軸を書いた石ノ森章太郎に聞いたほうがいいかもね。あっ、石ノ森先生は亡くなっているからもう聞けないけど。」
 「モリ、無駄に知識豊富だな。でもな、思うんだけど、知識だけだと結論が出ないだろ?」
 「知らないより、知っているほうがいいよ。間違がえる可能性が低くなるからね。ところで、バトルフィーバーJの敵は秘密結社エゴス。母体はエゴス教って宗教なんだ。バトルフィーバーJでは宗教による侵略をテーマにしたみたいだ。一番知識を吸収する幼児期にカルト宗教が暴走し、心身ともに侵略するって教えていたと思うと、すごいよね。」
 「当時の子供たちにオウメ真理とか創家学館なんかのカルトが大暴れするだろうって、そのとき君ならどうするって、前もって教えていたことになるな。そりゃすごいな。」
 高校からの付き合いであるヒロとモリの会話を聞いていた。もう二十年の付き合いになるが、大学も違ったし、就職してからはお互い仕事が忙しく、集まるのは各々の結婚式に出席するぐらいで、ほとんど会うことはなかった。たまに会っても、近況はそれぞれで、お互い知るところもなく、昔話に花が咲く程度だったが、ここ最近になって、ヒロが俺に送ったメールがきっかけでお互い、連絡を取るようになった。内容はあるサイトを見ろというものだった。
 反日左翼の実態
 サイトを見ると、いままでなんとなく、変だと思うことが、きちんと説明してあった。日本の国を食い物にしている連中がいることが書いてある。うちのおやじなんかが「○○なんかと関わりをもつな」ってよく言ってたことの説明だった。読むと、確かに酷い事ばかりだった。目が覚めたというか、ショックというか、日本の敵に対して怒りさえ覚えた。それまで新聞を鵜呑みにして自民党なんて潰れてしまえと思っていたが、保守の考えを理解し、なんとなくの左から意識的な右へとポジションを変更した。それはもしかしたら、三十路も過ぎて、妻と子供という家族ができて、守るものがある立場になったからかもしれない。とにかく、真実を知ったことで、まっとうな人になれた気がした。持つべきものは親友と、ヒロに感謝した。ヒロに連絡すると、奴も最近インターネットで反日の実態を知って、同じようにショックを受けたみたいだった。ただ、ヒロにしてみれば、職場なんかで民族主義的な話はできないので、普段会うことがない俺を信用して引っ張り込んだみたいだった。それで、お互い、昔のことなんかを思い出しメールなんかで頻繁に連絡しあうようになっていた。
俺らの行ってた高校は公立で、今考えれば、日教祖の教師が多かったんだと思う。日の丸反対とか、君が代反対、日本は戦争で悪いことをした、だから謝罪と賠償をしないといけない。事あるごとに特定の教師たちが何にも悪くない俺らに攻め立てるように、繰り返し反日演説をした。俺はうんざりしてたから、そういう行事はサボったりしていたが、当時は、何かが抜かれたような、何かを無理やり飲み込まされたような、気持ち悪い教師たちが、なんでそんな反日活動をしているのかまでは考えなかった。そんなに日の丸嫌いなら、日本から出てけよって思うと同時に、教師に対してほんの少し残された尊敬の念から、やっぱり日本は悪いことをしたのかもしれない。だったら、うんざりしても、黙っておこうかと考えることもあった。
だから結論としては、今で言う自虐史には触れないことにしいた。でも、よく思い出してみたら、その当時からモリは「南京大虐殺は嘘なんだ。」って言っていた気がする。そんなわけだから、国語の金本が授業の時間を使って、日本は戦時中ひどいことをしたっていうのをまくし立てて話したのを聞いて、俺はなんとなく不愉快に思いながら聞き流していたが、モリは俺とヒロを誘って、その教師の家に火をつける提案をしてきた。「あいつは国賊だから、家族ごと焼こう。」しかし、殺すまでのことはないという結論で、とりあえず金本の白いマークⅡを燃やした。物理や化学が得意なヒロは自然に発火したように、ペットボトル、電池、百円ライターをなんかを使って、見事に車を燃やした。そんなこともあったので、モリにヒロと俺が日本を中国朝鮮の特亜から守るために色々話しているとメールを入れたら、モリもようやくそういったことを話せる人を見つけたみたいで、すぐに参加した。政治的な話なんて高校生の頃はしなかったが、二十年を経て、三人が同じような考えを持ち、以前のような交流を持ち始めたことに、不思議な安堵感を覚えた。
「バトルフィーバーって、五大陸の戦士が集まってたっけ?アジアがバトルジャパンで、ヨーロッパがバトルフランス、アフリカがバトルケニア、アメリカはミスアメリカで「バトル」がないんだよ。そんで、もう一人が思い出せない。ヒロ、覚えてる?」
「やまちん、けっこうおぼえてるね。あれだろ、俺思うに、もう一人は、バトルチャイナ?いやバトルソビエト?とにかく共産圏だったよ。赤っぽくて、星のマークがあった。」
「惜しいね。正解はバトルコザック。コザックダンス踊って変身してたよ。ソ連から来た日本人の設定だった。たぶんシベリア抑留とか忘れないように挿入したんだと思う。スーパー戦隊って、よく考えられていてるよ。ついでに、今やってるのはサムライ戦隊シンケンジャー。見事だよね?うちの息子もすっかりはまっているよ。良識のある大人たちによって、子供の頃から教えているんだよ、日本の国土、平和ももちろんだが、伝統、文化も守らないといけないって。いま、サムライってブームだからね。一応保守の自民からクソサヨ民主に政権交代したけど、良識的な日本人なら不安になるよ。そこで、サムライって存在が気になりだしたんだ。理不尽な侵略を許してはならないってみんな、心の奥では思ってるんだよ。しかし、日教組の反日教育が染み付いていて、愛国的な発言がなかなかできないでいるよね。」
