第2話
文字数 1,302文字
「おい、日南子。あれ貸せ」
「あれって、何よ」
休み時間。私の席に来て、ぶっきらぼうに言ってきたのは、同じバレーボール部の加瀬くんだ。
お互い、中学時代からバレーをやっていて、大会で顔を合わせたことがあったから、入学早々、自然とよく話す仲になっていた。たまたまクラスも一緒になり、中野くんを除けば、異性で一番仲がいいのは彼だろう。
「古語辞典貸してくれ」
「いいけど」
「今日、当たるのに、祐二に写させてもらうの忘れたんだよ」
「おかしいな。どうして、写すことが当然になってるのかな」
「そりゃ、頭のいい奴は利用するものだろ」
「ちょっと違う」
「いいよな、お前は勉強それなりにできるし、もういっそ、日南子のノートを写させてくれよ」
「お断りします!」
ふざけながら、私の肩を抱いてくる加瀬くんの腕をパシパシ叩く。
いつもこうだ。加瀬くんが私のことをからかって、それに私が抵抗する。この流れでスキンシップが多いということに無自覚だった私たちは、後に気付かされることになる。
「あ、あれ、中野くんじゃない?」
奈々の言葉にふと後ろを向くと、中野くんが男の子の落としたプリントを拾ってあげているところだった。
「中野くんらしい」
こういった気配りをみんなに気付かれないようにしている理由は、目立ちたくないから。
人に邪魔されずに静かに過ごしていたいから。
だから、誰にも気付かれたくないらしい。だったら、放っておけばいいのに、そうできないところが、私の好きなところであり、尊敬しているところでもある。
あ、お礼を言われたのに、頷いただけでどこかに行っちゃった。残された男の子が苦笑しているのは、中野くんがそういう人だと、みんながわかっているからだ。
そんな静かな中野くんが、大きな声を出して、目立つようなことをするとは思いもしなかった。
『中野の乱』
まさかの再来である。
***
ある日の昼下がり。今度は英和辞典を借りに来た加瀬くんと、私の席でふざけて遊んでいた時だった。
「加瀬! お前、何かわいい子と遊んでんの?」
突然、私たちの間に降ってきた知らない男の子の声に、思わず肩がビクッと上がった。背の高いその人は、加瀬くんの肩と私の肩に手を置いて、馴れ馴れしく抱き寄せてくる。
「佳樹 先輩……!」
「そう、俺、金井佳樹っていうの。加瀬と中学が同じだったんだよ。君の名前は何かな?」
「え、え……あの」
体格も良くて、茶髪で、制服も着崩していて。こちらの反応も気にしないで、グイグイ攻めてくる金井先輩が、私にはとても怖くて、うまく言葉が出てこない。
「佳樹先輩、すみません。ちょっとふざけていただけなので、こいつのことは」
「別にいいじゃん! 減るもんでもないし。ねぇ、名前教えてよ。今日、カラオケ行かない?」
「やっ、あの」
加瀬くんが必死に止めようとしてくれるけど、先輩の勢いは止 まることなく、私の手首を掴んで顔をのぞき込んできた。何かされたわけじゃないのに、怖くて、気持ち悪くて、体が震えてくる。
誰か、誰か、助けて! 中野くん!
私が心の中で叫んだと同時に、がたんと大きな音が教室に響き、ザワザワしていた教室内が一瞬で静まり返った。
「あれって、何よ」
休み時間。私の席に来て、ぶっきらぼうに言ってきたのは、同じバレーボール部の加瀬くんだ。
お互い、中学時代からバレーをやっていて、大会で顔を合わせたことがあったから、入学早々、自然とよく話す仲になっていた。たまたまクラスも一緒になり、中野くんを除けば、異性で一番仲がいいのは彼だろう。
「古語辞典貸してくれ」
「いいけど」
「今日、当たるのに、祐二に写させてもらうの忘れたんだよ」
「おかしいな。どうして、写すことが当然になってるのかな」
「そりゃ、頭のいい奴は利用するものだろ」
「ちょっと違う」
「いいよな、お前は勉強それなりにできるし、もういっそ、日南子のノートを写させてくれよ」
「お断りします!」
ふざけながら、私の肩を抱いてくる加瀬くんの腕をパシパシ叩く。
いつもこうだ。加瀬くんが私のことをからかって、それに私が抵抗する。この流れでスキンシップが多いということに無自覚だった私たちは、後に気付かされることになる。
「あ、あれ、中野くんじゃない?」
奈々の言葉にふと後ろを向くと、中野くんが男の子の落としたプリントを拾ってあげているところだった。
「中野くんらしい」
こういった気配りをみんなに気付かれないようにしている理由は、目立ちたくないから。
人に邪魔されずに静かに過ごしていたいから。
だから、誰にも気付かれたくないらしい。だったら、放っておけばいいのに、そうできないところが、私の好きなところであり、尊敬しているところでもある。
あ、お礼を言われたのに、頷いただけでどこかに行っちゃった。残された男の子が苦笑しているのは、中野くんがそういう人だと、みんながわかっているからだ。
そんな静かな中野くんが、大きな声を出して、目立つようなことをするとは思いもしなかった。
『中野の乱』
まさかの再来である。
***
ある日の昼下がり。今度は英和辞典を借りに来た加瀬くんと、私の席でふざけて遊んでいた時だった。
「加瀬! お前、何かわいい子と遊んでんの?」
突然、私たちの間に降ってきた知らない男の子の声に、思わず肩がビクッと上がった。背の高いその人は、加瀬くんの肩と私の肩に手を置いて、馴れ馴れしく抱き寄せてくる。
「
「そう、俺、金井佳樹っていうの。加瀬と中学が同じだったんだよ。君の名前は何かな?」
「え、え……あの」
体格も良くて、茶髪で、制服も着崩していて。こちらの反応も気にしないで、グイグイ攻めてくる金井先輩が、私にはとても怖くて、うまく言葉が出てこない。
「佳樹先輩、すみません。ちょっとふざけていただけなので、こいつのことは」
「別にいいじゃん! 減るもんでもないし。ねぇ、名前教えてよ。今日、カラオケ行かない?」
「やっ、あの」
加瀬くんが必死に止めようとしてくれるけど、先輩の勢いは
誰か、誰か、助けて! 中野くん!
私が心の中で叫んだと同時に、がたんと大きな音が教室に響き、ザワザワしていた教室内が一瞬で静まり返った。