-日曜日、否定するところの神と、巻き戻る「世界」砕けた骰子(3)-

文字数 2,187文字

「鳥の王様が存在するというのなら正体含めてタケシ自身の口から語って頂こうではないか」

 マコトにはある()けがあった。
 マヌケなタケシがうっかり本物の鳥の王について、自ら()らしてしまうのではないかという、漠然(ばくぜん)とはしているがありえなくもない可能性が。
 だからそれを待ったのだ。
 隣でアキヒコは固唾(かたず)を飲んで見守っている。
 恐らく同じ考えなのだろう。さあ、喋ってみろタケシ!

「鳥の王とは文字通り鳥たちの王だ。これを見るがいい」

 そう言ってタケシは二人にスマホの画面を提示(ていじ)した。それはエッシャーのシムルグであった。
 当然二人ともその球面の中の画家と鳥は見たことがあった。

「そういえば鳥の王は『シムルグ』だとか『魂の運び手』なんてしばしば名乗っていたな、その画像はどうしたんだタケシ?」

「鳥の王のお姿を写したものとした頂いた画像だ!」

 横でアキヒコが一生懸命笑うのを(こら)えているのが哀れなほどだ。

「それが本当だとするとその球面に映っている絵描きがシムルグを作ったことになってしまうよ、タケシおまけにその絵描きはエッシャーという」

 そう説明してやったのだが。

「黙れマコト! やはりアキヒコと二人してオレを(たばか)りに来たんだろう!?」

「落ち着けタケシ、お前にとってシムルグとはちょっと前までカードゲームじゃなかったのか?」

 アキヒコが(たしな)めるが激高したタケシは手が付けられない。

「この画像は鳥の王から直接送られてきたのだ! 嘘だと思うならメールアドレスを見てみるがいい!!」

 缶の底に残ったビールを飲み干し再びがなると、ようやく息をついた。

 メールアドレス! そうだユウナから転送されてきたメールアドレスが記録に残ってるんじゃなかったのか?
 だがその期待もすぐに吹っ飛んだ。タケシの見せたメールはこうだった。



差出人:鳥の王>
宛先:卜部タケシ>
____________________________________________________
Re:鳥の王閣下の肖像について
201x年6月x日 22:31
____________________________________________________
かねてより所望のわたしの肖像である。
<添付画像>



iPhone……!
あいふぉんかよ……!

「――ああ、そうですかタケシさまはお金持ちですね」

 なんか思いっきり腰砕けた。

卜部山葵園(うらべわさびえん)は儲かってそうだし、その証拠にいいバイク乗ってるし……」

「うんそうだね……」

「タケシ、メアド見えてないからね、それ」

「むむっ!? どういうことだ?」

「なんか見る気もなくしたけれど、いいスマホ使ってるね」

「他人のアドレス帳まで盗み見てまで鳥の王探しするのも、なんだかなあと思えてきちゃってねえ、アキヒコ」

「そうだな、武井」

「でもそのシムルグだったら我々の方が詳しそうなんで説明しなくていいから卜部君」

 ぼくはひらひらと手を振った。

「は? なんでだよ」

「多分、マコトは君がこれから説明しようとしたペルシアの鳥の王の話とか、ボルヘスの30羽の鳥について言いたいんじゃないのかな?」

「――どうしてそれを! 鳥の王はマコトにも啓示(けいじ)を与えたっていうのかよ!」

「いやある種常識なので……」

「そゆこと」

「そんなことよりも君は鳥の王に尊称(そんしょう)をつけて呼んでるの、たまげたなあ」

「そんしょう?」

「閣下、の部分を指してマコトは言ってるんじゃないのか、タケシ」

 するとタケシは急に勿体(もったい)ぶって話しだした。

「敬称をつけて呼ぶ、それは王なるものにとって当然のこと。鳥の王には閣下呼びが相応しい。王の偉大さが解らんおまえらには余計なことかもしれないがな」

「オーケー、オーケー、タケシ。鳥の王の偉大さはこの吉村よく解った。だがなそれで田中さんを傷つけるようなことをするのは何か間違ってるのじゃないのか?」

「オレは(しつけ)のなってないリリスに対して、炎の剣を(もっ)て対処せよ。という鳥の王の命令に従ったまで」

「なんだって!? なにが炎の剣だ! お前がしてるのはただのDVだDVっ!」

「マコト、落ち着いて……鳥の王の新たな命令とやらが出てきたぞ? 炎の剣、はて?」

「回る炎の剣か雷の剣なら知ってる」

「それはカバラだね、恐らくタケシが言ってるのは大天使が持つ悪魔退治の剣――」
 
「ユウナが悪魔か鬼女だとでも? 自分の彼女をどうしたいのか、ぼくにはさっぱりわからん!」

「それもメールで指示されたのか?」

 アキヒコは尋ねた。

「いいや、鳥の王から電話があるのだ、毎晩」

「ウッホ」

「黙れよ、武井!」

 だがあまりに可笑しいのでタケシは激怒したが、ぼくは笑い出してしまった。

「なあ、タケシと鳥の王はどっちが受けで攻めなんだよ? どんな関係なんだよ? 男同士で毎晩電話してるとかってかなりヤバいから。自覚して」

「帰れ!」

 (つい)にタケシは叫んだ。

「アキヒコもだ、ふざけやがって! お前ら二人してオレをバカにしに来たんだろう!? もういい! 出てけったら出てけ!」 


武井メモ
シムルグ:サエーナ鳥とも呼ばれ、アヴェスターにおいては太古の海にある二本の大木のうちの一本に棲んでいた。この木の上でシームルグが羽ばたくと種子が巻き散らされ、その種子からはあらゆる種類の植物が生えた。しかし、ある時ダエーワたちによってこの大木が打ち倒されて枯れると、シームルグはアルブルズ山へと住処を移したという。
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