「たしかにサムライブームだよな。野球の国際試合でもサムライジャパンってやってたし、国防の板でも念力植物サムライが出てきてんじゃん。抗麦パルチザンを組織しようって言ってるけど、あれってさあ、俺思うに、抗米パルチザンって、もろに反米唱えたらCIAに消されるから、あえて抗麦パルチザンって書き込んでるんじゃない?麦の侵略って言ってるけど、言いたいのは米国の侵略なんだろ?でもさあ、保守って基本的に親米だろ?だとすると抗麦パルチザンって結局、親中路線で、共産左翼寄りになるんじゃない?一見、右巻きに見えるかもしれないけど、よく考えれば、回りまわって逆回転ってことになるんじゃない?それに、パルチザンって言い回しも北朝鮮の抗日パルチザンから来ているっぽいよね。まあ、それは置いておいて、結論としては、俺は親米保守でいいんじゃない?って思ってるんだけど、やまちんとかモリはどうなの?」
ヒロのストレートな意見に、モリと俺は少し黙った。ここはなんて言えばいい?難しいところだ。基本的に俺は反米だ。アメリカが日本を言いなりにさせようとしているのは間違いない。だからといって、中国は嫌いだ。チベットみたいになりたくない。まだ、アメリカのほうがましだから、積極的ではない、嫌いだけど親米というのが自分の中の落としどころだろう。しかし、それは自分の知識の範囲での判断であって、モリみたいに知識豊富だったら、まったく違う見解を示すかもしれない。それに、ヒロも何か知っていて、そういう意見を言っているのかもしれない。ここは勝負どころである。思慮が浅いところを見せてはならないのだ。
「結局、右左に単純に分かれてないからね。まず右、親米保守、戦後のGHQの指導を受け入れた、いわゆる戦後レジーム。小泉はまさにこれで、郵政民営化って言って、アメリカの要求どおり国民の大事なお金を丸裸にしたんだ。次の安部は脱却しようとしたんだよ。だから支持を落とされたのかもしれない。よくよく考えると、国粋主義で言えば、右ではないような感じがするけど、まあ、日本にとっては収まりがいいんだよ。次に反米保守。俺はね、どちらかというと、本心は、ここなんだ。アメリカは実際、第二次世界大戦に勝ってから、ずっと日本を支配しているんだ。軍を放棄させ、安保とかいって、いたるところに基地を作って、日本を中国、ソ連の共産陣営に対する壁にしたんだ。そんな中、日本は軍という牙を抜かれたけど、今度は経済で頑張って世界を覇権しようとした。そしたら邪魔になるからって圧力かけてくる。思いやり予算なんていって、間違いなく日本を植民地と思っているんだろう。じゃなきゃ、ひ弱なちっぽけな金持ち。ジャイアンとスネ夫の関係だよ・・いいたいことは山ほどあるけど、とりあえず、次は左。反米革新、中国共産党万歳の連中だよ。日本を中国に売ろうと思ってる連中だ。核ミサイル向けている北朝鮮に対しても媚びへつらうクズだ。もしくは在日連中だよ。反日の中心、日教組もここだろうな。話にならん。次に親米革新。アメリカっても東海岸のインテリ層リベラルに限っていて、南部の田舎ものは相手にしてない、そんなアメリカ人を理想とするところだ。オバマ政権がまさにそれだ。こんなのは、外人が言うことが正しいっていうインテリ気取った、もとは田舎もののただの馬鹿の集団が支持する。ついでに「人権人権」ってさわぐお人よしでもある。で、その四つ以外に加えて、右には民族主義、国粋主義がいる。で、左にはアナーキストと気持ち悪い人権弁護士もいる。あと、プロ市民。こいつらみんな貧乏人だから力ない。ほっとけばいい。まあ、とにかく、これだけ分かれて、ある部分ではくっつこうとしたり、考えを取り入れたりしてるから、複雑なんだ。右から左へ、左から右へってのはいくらでもあるし、よく考えたら革新とか、結果、保守となりました。ってこともある。あと、天皇陛下の存在をどうとらえるかによっても、変わってくるね。」
知っている範囲で、思いつくまま言ってみた。二人とも黙って聞いていた。これだけキーワードをばら撒けばヒロもモリもどうやって返そうか悩みどころだろう。
「僕の考えは、右とか左に分ける考えも大事だけど、結局、単純に考えたら経済が中心になっているだけの気がするんだ。ヒロもやまちんも営業職だからわかるだろうけど、結局、お客様第一主義なんだよ。日本の貿易相手国第一位、中国。輸出十七兆円、輸入十五兆円。今のところ、中国は日本の商品を買っていただいているお客様。そして第二位アメリカ、輸出十六兆円、輸入八兆円。ここはもっと大事なお客様。なにより貿易黒字が一番多い。主要お取引先様が「ああしろ、こうしろ」って言う場合、逆らえるか?首を縦に振るしかないだろ?内政干渉に腹立てて貿易からそっぽ向いて内需拡大っていっても、長い目で見たら日本は疲弊していくよ。やっぱり日本は輸出に頼っている。だから、その主要な二国に対しては言う事を聞くってのも、ある程度、仕方ないんだよ。変なこと言って、あの二つにそっぽ向かれたら、たちまち日本は沈むよ。ついでにいうと、ヒロが嫌いな反日国家韓国は輸出六兆円、輸入三兆円で、やっぱり大事なお客様。嫌な奴でも、お客さんなら頭下げるだろ?戦争がない分、商売が重要になってるんだよ。」
