第1話

文字数 504文字

 寝返った足にパイプハンガーにかけた春物のコートが引っかかってバサっと床に落ちた。下まで下りきらないブラインドから朝日が漏れている。空き缶や脱ぎちらかした服や積み上げた雑誌で、足の踏み場のない部屋にホコリが浮かび上がる。
(あー……変な夢見たな……相当病んでるな……)
 独り言を言いながらカレンダーをみた。
(明日は一日かーーしかも、四月……社会人一年生や新入生とか、いつもと違うメンツが乗り込んでくる日だーー)

 そう、どの月も一日は仕事を休みたくなる。前月の反省や新たな目標……なんの進歩もない日常の繰り返しーー出勤前から気分はどん底だ。
 サラリーマン3年目の聡太にとって四月一日は特別な思い出がある日なのだ。

 朝、乗る電車の位置は改札口の近くと決めている。時間に余裕をもたないのが主義だ。いつも同じ時刻に家を出て、同じホームの同じ場所に並び、同じ改札口を出る。徒歩ルートは赤信号にひっかからないように二パターンを、電車の到着時刻の数秒のズレを考慮して選んでいる。会社に到着し席に着いて時計を見る。全てがうまくいったときは気持ちがいい。気のせいかもしれないが仕事がはかどる気がする。聡太なりの一種の心の暗示だ。
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