第3話

文字数 1,581文字

どうも、酸っぱい葡萄と申します。
最近の私は、と言うと 怪物さん/平井堅 featあいみょん に4年の時を経て再びハマっています。

 訳の分からない病気が蔓延するから、と言っていきなり高校が休校になった4年前、部活もやりたかったし友達とも会いたかった。忙しくて見ていなかったテレビニュースで、2月ごろから少しずつ話題になっていたらしいあの伝染病が、いきなり私たちに牙をむいたのは高校が春休みに入るころだった。
 学年末テストが決行され、その後すぐに休校措置が取られた。結果が帰ってきたのは4月になってから、新しいクラスでだった。久しぶりに見るみんなの顔はマスクに覆われていて、まだ肌寒いのに、窓は全開で教師は除菌スプレーをお守りのように持っていた。
 いつ終わるか分からない休校期間、身体がなまっていく感覚が怖かった。卒業後に聞いた、休校期間中に先取り学習を済ませて難関大に合格した友達の話、私が後悔と羨望に狂いそうになったのはまた別の機会に話すことにしようと思う。
 わずかに出ている課題をこなして、申し訳程度に走り込みをして、毎日を過ごしていたあの期間。もう何をしていたかなんてはっきりとは覚えていないのだけれど、聞いていた音楽だけは覚えている。
 まるまる4年越しに聞いたこの曲で、私はあの日々のほんの些細な部分を思い出す。
 大好きだった一つ上の先輩とDМが始まったのが休校期間だった。毎日五時ごろに走り込みに出かけた。道中は奇妙なほど、高校生ののる自転車がいなかった。汗をかいて、帰ってきて音楽を聴きながらストレッチをしていると母の作る夕飯の香りがしてくる。今は離れている地元の、あの時期の匂い。自宅の匂い、めっきり無くなった汗をかいた時の感覚。

 大学生活も後半に入った私が今、この曲を聞いて感じるのは、歌詞に共感できるようになった自分である。懐かしさは、高校生の時聞いていた音楽ならどれでも感じる。それとは一味違う色が、この曲にはある。

いなくなって欲しいのは あなた じゃなくて あなたを好きな私、あなたじゃなきゃ嫌な私。

 私が恋に敗れたのはちょうど一年前のことなのだけれど、未だに思いきれない心が、この歌詞で露わになる。まさしく、『あたしが歌った鼻歌』を、誰にも気づかれなかった取るに足らないそれを、『あなただけが気づいてくれ』たのだ。もちろん、高校の時とは別の人である。
 人生経験の違いと言えばそれまでだけれど、たった3年の違いがそこまでの違いを生まないことは、他の人を見ていれば分かる。やはりかの人は対人関係に賢さがあった。それも私好みの。
 だから、あの人が私を選ばなくてもなんの疑問も浮かばない。
 人は一緒にいて楽な相手、言い換えるならば甘えられる相手を選ぶからだ。私はあなたに救われた時点で、あなたと対等になる機会を永遠に失った。始まった時には終わっていた恋だった。
 敗れた後も、関わりが途切れないのがグロテスクな仕打ちだった。私より後にあの人と出会った人が、私よりも仲良くしているのが許せなかった。お互いに何事もなかったようにふるまうのは暗黙の了解だったけれど、あの人の他の人には出さない微かな遠慮と優しさに気付くたびに、私は体を搔きむしりたい衝動にかられた。
 1年が経ってタブーの範囲が狭くなり、互いにしか分からない薄さの薄氷を踏むような会話もした。私は、あなたにだけはそれを言われたくない、と思うことを止められず、結局は何を言われても心が乱れるのだと悟った。
 思春期もほとんど抜けて、ある程度の精神的安定を獲得できている私の心を、無条件に乱すことのできる人はあの人だけだった。臆病な私は、相手のいるあの人に、酔った時にしか連絡できない。その行為自体が、忘れられていないと叫んでいるも同然なのに。

 とりあえずの安心すら、喉から手が出るほど欲しかった。
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