 「それはみんな百も承知のことだろ?俺思うに、だからって、なめられっぱなしでいいのかってことなんだよ。国家とか誇りってのは商売とは別にあっていいんじゃねーのか?中国だって政冷経熱って割り切ってるし、日本だって割り切っていいんじゃない?」
 「まあ、そこはヒロの言うとおりだね。実際、経済が優先で、政治なんて民衆のはけ口みたいなところがあるからね。ただ、政府だって選挙で勝つには民衆の支持が大事だから、あんまり下手なこといえないんだよ。ついでにいうと民衆の考えなんて大マスコミの受け売りだから、大マスコミの偏向が問題なんだよ。で、マスコミを支えているのが企業。やっぱり経済なんだ。今まで上手くいってたのは、日本の企業がスポンサーだから日本に有利に働いていたんだけど、外資も増えて日本の企業もグローバル化が進んだら、いろんな圧力はかかってくるし、それに乗じて反日も言論封殺を目論んでいる。やっかいな時代だよね。」
 ここで三人、ため息を漏らす。結局、現在は、右巻きの俺たちは少数派にすぎない。モリの言う様に殆どの連中が、なにも考えないでテレビの言いなりになっている。おかげで多数はみんな左に偏ってしまった。
 「実際、左巻きの連中は何考えているんだろうね?こんなに異常犯罪が多くて、近所の人間とも口をきかないで、知らない人に話しかけたら通報されそうな、まっとうなコミュニケーションが死んだ世の中なのに、助け合いだの話し合いだの夢みたいなこと言って、何を期待しているんだろう。やさしさ最優先で、上手くいかないことや、気に入らないことは政治責任にして、駄目な連中は義務を果たさないで権利権利って、乞食みたいに金をよこせって言う変な社会だよ。まともに頑張る人が頑張らない人に報いる社会なんておかしいだろ?共産主義よりたちが悪い。とにかく皆、甘やかされすぎなんだよ。厳しくするべきだ。」
「やまちん、熱いね。でも、左巻きが多数だから仕方ないんじゃない?それよりか、思うに在日外国人なんとかしないといけないな。とくに韓国人。帰化しないで、在日特権で税金払わなかったり、優遇されているんだろ?たちの悪いクレーマーだよ。あいつらめちゃくちゃだからな。俺の知ってる下請けの工場で、労働組合が改善要求出してスト起こしたんだ。それも組合長が在日韓国人で、徹底的にやったもんだから、工場の生産が長い間ストップして、結局、潰れたんだ。自分の勤めている会社が潰れるまでストライキするって、頭おかしいだろ?日本人だったら、なあなあの文化で適当なところで妥協するんだ。クソ在日のせいで、数百人失業者が出たんだ。それで今度は、失業した分、補償しろって。辛いもん食いすぎだろ?」
「まあ、半島の人間は気性が荒いからね。仕方ないよ、だって、日本人と朝鮮人って見た目はそんなに変わらないけど、中身が違うんだよ。まず、食べているものから違う。例えば国民一人当たりの野菜の年間消費量は、韓国は二百五十キロで世界三位、日本はその半分ぐらいで、四十位ぐらいだったと思う。ちなみに中国は三百キロ近く食べて世界二位。僅差で一位はギリシャ。食べてるものが違えば中身は変わってくるよ。やっぱり「お隣の国」とか言って身近に感じたりしないで、別の国だってお互い意識すりゃあ、反日だとか、嫌韓だとか起きないんだよ。白人ほど見た目が違えば、違うことやっても、同じじゃないってわかりやすいから、お互い気にしないけど、特亜なんか、距離は近いし、見た目は似てて、中身はまったく違うってのが問題なんだ。お互いイライラのもとになるんだよ。福沢諭吉の脱亜論も、根本はそこなんだと思うよ。どうしても過剰に反応することになるんだ。ヒロ、もし、そのスト起こしたのがギリシャ人だったらどう思う?」
「うーん・・ラテン系なら、過激であっても、仕方ないって思うかもな。って言うか、ギリシャ人って付き合いなんてないし、まったく分からないから、そういうもんなのかって思って、次から気をつけよう程度になるかもしれないな。もしかして、野菜ばっかり食べてると、気性が荒くなるの?」
「分からない。でも、菜食主義の人って市民活動とか権利運動とか好きだよね。まあ、イメージだけどね。逆に、日本人は魚をよく食べて世界で四位なんだけど、その他の上位三位がモルジブとかキリバス、アイスランドで、どこものどかな国なんだ。周りが気性が激しいんじゃなくて、魚食べてる日本人が、単にお人良しなだけかもしれない。外国人は日本に来て、日本人は親切って言うしね。それに日本人は本来、肉を食べない人種で、中国、朝鮮ではいろいろな肉を古来から食べていた人種だから、そこも違いがあるよね。食べるもので違うってのはあるよ。」
「ふーん、モリはいろいろ詳しいな。でも、食い物での区分けって念力植物サムライみたいだな。もしかして、モリが念力植物サムライだったりして。」
「・・・まさか、そんなわけないだろ。」
俺の問いに、モリは何か気がついたのか、少し声が上ずった。たぶん、モリが念力植物サムライである可能性は低いと思うが、その嫌疑をかけられる事に対して迷惑に思っている感じだった。少し黙って事態の展開を待ったが、何もなさそうだった。ポイントはここではないらしい。だったら、何がポイントなのだろう?
