第2話

文字数 751文字

 一年前の四月一日。
 いつもと同じ時刻に家を出たのに、いつものホームの列には新しいスーツに身を包んだ若者たちがいた。仕方なくそのまま入ってきた電車に乗り込んだ。聡太には車両変更している時間はない。いつも流れるようなリズムで行動しているのだ。イレギュラーは予定にない。
 しかも、一日という日は、毎月、婦人会か何かの集まりがあるのか、比較的、高齢と思われる元気なオバサンたちが七、八人、次の停車駅で乗ってくるのだ。混雑だけなら我慢できるが、その団体のオバサンたちがこれまた、ずっとおしゃべりをしていて朝の通勤時間には実に目立ってうるさい。よりによって聡太の隣の席が空いたことにより、一番高齢と思われる女性が賑やかな譲り合いの末、ようやく座ったと思いきや、そこに集まるように前に立ちはだかり、また、おしゃべりが続くのである。
(ちぇっ、ついてないな……俺の今日は終わったな……)
 高齢の女性を前にして、席を譲ることも頭をよぎったが、譲ったところで混雑している車内で、聡太の状況は何も変わらない。それどころか悪化する事態を容易に想像できる。あまりの賑やかさにイライラして席を譲る気持ちになれず、ましてや注意する気にもなれず、結局、寝たふりすることが一番と心を落ち着かせた。

 一日以外の日は、とても静かな車内だ。出勤時はみな、スマホを見ているか本を読んでいるか、寝ているか、のどれかだ。でも、一日は、いつもの穏やかな気分はそこにはない。音楽を聴いていても、オバサンたちの話し声はそれを上回る音量なのだ。だから、会社に着いたときには仕事をする気分ではなく、とても疲れた状態なのだ。
 そんな出来事があってから、体内カレンダーが出来上がってしまい、一年が経とうとしているのに、一日の前の日は、よく眠れなかったりするのだ。
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