第9話
文字数 1,386文字
今日は特別天気が良かった。
太陽を遮る雲が一つもないから、日差しが迷うことなく肌に照りつけてくる。
見上げれば、空はどこまでも透き通ったブルーだ。
blueの語源は、古フランス語のbloなんだよと、お母さんが教えてくれたことが前にあった。たしか、dloは、「輝くもの」という意味だったはずだ。
たしかに、頭上に広がるこの色は、アクリル絵の具で塗ったみたいに鮮やかなブルーで、太陽の光を吸収して輝いている。
キラキラしているのとは違う。全体が輝いてるって感じだ。
青々と茂った新緑が、隙間から太陽の白と空の青を覗かせ、日差しで半透明になったからだが重なったところに影を落としている。
いつも通っている通学路でも、天気が違えば顔もずいぶんと変わる。
数日前は曇りの日が続いていて家々の屋根もくすんでいたのに、今は照りつける日差しでそれぞれの屋根がテラテラと光を放っている。
私の家の周辺は住宅街で、人通りもあまりない。そのせいか、都市に近いところよりも自然が豊かだ。
けれども、学校に近づくにつれ、出勤する人や学生などがたくさん現れてくる。人が多くなると、相対的に自然も少なくなってしまう。
きれいな自然の景色が、あの建物や人々の、カラフルで目を刺すような色でぐちゃぐちゃに塗りつぶされるのはすこぶる不快だ。
自然と人では、どうしてこんなにも違うのだろうか。
目の前を、しゃがめば自分と同じくらいの大きさなんじゃないかと思うような、大きなランドセルを背負った小学生が通っていった。
その手には、一体どこで拾ったのか、大きな木の枝が握られていて、楽しそうに振り回して遊んでいる。
それを見て、きっと人間は、社会で生きていくうちに汚く黒く染まっていってしまうんだろう、と思った。だから、皆きれいで美しいものを身につけて、それを隠している。
でもそれは、自分もおんなじなのかもな、と柔らかくて重いものがコツっと背中にあたった。ぼんやりと自分の足元に視線を向けると、道端に生えてる草が、コンクリートの割れ目から芽を出していた。
左手を大きく広げて、手の甲を見つめる。
汚く染まってはいない、とは思う。でも、綺麗かと言われたらそうは思わない。
綺麗な人は、ハクみたいな人のことを言うんだろう。
真っ直ぐで、内側から光が溢れちゃうような人。
この前の眩しくて太陽みたいな笑顔が、瞼の裏に浮かんだ。
どうやったらあんなに綺麗なままで生きられるんだろうかと思ったが、すぐに考えるのを辞めた。
綺麗なままでいられる生き方を知ったって、私は絶対にそうなれない。
今の自分や、周りのクラスメイト達の生き方が、きっとこの世界では一番生きやすいものだって、知ってしまったから。
荒波立てずに過ごして、決して波に逆らわない。波に逆らって歩けば、足元をすくわれて転んでしまう。
1年のときの私は、その生き方から外れてしまった。だからアミたちに目をつけられてしまったんだ。
正しい生き方。それを知ってしまった自分は、もう生まれたときの真っ白なキャンパスじゃなくて、濁った暗い色が滲んでるんだろう。
気づいちゃったら、もうあのときの無邪気な自分じゃなくなる。
目の前をせかせかと歩く、目の下に薄青いくまを作った人たちが、皆同じ顔をしているように見えた。
自分も、あんな顔をしているように見えているんだろうか。
太陽を遮る雲が一つもないから、日差しが迷うことなく肌に照りつけてくる。
見上げれば、空はどこまでも透き通ったブルーだ。
blueの語源は、古フランス語のbloなんだよと、お母さんが教えてくれたことが前にあった。たしか、dloは、「輝くもの」という意味だったはずだ。
たしかに、頭上に広がるこの色は、アクリル絵の具で塗ったみたいに鮮やかなブルーで、太陽の光を吸収して輝いている。
キラキラしているのとは違う。全体が輝いてるって感じだ。
青々と茂った新緑が、隙間から太陽の白と空の青を覗かせ、日差しで半透明になったからだが重なったところに影を落としている。
いつも通っている通学路でも、天気が違えば顔もずいぶんと変わる。
数日前は曇りの日が続いていて家々の屋根もくすんでいたのに、今は照りつける日差しでそれぞれの屋根がテラテラと光を放っている。
私の家の周辺は住宅街で、人通りもあまりない。そのせいか、都市に近いところよりも自然が豊かだ。
けれども、学校に近づくにつれ、出勤する人や学生などがたくさん現れてくる。人が多くなると、相対的に自然も少なくなってしまう。
きれいな自然の景色が、あの建物や人々の、カラフルで目を刺すような色でぐちゃぐちゃに塗りつぶされるのはすこぶる不快だ。
自然と人では、どうしてこんなにも違うのだろうか。
目の前を、しゃがめば自分と同じくらいの大きさなんじゃないかと思うような、大きなランドセルを背負った小学生が通っていった。
その手には、一体どこで拾ったのか、大きな木の枝が握られていて、楽しそうに振り回して遊んでいる。
それを見て、きっと人間は、社会で生きていくうちに汚く黒く染まっていってしまうんだろう、と思った。だから、皆きれいで美しいものを身につけて、それを隠している。
でもそれは、自分もおんなじなのかもな、と柔らかくて重いものがコツっと背中にあたった。ぼんやりと自分の足元に視線を向けると、道端に生えてる草が、コンクリートの割れ目から芽を出していた。
左手を大きく広げて、手の甲を見つめる。
汚く染まってはいない、とは思う。でも、綺麗かと言われたらそうは思わない。
綺麗な人は、ハクみたいな人のことを言うんだろう。
真っ直ぐで、内側から光が溢れちゃうような人。
この前の眩しくて太陽みたいな笑顔が、瞼の裏に浮かんだ。
どうやったらあんなに綺麗なままで生きられるんだろうかと思ったが、すぐに考えるのを辞めた。
綺麗なままでいられる生き方を知ったって、私は絶対にそうなれない。
今の自分や、周りのクラスメイト達の生き方が、きっとこの世界では一番生きやすいものだって、知ってしまったから。
荒波立てずに過ごして、決して波に逆らわない。波に逆らって歩けば、足元をすくわれて転んでしまう。
1年のときの私は、その生き方から外れてしまった。だからアミたちに目をつけられてしまったんだ。
正しい生き方。それを知ってしまった自分は、もう生まれたときの真っ白なキャンパスじゃなくて、濁った暗い色が滲んでるんだろう。
気づいちゃったら、もうあのときの無邪気な自分じゃなくなる。
目の前をせかせかと歩く、目の下に薄青いくまを作った人たちが、皆同じ顔をしているように見えた。
自分も、あんな顔をしているように見えているんだろうか。