「在日の連中も厄介だけど、もっと厄介なのが増えてきているね。中国からの研修生と称した派遣労働者。働きぶりは、いいんだけど、常識と良識がないんだよ。うちの会社の工場でも十人ぐらいいるんだけど、自動車専用道路を自転車で走って警察に呼び出されるのはかわいいもんだけど、問題は窃盗。スーパーに行って、普通に商品をかごに入れて、堂々と、自分が持ってきたレジ袋だして、金払わずに、袋に詰めるんだ。で、運悪くつかまったら、日本語出来ないフリをしたり、日本の常識を理解していないフリをする。初回は「次から気をつけて」って逃がしてもらうんだけど、二回目に同じところでつかまったら、スーパーの店長に一万円出して誤魔化そうとしたからね。自分の国みたいに賄賂がまかり通るって思ってるんだ。とんでもない連中だよ。」
「やまちんところにも、研修生いるのか。俺の会社にはいないけど、知り合いのやっぱり下請工場なんだけど、貧しくて研修生として働きに来ている中国人と、金持ちで、留学生として日本に来て、バイトで働きに来ている中国人が同じ職場にいるって奇跡が起こっているんだけど、同じ中国語話す仲間なのに、まったく会話が無いんだって。どう思う?っで、どっちかというと、留学生のほうが日本語上手で愛想がいいから、そこの社員もよく話すらしいけど、金持ちの中国人は礼儀正しく、良識もあるんだって。まあ、表向きだけかもしれないけど、研修生とはまったく違うみたい。やっぱりさあ、俺思うんだけど、貧しいから、めちゃくちゃするんじゃない?だとしたらさあ、日本も民主のせいで、経済めちゃくちゃになりそうだから、もっと壊滅的に不景気になって、結果、日本人の犯罪者も増えそうだよね。」
この話の展開はまずいんじゃないか?日本人の悪口は言わないほうがいいんじゃないのか?ここまで、特亜、アメリカ、左翼、菜食主義、念力植物サムライと出して、動きがなかったから、勝負に出たいのはわかるけど、まだ、その話は早い。もっと、小出しにすべきだ。ヒロは短気だから耐えられなかったのか?それとも、何か、考えを持って発言したのだろうか?核心に迫らず、バトルフィーバーJとかどうでもいい抽象的な話で済ませてきたのに、ここに来て、ストレートな会話が増えてしまった。それに続けばいいのか、まだわからない。ここは慎重に行くべきだ。さて、どうやって返そう。いや、待てよ、もしかしたら、とっくの昔にヒロやモリは侵略に対して降伏していて、俺にそういった話をさせようとしているのかもしれない。なるべく気軽に話そうと思ったが、残るためには、もっと、慎重になるべきかも知れない。しかし、単純に黙んまり決め込んで、口数を減らすことは、不要と思われ、危機的状況に置かれるような気もする。どうすりゃいいんだ。ルールのわからない試合に出されても、無駄に消耗するだけだ。とりあえず外国人が悪いという話にもっていかないと。
「とにかく、日本は侵略されていることは間違いない。外国人がこれだけ入ってきて、我がもの顔で窃盗、殺人、強姦をしているわけだから。それにアメリカ軍なんて、治外法権ってことになってる。そんなの許してたら、特亜の連中もそれに続くよ。それにイラン人とかブラジル人なんかもついてくる。日本は外国人犯罪の温床になるじゃないか。そうなると、外国人参政権ってのは断固反対しないといけない。あれって、選挙だけじゃなくて、公務員とか警察、自衛隊に入るのもOKってことなんだろ?」
「正確に言うと、外国人地方参政権だけどね。でも、地方なんて金もないし、人も少ないから、計画的な移民でもされたら、簡単に侵略、占拠されるよ。そうなったら武力なんていらないからね。それに、地方を許せば、そのうち中央も狙ってくるよ。これは本当にまずいよね。来た連中が義務果たす前に、無茶な権利を主張したら、最悪、日本人は奴隷になるよ。」
モリが上手に繋いでくれた。とりあえず、日本人が被害者的な立場であると主張しておけば、たぶん問題ないだろう。モリは侵略されてないみたいだ。ところで、ヒロはどうなのだろう。
「でもさあ、俺、思うんだけど、日本はそうやって、国土と利益を侵略されつつあるわけだけど、マンガとかアニメ、ゲームでは世界を征服してるよね。どちらかというと、子供向けのメディアばかりだけど、小さい頃から日本のマンガとかゲームに馴染んでいたら、大人になっても、しっかり頭に残ってるだろうから、日本のこと悪いようには思えないだろね。ジャンプとかの「友情、努力、勝利」なんて思想侵略はかなりメジャーになるだろうね。それに日本的な考え方が、小さい頃から知らないうちに根付くわけだから、日本に対して敵対しづらくなる。ゲームだってそうだろ?ゲームにはルールがあって、それを作ったのは日本だから、日本のルールがモニターの中で繰り広げられて、いつのまにか、子供たちに、日本製のルールが組み込まれていく。それで遊んだ子供たちが、そのうち国際社会で日本と付き合っていくのなら、日本にしてみれば、やりやすくなるはずなんだ。知らない間にスタンダード取れるわけだから。問題は、それを生かせるかどうかだよ。」
日本の良いところがようやく出てきた。ヒロ、グッジョブ!これで挽回できた。今日の議題は「日本を良くするために」だから、良いとこを見つけて、伸ばす発言をすれば趣旨に適う。それなのに、三人ともまず、日本の危機から述べて、その危機の原因を、敵からの侵略とし、ネガティブ発言しかしてこなかった。まさにこれこそ自虐史なのか、もしくは被害者意識なのかわからないけど、「がんばっていこう!」的な前向きな意見はこれまで皆無だった。これがポイントである可能性は非常に高い。なにも見えない状態だったが、光明が差してくるかもしれない。何事も考え方一つなんだ。
「それにさあ、そういう子供向けのメディア侵略だけじゃないよね。自動車の輸出も十分に侵略になるんじゃない?とくに車社会のアメリカで日本車が売れて、アメリカの名門が傾いたわけだから、十分な侵略になるだんじゃない?」
「あと、素材侵略ってのがあるよね。世界中のほとんどの精密機械、機器の中核部品素材は日本製だからね。例えば世界中に韓国製の携帯電話が出回ってるけど、中身は殆ど日本の部品だったりするしね。安いものは中国が作るけど、高くて、難しいものは日本製みたいな図式もあるし。とにかく日本は技術の上では間違いなく侵略国家だよ。あとやるべきことは軍需産業に侵略することだね。規制緩和して、制御や精度に関する他の追従を許さない軍用の中核部品素材を作って、各国の軍用工場に納品すればいい。そうすれば世界中の兵器の核心を握ることになる。結果、戦争になっても間違いなく勝つよ。解らないように細工して日本に弾が飛んでこないようにすればいいんだから。抑止力どころか、どこの国も日本が怖くて、逆らえなくなるよ。」
 ヒロに続いて、モリの発言。まさしく日本をよくする意見が出てきた。そろそろ、開放されるべきじゃないのか?目隠しされて、議題だけ与えられて三人で会話を続けてきた。ここが何処なのか、今何時なのか解らない状態で、ずっと、日本の現状をわかる限り話してきた。暗黙の了解で言っていけない言葉もあるのではと思い、さぐりさぐり話していたが、そろそろ緊張も限界になってきた。
俺たち三人は椅子に座らされ、両腕を縛られ、「トイレ」「水」の要求だけは聞いてもらえる状況だが、ストローと尿瓶のみの自由では、殺されてもしかたないとしか思えなかった。覚悟はしたが、家族もいるし、ここで死ぬわけにもいかない。
ネットの掲示板を溜まり場とし、各自三人で書き込みをしていた。電話で連絡を取りながら、国防の板で保守発言をして、賛同し、計画的に右傾の流れを作っていた。そこに念力植物サムライとかAKOB等の変なのが混ざってきて、そいつらを持ち上げたり、けなしたりして、スレをあげていた。活気も出てきて、書き込みもすぐに一杯になり、パート2、パート3とスレも続いていった。三人でそれを「侵略」と定義した。右傾化思想の侵略を続けていけば左に傾いた世相をひっくり返すことが出来るかもしれない。権利を主張し、義務を権利侵害として果さないで、わがままとも言える、開放、自由の行き過ぎにしか見えない世相にイラついていたし、正当性を論ずる姿勢、我慢したり、犠牲になったりする考え、歩調をあわしたりする慎ましい考えが、今まで多数を占めていたのに、いつの間にか少数派になろうとしていたことに三人で危機感を感じていた。思えば、高校の時は右にならえが多数派で、自分たちは体制に反抗的な少数派だったが、社会生活を送るにつれて、すっかり右にならえになったが、いつの間にか、そこは少数派の居場所になろうとしていた。どのみち、俺たちは少数派に所属しているみたいだ。反体制的な考えが体制になるという左傾化は矛盾だらけだ。そこが多数派になれば、みんなバラバラになる。世界が暴力もない希望溢れるユートピアならバラバラで構わないが、世界は弱肉強食で、弱い者がどんどん消されていく。言いたくないが、日本はもう強くない。弱い国だ。だったら、団結するしかないんだ。わがまま言わないで、みんなで同じ方向を向かないと、世界に食われてしまう。なんで、みんな解らないんだろう?平和ボケも甚だしい。弱体化を止めないと、息子たちの世代は貧困と治安悪化、無秩序の生き地獄になる。それにしても、なんで、何にも考えないで、わがままばっかり言う奴らが多数派で、俺たちみたいに、ちゃんと考えている人間が少数派になるんだ。正しい少数派なんて、気苦労が多くて、犠牲者みたいなもんだ。損な役回りだ。それに、いつも多数派は知ろうとしないし、だから、必ず、間違える。ウィンストン・チャーチルは「二十歳までに左翼に傾倒しないものは情熱が足りない、二十歳を過ぎても左翼に傾倒しているものは知能が足りない」って言ったそうだが、だとしたら日本人は情熱もなく、知能も足りない多数派が占める国になりつつある。それって、安保運動やら、ノンポリを通したクソ団塊がそれを象徴している。結局、あいつらのせいなんだ。
「産業による日本の侵略はうまくいってるけど、結局、それを面白くおもわない、妬んだ国々が、日本を窮地に陥れようとしている。頑張ったのに、いや、頑張ったから、狙われているんだ。それも暴力で脅されたり、難癖つけられたり、散々じゃないか。力の無い頭の良い金持ちみたいなもんだよ。カツアゲの的だよ。日本は金持っていて、頭もいいのに、丸腰だからスラム街でオドオドしてるんだ。すっげー屈辱的なんだよ。こうなったら、ピストル持つしかないんだよ。核武装しかない。」
早まった発言をしたかも知れないが、もう我慢が出来なかった。拉致されて、何も見えないで、自由を奪われて、閉塞間しかない中で、展望を語る辛さに、参ってしまった。
「まあ、アメリカの核の傘っていっても、いざとなったら、役に立つかどうかだよな。思うに、俺らが税金払って身の安全を警察に期待しても、こんな感じで解決できない場合もあるじゃない?・・・おい、誰か早く助けてくれよ!」
ヒロが我慢できずに弱音を吐いた。とたん、足音が聞こえ、ヒロが「ウッ」と嗚咽を漏らした。おそらく制裁を加えられたのだろう。この状況に気がついたときもそうだった。俺たちは三人で助けを求めたが、返ってくるのは、硬い拳だった。すっかり恐れてしまって、それからは開放されるために、議題に沿って会話をしていたが、そろそろ限界が近い。痛いのは嫌だが、出口がないのもつらい。もう、嫌だ。
「第二次世界大戦で日本は降伏したけど、もし、降伏しなかったら、ベトナム戦争みたいにアメリカがあきらめたかもしれないね。日本本土は滅茶苦茶になっただろうけど、こんなゆがんだ国にならなくても済んだかもしれない。屈したら、負けたら、ろくなことが無い。死ぬまで抵抗すればよかったんだ。」
モリが俺とヒロを励ました。まだ、終わったわけではない。支配された中でルールを信じるなんてナンセンスな話だが、反撃出来ない状況であるならば、できる限りの努力はするべきだ。もし、このまま殺されることになっても、敵に許しを請うようなことはするべきではない。俺たち三人は何にも悪くないからだ。もし、謝れば、してもない悪事を認めたことになる。そんな自己否定はしてはならない。こうなれば、そこは守りたい。自分を否定なんて絶対すべきでない。
「負け戦をしたら、東京裁判みたいなことになる。そうしたら、全部の罪を背負い込むことになる。それがあとを引いて、アメリカの支配が影で続いたり、六十年以上経っても、中国朝鮮の反日運動を許すことになってしまうんだ。アメリカは負けたことがないから、あんなに滅茶苦茶しても、正義でいられる。戦争にはルールがあって、軍人しか殺してはいけないってことになってるんだが、それだったら東京大空襲とか、広島、長崎の原爆投下なんて無差別殺人は、裁かれて当然だし、ベトナムで行われた枯葉剤とかも、もっと批判されて当然なのに、左翼連中さえ騒ぎもしない。ありもしない南京大虐殺なんかを問題にしている。そんな馬鹿な話があるか!朝鮮だって、日韓併合を過去の植民地支配だと騒ぎ立てるが、それ以上に、国土を戦場にされ、同じ民族同士で殺し合いさせられた朝鮮戦争の方がよっぽど問題だろう。反日より反共、反米が先だろ?日本が負けを認めたから、日本が全部悪いことになったんだ。だから、負けては駄目だ。死ぬまであきらめちゃ駄目なんだ。」
自分を奮い立たせる意味も込めて力説した。カラカラになった体の奥から、最後の力のようなものが出てきた。これで、あと二時間ぐらいは、意識を強く持つことができる。
「俺、思うに、あの、戦争は必要だったのか?そんな風に、意地をはったから、負けたんだろう?どっかで、停戦交渉するべきだったんだよ。勝てるわけがない、しかし、負けるわけにもいかない。だったら、妥協点があったはずなんだ。俺思うんだ、東条英機が指揮をとったから、日本しか見てなくて、突っ込みすぎたんだ。もし、石原莞爾が指揮してたら、勝ち逃げすることが出来たんじゃないか?歴史に「もし」はないけど、満州事変では一万数千の関東軍で二十倍以上いた中国軍を破り、日本の三倍の国土がある満州国を作った男が、太平洋戦争を反対したんだ。一時退却して、体制を立て直すこともできたかもしれない。それに、石原莞爾が満州国で構想していた、王道楽土、五族協和が上手く行ってたら、満州国を中心としてアジアが共同体になれたかもしれない。そしたら、巨大な国になるだろうから、アメリカを恐れることもないし、反日とかうざいことをされることも無い。」
「ヒロ、お前の言っていることは左巻きになるんじゃないの?友愛社会主義のポッポ総理大臣と似たようなこと言ってるぞ。大丈夫か?確かに理想的だけど、無理だろう?」
助けてと言っただけで、殴られたヒロだが、左巻きの意見を言っても殴られもしなかった。この「日本を良くする」という議題の話し合いには、タブーは無いのだろうか?
もともとはモリがスポーツ新聞の三行広告に「日本を良くする会・男性三名募集、こちらは女性三名です。電話・・・」というあやしい記事を見つけ、興味本位で電話したことから始まった。待ち合わせ場所が決まり、「もしかしたら、これは新しい形のコンパで、上手にやれば、いいことができるかもしれない。」といった、淡い下心を抱いて参加した。まったく知らない相手、怪しげな情報、女三人、と興味と興奮をそそる内容に期待を抱いた金曜の晩だった。お互い家族には夜釣りに行くと嘘をつき、学生時代のように、使われる保証の無い避妊具を財布に忍ばせていた。行ってみると、そこそこ綺麗な若い女が三人待っていた。俺たちは心の中でガッツポーズをした。そこで油断したのだ。連れて行かれた変な暗い店に入ると同時に何か注射を打たれ、そこから意識が無かった。次に気がつくと、目隠しされ、手を結ばれ、椅子に座っていた。何やら機械からでたような無機質な声で「ニホンヲヨクスルタメノハナシヲシテクダサイ。ソレイガイヲクチニシタバアイハイノチノホショウハアリマセヌ。」と言われた。すぐに「ふざけるな」と応戦したけど、ごっつい拳に殴られて、戦意喪失した。仕方なく討論を始めたが、おそらく側で聞いている首謀者たちにとって不愉快なことを言ったら、危害を加えられるだろう、逆に、都合のいいこと、喜ばせることを言えば開放されると思っていた。暗黙の了解で、危険なものと思われることなるべく口にしないで、会話を続けていたが、結局、タブーは無いようだった。拉致した連中の目的はなんだろう?こんな小市民三人を誘拐したって、意味が無いような気がするし、俺たちの話なんて、インターネットの受け売りで、国家の秘密になるわけでもないキワモノ週刊誌のゴシップの延長みたいなものだ。そんな情報をどうするつもりだろう?いや、言うだけ言わせて、殺すつもりなのかもしれない。しかし、何で殺す?とにかく、解らない。もう、話すことも無いし、正直、ここまできたら、右も左も保守も革新も民主主義も社会主義でも、どっちでもいい。とにかく、目隠しを取って、縄を解いて、自由にしてほしい。一市民として、何も考えないでいい日常の生活を送らせてほしい。
「俺、思うんだけど、結局、そうやって、右とか左とか分けるのがいけないんじゃない?」
「そうだね。ヒロの言うとおりだね。日本の中で右と左、それ以外が、分裂して敵対してても、ちっとも日本は良くならない。」
「結局、日本の中に日本の敵がいて、そいつらが日本を侵略しようとしているってことか、それが一番問題なのに、海外とかに目を向けさせて、混乱させている奴らがいる。そいつらが一番悪い。」
「やまちん、でも、よく考えたら、それって、俺らがしてきたことだろ?ネットの板で煽ったわけじゃない?で、それがバレて、こうやって捕まったんだよ。いいことしていたつもりだったんだけど、結果、こんなことになったんだ。煽ったら都合が悪いやつらはいるよ。極左とか皆を解放するために、邪魔者を拉致したり殺したりするんだよ。暴力による支配をやるんだよ。でもね、極右も皆をまとめるために、邪魔者を拉致したり、殺したりするんだよ。やっぱり暴力による支配。一番困るのは、右も左も同じことをスローガンにしている。「社会をより良くしよう。」良い社会ってなんだよ?」
 ヒロが殺される覚悟で思うことを言ったが、なにも動きはなかった。こうなると、拉致したやつらの目的がまったく分からない。
「良い社会ってのは、たぶん、無いよ。でもさあ、俺は正直言うと、奇麗事をならべる左もいてもいいと思うよ。でなきゃ、右が横行すると、全体主義になっちゃうだろうから。守るものは守っていく、変えていくべきは、変えていく。保守、革新も両方あっていいんだ。多数派が横行して、少数派が虐げられても、そりゃ、仕方ない。少数派が、多数派をひっくり返しても、おもしろい。とにかくさあ、右と左、両方あっていんだよ。そいつらが争いたいっていうのなら、争えばいいんだよ。なんにも考えてないやつらが、巻き込まれて不幸になってもいいんだよ。嘘が横行したっていいんだよ。それで、戦争が起こったっていいんだよ。何でもかんでもが侵略しあってるのが世の中なわけじゃん?個人ができることは、嫌なものに対して侵略を拒むことぐらいだろ?あとは仲間を増やすこと。で、逆に自分たちで侵略していけばいいんだ。世の中はいつでも平和であって、同時に、いつでも戦争中なんだ。」
日本を良くするという議題に結論なんて言っても、変化は無かった。いつになったら、帰れるのだろう?嫌なものに対しての侵略は拒めばいいといっても、ここまで拘束されていては何もできない。しかし、普段の生活でも、人間関係とか、世間体とか、会社とかで、監視は行き届き、がっちり拘束されている。みんな、何かを恐れて生活している。
「でもね、左巻きの人でも、話してみればいい人ってことあるよね。」
「まあね、俺も中国朝鮮嫌いだけど、この前、朝鮮族の中国人のプログラマーと話したけど、礼儀正しく、まじめだったよ。でさあ、中国は日本のことを狙ってるのかって聞いたら、笑いながら、民族紛争が絶え間ないのに、日本のことまで考えられないよ。って言っていたよ。それにね、中国人は、まあ、彼がマイノリティだったからかもしれないけど、中国人のほとんどは中国共産党を心底支持してないし、反日愛国も一部で、殆どの人が日本のことに無関心だそうだ。わりと呑気な人が多いみたいよ。韓国人もせっかちで、変な礼儀に拘るとこもあるけど、知り合いになったら、悪くないよ。わりと世話好きなんだよ。俺が思うにさあ、食わず嫌いってのもあるよね。」
モリの問いかけに、反中嫌韓を言ってたヒロが意外なことを口に漏らした。表情を見ることはできなかったが、少し砕けた表情で、本音を言っているのだろう。俺の知っている万引きした中国の研修生も一度、見かけたことがあるけど、愛想良く、根っからの悪人といった感じではなかった。まあ、窃盗したのは間違いないけど、日本と中国の感覚の違いなら、仕方ないのかもしれない。ヒロが言ってた研修生と留学生の違いじゃないけど、貧困がなければ、教育が行き届き、良識を持てるようになるのだろうから、あと何十年もすれば、日中はいい関係をもてるようになるかもしれない。
「でも、警戒する必要はあるだろうね。だって、人間って何するか分からないってところって、あるじゃんか、まあ、これは外国人に限ったことでなく、日本人にも言えることだけどね。でも、食わず嫌いってのはあるよね。逆に、期待を裏切る場合もあるよね。たとえば、そういうお店行って、写真を見て、好みで、やってみたら、なんか、期待はずれの、スカスカな感じで、逆に、指名できなくて、お任せで、変なブスが出てきたけど、体の相性っていうか、馬が合って、すごく良くて、常連になるパターン。」
「やまちん、それ、なんの話だよ?風俗じゃねーか!」
「それ、でも、分かるわ。地味な女でも、すげーってパターンあるよ。綺麗なのに、まるで盛り上がらないって女もいるし。俺思うに、期待はずれは超がっかりだけど、期待以上は、過剰に評価が良くなる。」
「今回、ここに俺たちを連れてきた女たちは、見た目に良かったけど、あれも、期待はずれのパターンぽかったね。」
「モリがそれを言う資格はない。お前のせいだろ、こうなったのは!」
ヒロはいったが、責めるような言い方ではなく、笑いながらだった。俺が会話を変えたら、ようやく嫌な緊張がほぐれた。どのみち助かりそうにないのだから、少しぐらいふざけたほうが楽だ。しかし、あきらめたわけではない。ただ、長期戦にはなるだろう。
「地味な女って言えば、掲示板のブサヨもいい加減、地味なんだろうな。普段はまじめで、化粧っけもなく、健康食品食ってて、おとなしくて、その反動がネットでの左発言になっている感じで、たぶん、中途半端に太ってて、でも、異様に肌がきれいで、無駄に胸が大きい。」
「やるとなると、躊躇するが、やったとなると、はまる可能性高いな。感触が気持ちいいとか、まじめだから、変に努力して、つぼ押さえてくる可能性は高い。日常生活につながりが無かったら、異様に興奮しそうだな。つながりがあったら、ブス好きって思われる。それは屈辱。」
「そういえば、念力植物サムライがブサヨのところに行くって書き込んでいたけど、本当に行くのかな?」
「俺思うに、念力植物サムライは只者じゃないよ。あいつは、あの板だけじゃないからね。他でもけっこう出てるし、発言に整合性がとれるものが多い。たぶん、組織でやってるんだ。だから、ブサヨのところに行くのも簡単なんじゃないの?」
「そんなに、すごいの?だったら、俺らも抗麦パルチザンに参加するか?」
「マジで?まあ、組織に入れば、拉致されそうにないし。やまちん参加するなら、俺も参加してもいいよ。」
「ヒロも行くなら、付いて行くよ。三人で抗麦パルチザンに参加だね。」
・・・パチパチパチパチ・・・
 ふざけて話してたら、数人の拍手が聞こえ、腕を縛る紐が外された。アイマスクもそっと外された。ずっと真っ暗闇で、目が慣れるまでに少し時間がかかったが、俺が思っていた薄暗い裸電球がぶら下がる地下室ではなく、白い壁に囲まれた殺風景な綺麗な部屋で、三人は向かい合わせに座らされていた。お互いの顔を見て、とにかくほっとした。あたりを見回すと紺のスーツを着た男が三人座っていて、こちらを見ていた。それと、目隠しを取ってくれたジャージを着た体育系の学生みたいな奴らが、持ち場に戻るように、壁沿いに揃って立って、後ろ手を組んでいた。
 「君たちが話し合ったのは十二時間。思ったより短かっただろう?しかし、よく答えにたどり着いたね。抗麦パルチザンにようこそ!」
 スリーピースの紺のスーツ、白髪交じりのオールバック、一昔前の政治家のようないでたちの初老の男が響く声で言った。後の二人も同じような格好で、黙ってお辞儀した。
 「今から君たちには映画を見てもらうことにする。三十分もない、短い映画だ。それを見たあとに、参加にあたっての注意事項を確認してもらい、今日のところは解散。有事以外はここに此処に来ることはない。基本的に君たちは自由だ。」
 しかし、管理下に置かれることになるのだろう。変な組織に入ってしまった。これからどうなるのだろう。部屋が暗くなり、前の壁にスクリーンが下りてきた。ジャージの男たちが座ったままの俺たちをなんでもないように持ち上げ、スクリーンの方向に向けた。とりあえず反抗は諦めた。モリとヒロの横顔を見た。すごく疲れているようだった。そこでジャージの男に顔を捕まれ、すごい力で強制的に前を向かされた。しかたがない。映画をみることにしよう。カタカタと映写機が回る音、白黒のカウントダウン、パッといきなり映画の題名が映った「念力米」と書いてあった。
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